132 心火

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



12/8 12:40


「クッタ ウマカッタナ」


「はい、ご馳走様でした」


「ごちそうさまでした」


本日も二人が訓練を終え、共にお昼を食べ終えた所だ


「じゃあ、僕は仕事に戻るから良い子にしてるんだよ?」


「うん」


「オウ キーロ ガンバレナ」




ここ一週間で変わった事がいくつかある


まず、キーロがルイの野生児の様だった重たい髪の毛をバッサリと落とし、見た目がスッキリとしたボブカットへ変貌している

元々手先が器用な事もあるのだが、、今は亡き妹達の髪を整えていたのも兄の仕事だった為こなれたものである

しかしその変わり方に一番動揺したのがフェリスだ


起きる度、お風呂に入る度に「ダレダ!?」と確認が入る

それはボケなのか本気なのか分からない程で、いまだに朝から大騒ぎをしている事がある

その影響なのか当の本人は散髪する事に抵抗が出来てしまったらしく、未だに野生児カットのままである



次に、訓練やデータ解析の研究員から評判なのが

「急に性格が穏やかになった様に感じる」と言う意見

まぁ、同時に

「気味が悪い」と嫌味を言われてしまう事もあるのだが


キーロからしたら特別変わった様には見えないので単純に楽しい、嬉しいを見つけたからでは無いかと思っている


最近では二人して絵を書いている事が多い

買って来た小鳥の絵や花、ひまわりの絵画を真似てみたりキーロの似顔絵を描いてみたり

拙いながらも自らが気に入った物を絵画と並べ飾ったりもしている




今もまた


「チッチ ウゴクナ」

フェリスは獲って食うかの如く籠の中へと手を入れる


「駄目、そんな乱暴に掴まないで」

その背中を押さえつける様にルイが伸し掛かる


(買って来てあげて良かったなぁ)

「あ!そうそう、今日仕事終わったら少し外に行こう?」


「え?」


「ソト デレンノカ!?」


ルイは困惑した表情をするがフェリスの大きな尻尾は分かりやすい程左右へ揺れている


「大丈夫だよ、ちゃんと外出許可もらったから  すぐ近くまでだけどね?」


「ホントカ! スグ キーロ スグカエッテ」


許可が出ている事にルイは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべている


「ふふふ、楽しみにしててね きっと大きな花を見せてあげるから  じゃあ、行ってきます」


少し重い扉を出ると同時に

「イッテラッシャイ」

「いってらっしゃい」


急ぐ様に、素直に


その言葉が聞こえる













今日も担当する仕事やキドナからの調べ物をテキパキとこなした



時刻は先程夕方を過ぎた所

この国の王『ディーン』との対談会前である


(ちょっと早いけど先に入っている分には構わないのかな?)

他の者よりも仕事を早くに片付け、会議室の扉に手をかけている


「おいおいおい、キーロ  おい!」


上って来た部屋、いや箱

その 『エレベーター』が開き、4人の研究員がキーロを囲む



「お前さ~ついさっき聞いたよ? 流石に王様と対談があるとかは言えよ~」


「俺らの方が長い時間まで仕事してるってのに」


「ホントそろそろムカつくんだけど」



次々と、好き勝手に 御託が並ぶ



「なんでお前ばっかなんだよ」


「ソコまでイケメンな訳でも無いのにな!?」



これくらい、どうでも良かった



「獣の世話してるだけじゃん 何?金?」


「いやいや! コイツんとこ金はそんな無いハズでしょ、、だって」



最後の一言を聞くまでは








「『あの村』の生き残りっしょ」








胸が痛い



「、、んで」


「あ?」



お酒を呷った様に、一気に熱が上がった様だ



「なんで? あの子達ばかり、なんであの子達が   なんで!」



疲れも溜まっていた、のか?


いや、違う 多分


『あの子達』が重なっていたから、、、だけでは無いけれど



「あなた達みたいのが、、あの子達を獣と呼ぶな!」


一人の胸倉を掴んだ所で二人に取り押さえられ


義足の足を払われ


そのまま倒れた所を囲まれ顔と腹、腕を蹴られた


騒ぎの音が聞こえたのかすぐに会議室の扉が開き、中から出て来た青髪のツンツンした青年が止めに入った

次に出て来た金髪ロングの男が一喝すると彼らは顔を伏せながら捌けた



「やれやれ、どこにでもあ~いった輩はいるのですね? 大丈夫ですか?」

倒れた青年の手を掴み上体を起こすと丁寧に衣類をはたく


「いつつ、すいませんもういらしてたんですね ありがとうございます」


「ふふ、しかし驚きましたよ 聞いていたよりも好戦的なのですね?」

煽っている訳では無い、男は穏やかな顔つきで知的に微笑む


「折角の対談会前なのに、お見苦しい所を」

キーロは申し訳無さそうに顔を下げる


「いえいえ、初めまして、、では無いか 確か私達はラボで一度だけお会いしましたね さぁ、顔を上げて」



王の右腕、軍師として名高い男レイ


その従者ニール



そして扉の奥には



「私は初めましてだね」



この国の王



「話は聞いているよ、宜しく そしてありがとう キーロ君」





大王ディーンが深々と頭を下げている


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