49 地獄

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/16 9:30


「まぁ、こんなところなんで、その  ムラサと言う魔女には頭が上がらないですね ハハ」

目の前の

王子がいる情景に感謝を噛み締める


「きっとモーズの気持ちが繋いだのだな、うんうん良い話だ しかし、、ムラサ? どこかで聞いた様な気がしないでもない?」

ラフィは腕を組み何度も相槌をするのだが


「でた! 姫様の『来た事ある~』『会った事ある~』」


残念な事に横からまた茶化されている



「ふふふ、そうだったのか モーズ、本当にありがとう  もしかしたら運命の神は我々の味方なのかもしれないな」

王子は一度ギュッと、、胸の痞(つか)え通す様に深く呼吸を整え

周囲を見回しながら立ち上がる

「次は私が話そうか、少し長くなるがモーズとの馴れ初めも含めてここの皆には再度聞いてもらいたい」








幼い頃から何をするにも一緒だった


出会いはモーズが5歳くらいだったか、少し似た風貌があった為 影武者代わりになるかもしれないと馬屋がどこからか連れて来たのがきっかけだった

今思えば王族の機嫌を取りたかっただけかもしれないが


私に歳の近い友人はおらず モーズと一緒にいるのは楽しかった

王族としての垣根など無く、無邪気に兄の様に慕ってくれる思いは明らかに周りとは違っていた



二人は毎日一緒だった

勉学も訓練も  特別にモーズは城の中で共に学んだ



何年も    何年も






突然


ある日を境に平穏を奪われる事になった







10年前

バル19歳 モーズ15歳 




いつもの様に勉学に励み、訓練を行い昼飯を共にした後

モーズは馬屋の仕事に戻った


午後、父ディーンと共に弓の稽古がてらに近くの森まで狩りに出向いた


もちろん選りすぐりの護衛が20数人

大王ディーンにも劣らないと言われていた軍師であり右腕のレイ

そのレイの使いで兵達が束になっても敵わないと言われる凄腕のニール

彼らも一緒だ  怖いものなんて無かった


「私自身 強くなった様な気すらしていたよ、彼らの立ち振る舞いはいつも常人とは違っていたからね」



狩りをするのに弓が必要だ


それを渡す為に護衛の兵が大王ディーンに駆けて行った

恐らくその時モーズと変わらないくらいの14~16歳くらい

女の子と思う様な顔をした若い兵だった 






一瞬だった











大王ディーンが目の前で刺された




いや 暗殺されたのだ




何を叫んだのか聞こえない狂気の様な声を上げ大王ディーンの首元に飛び付き






首を撥ねた






兵達は皆で彼を追った



そんな手薄になった所









王子は誘拐された


















そして




とある施設に幽閉された


















約5年間



地獄だった




毎日頭に針を刺された 


毎日血を抜かれた



最初は意味の分からない事ばかり言っているやつらだと思った




何かの液体に気絶するまで漬けられた


死なない程度に中身(臓物)を持って行かれた


片目をくりぬかれた




苦しくて  痛くて  ずっと








死にたかった










幽閉されて2~3年目だったか

二人の作業している者が言った小言


「破滅計画って 室長だけは本当に何考えてるのか分からないよな」


何故か耳から離れなかった


この日から、奴らの喋る一語一句を記憶した




色々と調べた









幽閉されて5年目




隙をついて逃げた!!




場所は何故か覚えていない  逃げた時の記憶も殆ど無い


施設から出て見えたのは森だった



とにかく走った











バル王子は悲しそうな目をしていたがボロボロと涙を零すモーズを見て笑う

「大丈夫、そこで狩りに来ていたラフィに救われたんだよ」




そこから最初の2年間 バルはエルフの森で心と体を休める事になる




年配のエルフ達には邪険にされたが戦姫ラフィがそれを我慢強く

と言うかしつこく!   駄々っ子の様に!! 説得を試みた

(文字のまま、駄々をこね続けた結果根負けさせた様なものだが)


バルは持ち前のリーダーシップもありエルフの中にすぐ溶け込んだ


いや、、それとは別に決定打になった事があった

今後起こる様々な危機を王子は言い当てたのである





「これは私の能力でもなんでも無く   幽閉されていた所で今後実行すると言うプロジェクトを羅列しただけだよ」



小さな事は多々あった

見た事も無い様な木の実や虫、水辺の生き物が森に増えた事

バルが森に来て3年目  『魔物が急激に増える』事


バルはエルフに兵法や軍としての動き方を教えた


4年目 『人間でも魔物でも無い生物が出て来る』事




そして今年5年目  「ここからは立て続けに起こる」



『機械化した生物が確認される』事


『黒い髪をした人間が大量に現れる』事


その後に




『破滅が訪れる』事











この『破滅』に関してだが 一つ思い当たる事件がある


今から二十年程前、東の国に巨大な光が放たれた事がある


原因はとあるウィルスを死滅させる為と言われている


その国は現在  不死者が蔓延る『死者の国』と呼ばれている





「何が正しいのかも分からない、だが二度とあんな事が起こらない様に、確実に止めなければいけない!」

バル王子は円陣を組むエルフ達一人一人に訴えかける


「覚えておいてくれ!  これから戦う事になる悪魔の名前を!!」







「室長と呼ばれていた奴の名前は」






















「キドナ」

















一章  完


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