149 異形

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



12/14 13:00


「って  暇かよ!!」


誰も居ない喫茶店で亭主が一人ツッコミを入れる


「っ!あにゃにゃ!」


「あ」


子猫が一匹いた

急に大きな声を出したせいか日頃から大きな瞳を一段と大きくし、尻尾をぷんぷんに膨らませている


「ごめんごめん!ごめんよ~ 流石に誰も来ないとは思って無かったからさ~」


喋り返して来る訳では無いのだがついつい語り掛けてしまう


「カカカカカ」

決して和装のべっぴんさんが笑っている訳では無い

、、どうやら機嫌を損ねたらしく威嚇音を鳴らし、棚の上から降りる様子が無い


「あらら、ぷふっはそんな格好も可愛いけどな? しゃあない、じゃあちょっと待ってな~、おやつ干してあっから」


亭主は黒猫を残し、少し大きな籠を手に防寒着を羽織ると勝手口から外に出る



(うい~さみ~まだ降ってんのかよ)

少し積もって来た雪を見て両手を擦る


ビュービューと風が強い

小さな頃はテンションが上がったものなのだがこうも迷惑に見えてしまうのは年齢的なものなのだろうか

亭主は換気庫と呼んでいる新設した保存庫へと向かう


通常であれば気温や害虫の影響で駄目になってしまうであろう食料を高く吊るし、風通しを考え建てた小屋に干している

大根から白菜、果実に豆腐、試しに煉った米等々(魚も肉も臭いが移るので勿論場所を変えている)


コレはもしや転生したら使える知恵なのでは!?とか考えていたのだが普通に王都で使われていた


荒知恵でやるのも心細かったのでむしろ細かくシフから丁寧に教わりましたとさ




小屋の扉に手を掛け、勢いよく開く

「ほああさっぶ」


換気庫と言うだけあってしっかりとこの時期の風向きを計ってくれたシフに感謝だが痛い程の冷たい風が頬を通る


「ういい~」

(ちゃちゃっと今日の分持って、、)


「え?」


目の前の食料が荒らされている



いや



荒らしている存在がまだ眼前で汚く貪っている

すぐそこ、3~4m程の距離だ



・・・



刹那


本当に一瞬だけ固まった



様々な感情が一気にこみ上げる


まずは恐怖


しかし、そんなものを追い越し



憎悪と怒り



押さえられなかった



「てっめぇぁぁ!」

籠に入れてあった作業バサミを逆さに持ち、首元目掛け駆け出す





のだが



!?



「、、ぇ」


振り向いたソレを見て言葉も、、足も止まった



「ぎぃやあ!」

気付いたソイツの鋭利な腕が振り子の様に後ろへと下がる


「ぅ、あっ」

咄嗟に後退りながら顔を横に向ける


振りかぶった後は真っ直ぐに叩き落す形で下に落ちた

横に向けたのが良かったのか悪かったのかは分からないが右目の上と鼻先を擦(かす)めた



ドシン



尻餅を着きながら左頬を地に着いた


「いっ! くっそ」

袖で拭いながら扉の方へと力無く、よろよろと下がる


(なんでだよ)


異形は続けて二撃目を振りかぶっている


(どうなってんだ)


近くの、地に置いた籠を叩き投げ横へと転がる


振り下ろされた左腕、前足と言うべきか

その鎌の様な物は地に刺さった

今だとばかりにジンは跳ねる様に立ち上り、逆の食い散らかされた肉や魚の上をぐしゃぐしゃと走る


はぁ  はぁ


「き、ぎぃ  ぎぎゃああぁあ」

雄叫びを上げるソレはビクビクとまだ鎌が抜けずにいるのだが顔、首から上だけが千切れんとばかりにぐるりとこちらを向く


そして


笑ったかの様な口元で


見開いた瞳孔で


ジンの瞳をしっかりと見る



「くっ、うぅ」


逆の扉を勢い良く出ると店の方へ全速力で走る


「くそぉ! くそがぁ」

口からはどこかのロリ巫女の様な、そんな言葉しか出ない




(どうする)




(どうする!!)




店の扉を開き、すぐに閂(かんぬき)を下げ

カウンター裏の訓練に使っている木剣を手にする


はぁ  はぁ  はぁ


【殺す気で来ているモノ、、魔物や殺気立ってる者には効き目が無いので】

(だよな~  そう思うわ)

裏技は使えない


はぁ すぅ~ うっぐっ はぁ 


ず、ずずぅ


無理やりにでも呼吸を整え、近くの台拭きで強く顔の傷と目を押さえながら鼻を強く啜(すす)る



(くっそ、蟷螂ヤロウ  なんで)







(アイツと同じ顔してんだよ!?)







ガリガリ、バキバキ



入口から音がした


扉が割れ


ベギ ベギン!


閂(かんぬき)の半分が圧し折れる


「く、くるか」


ギ、ビキィ! バギャアアン


扉がぶち破れた!


だが

その派手な音と同時に


ドン、ゴロゴロゴロ


バタン!


ジンの足元に勢いよく転がって来た人程の大きさのソレと目が合った



グッときた



それは久々、だったからでは無い

確信は無いのだが恐らく


なんとかなる


そう思えてしまった



「あの生物は随分と乱暴なのね」

倒れたまま、目を見たままに口だけを動かす


「あまり良い気分にはならないのだけれど」


「え、ぁ は? な、なんで?」


彼女は何事も無かったかの様に立ち上がる




「確か、そう お久しぶりね 人間はこう言うのよね、違ったかしら?」










「マスタージン」


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