172 表現
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
2/10 21:40
「大丈夫だもんあっち行っててよね~」
「いやいや、ダメだったじゃん軽く小火(ぼや)騒ぎだよ そもそもなんで女性陣だけに拘(こだわ)るかな」
軽く溜息を吐きながら残りの材料に目を向ける
「やめて、見ないで!来ないでよ!触んないで! 変態!ロリコン!三十路!」
「怒涛(どとう)だな、中二くらいの男子だったら泣くぞおい」
(待って?最後だけ事実だから!悪口っぽく聞こえちゃうから!)
「あれ、前にもなんかこんなのなかったっけ?」
「あったら台詞的に大分やべ~よ、多分ソレ俺触っちゃってるじゃん」
「でも~」
「でも~、、じゃね~よ」
憎たらしそうに口を尖らせながら物真似を披露する
「ムッカツク! あっち行け~」
「痛っ! 痛いって、危ないから」
ヘラで叩かれカウンター端へと追いやられたのでアルの手首を掴む
「狭いんだから暴れんな!大人しくしろ」
「いった~い放してよ、痴漢!セクハラ!」
(ヤメロバカ無理やりそっち側の人みたいにすんな)
「お前な~ あ~怖い怖い、すぐ手出すんだから、、ん?あれ?」
周囲の目線が痛い
「ジン殿、アルが痛がってる、やめてあげてくれないだろうか」
エルフは眉を下げ真剣な表情だ
「これは、弁解の余地無しじゃの」
赤鬼はにしし顔だが音量は上手く抑えている
「え、普通に引くんだが」
自分の身体を隠す様にしながらゲス顔をする巫女
「待てお前ら、経緯(いきさつ)見てたじゃん!?ズルくね? あとラフィはそんなに心配そうにするな地味に辛い」
・・・
「マスター、説明をしてもらえると助かるのだけれど?」
「Oh!色々な意味で一番辛いの残ってたわ、ボケ殺しかな?新手のいじめかな?それともあれか、浮気とかした後の奥さんかな?」
懸命にボケだかツッコミだか言訳を並べるのだがドールは無表情に、少しだけ小首を傾げて見せる
「冤罪(えんざい)だああああああああ」
店内に上手い事反響し、オチが付いたタイミングで男性陣が拍手をする
「いや~台詞だけ聞いてると酷いですね」
わざとらしく、乾杯とばかりに従者がグラスを上げている
「ふふ、ははは!流石ですねジンさんは」
「った~くよぉ、俺ばっかりこんなんじゃんか、、ん、あぁあんがと」
席に戻った勇士のグラスに従者が酌をする
(まぁ結果オーライか)
チラリと隣の緩んだ頬を見てからやけに美味い一杯を口にし、再び厨房の方を眺める
「お~今度のは上手く焼けたんじゃないかの」
「えぇちょっと焦げてるじゃん、、こんなの、恥ずかしくて渡せない」
後半の言葉は座敷までは聞こえない程小さい
「恥ずかしい事なんかあるか! アルが一生懸命作ったんだ大丈夫、うん、美味しっうあっちぃ!」
焼き立て、焦げた部分をひょいっと掴み口に入れたエルフの口内は常に火傷と戦っている
「それはそうでしょう、アナタ達は生身、何故素手で触ったのかしら?」
ドールがオーブンから一枚一枚丁寧に皿へと移す
「でも~う~ん」
バリバリバリッ
ザックザクザク
ボーリボリボリボ・・
後ろで大人しく座っていた少女?から咀嚼音が止まる
!?
アルが振り向くとシエルは食べかけの黒い物体をマジマジと眺めている
「ごめん、シエルなんか入ってた?」
「み、みころの(巫女殿) ほら、ペーしなさいぺー」
火傷中にも関わらず膝を折り自分の両手を巫女の前に出す
「お~?変なもんは入れとらんじゃろ~しあんだけ食べてたら今更じゃろ」
「、、ちっ」
一度舌打ちをすると椅子から立ち上り右手のグラスをカウンターへと置く
「ちょっと見とけ」
口の周りを拭うと食べかすがポロポロと地に落ちる
「え?う、うん?」
不思議そうな顔をする女性陣を背にし男性陣の方へと進む
「おん?どうしたシエル」
座敷へと上がって来る巫女にジンが不思議そうに声をかけるが目線はこっちでは無さそうだ
「如何しました?」
従者が膝を折りながら近寄る
「口の周り凄いな~って裾!? あ~あ~真っ黒じゃないですか」
鉄漿(おはぐろ)状態を拭った口元を手持ちのハンカチで綺麗にしながら袖を折るのだが当人は気にする事無く、もう一度手に持っている黒い物体を悔しそうな表情で見る
「シエル様?」
「やる」
かなり間があった
踏ん切りが付いたのか
いや、そうではない、泣く泣くと言った所だろう通常のクッキーであればもう指先の力で割れてしまっている
(まって、それ そんなにもか?)
ジンは後ろの女性陣の表情もありこの状況なので言葉にはせずにいる
「シエ」
バーーーーン!
バーーーーン!
急に大きな音が鳴り従者の言葉がかき消された
「な、なに」
「外だ!」
バルの声が上がる
メンバーは一斉に轟音の鳴る外へと駆ける
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