127 世話

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



12/1 6:30


「ご飯持って来たから一緒に食べよう フェリス~ドア開けて~テーブル出して~」


黒髪の眼鏡をした優男が両手にトレイを持ち自室のドアが開くのを待っている


「ワカッタ!」

枯れた元気な声は大きく、扉越でも問題無く聞こえて来る


「ルイ! キーロキタ オマエチョット、、」


バタバタと中で音がしてから少し重たい扉が開き、ひょっこりと犬耳っ子が顔を出し

「キーロ ゴハン」

腰元に抱き着いて来る


「危ない! 危ないから テーブルに 置かせて 先に」

両手のトレイと共に上に乗っている食材も揺れる



この子はフェリス

髪は伸びたい放題と言う様な野生児カット、白髪には黒いメッシュの様な柄がある

この前計った身長は151㎝  モフモフとした大きな尻尾と犬耳が特徴だ



「オレ テーブルダシタ ルイモ アッチドケタ」


「あ~うん、ありがとうね でもルイ、もうちょっと近くにおいで~」

部屋の片隅で膝を抱えているもう一人に手招きをする



あの子はルイ

こっちも伸びたい放題野生児カットの金髪オッドアイ(赤青)

フェリスより少し大きい155cm程 見た目ではエルフと大差ないのだが、、



「いい」


「ソウダゾ アブナイ」


「大丈夫だよ、魔法の使い方にも慣れて来てるじゃない?  って言うかこんな狭い部屋の中じゃそう変わらないよ」


「オレモ オレモナレタ ダカラコレ ハズセ」

フェリスは自分の首元の輪っかを右手の爪でガリガリと掻く


「はいはい、フェリスも偉い偉い  でももっとうまく使えたら自分で外せるって言われてたよね?  ほら、スープも持って来るから座ってて ルイもテーブルの方に座っててね?」

キーロは盆をテーブルに乗せ犬っ子の頭を撫でるともう一度立ち上がり部屋を出て行く


「オイ! ルイ オマエモットコッチ   チガウ オレノチカクダ」


閉まる扉の向こうからはあ~じゃないこ~じゃないと言う声が漏れている


「ふふ、随分と仲良くなったのね」


「あれ? おはようございます」


自分達のスープをわざわざ離れた別室まで配膳して来たのはなんとここの代表  キドナ室長だ


「わざわざすみません、食べたらいつも通り研究所の方に向かいましたのに?  何か急ぎの案件ですか?」

キーロはキドナの持つトレイを慌てて受け取る


「いいえ、偶にはあの子達の様子も直接見ておきたくて  押し付けてしまった形だったもの、、データではもう十分なのだけれど? どうなのかしら」


「えぇ、良い子達ですよ 最初は口も聞いてくれませんでしたけど」


「そうみたいね、報告書はしっかり見ているわ」


「それに自分は  一度も害を受けた事なんて無いですよ?」


「その為の首輪だもの」


「でも、聞いていた話と違い過ぎて、、」





今から約三ヶ月程前

パソコンを取り上げられてから三日後、巫女様が医療施設に運ばれて来た日


あの日から僕はこの子達と同じ部屋で過ごす事になった、、お守役と言う感じらしい

と言っても起きて朝食を済ませたら研究所に向かい、室長の助手として様々な調べ物をしている

なので休みの日以外部屋に戻るのは夜になってしまうのだが


不思議だった


何かに怯える様なまだ幼い二人

何も話してくれない、、いや、それどころでは無い

フェリスに至っては最初こそ獣の様に歯を剥き威嚇をし 叫ぼうとする、、、その度に首輪が反応し藻掻き苦しみ出す


見ていて可哀そうだった


挙句、この子はまともに『喋れなかった』ので毎日ゆっくりとこちらから語り掛けた  今では言葉の節々が片言ではあるがコミュニケーションは取れている


何度も仕事の合間を縫ってキドナ室長に聞き込んだ


そして


聞けば聞く程に




この世界の事を知った




自分が如何に無知であったか




聞けば聞く程に




想像し 考えてしまう








『あの日』の憎悪までも

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