33 帰還

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/14 20:30



「ただみま戻りまひた!」


両頬の腫れたキーロがギルドへと戻って来る


「おかえり!  って何その頬?大丈夫?戦ったの? にゃんこの依頼だったっけ!?        あぁ、でもそれどころじゃなくてさ、キーロも驚くぞ」

ジンが食い気味に喋り出すが馬鹿にしている訳では無い


「すいません大丈夫です あ、でもこっちも急ぎでして! カセンさん手を貸してもらえませんか?」


いつもの席でまたどれだけ飲んでいるのか、赤鬼の足元には壺や瓶が散らばる


「ん? お~? おかえり~わたわたしてどうしたんじゃ?」


泥酔やら二日酔い、そういう心配はない様子だ


「えと、、びっくりするかもですがとりあえず馬車まで来てもらえますか?」


「お~?? おん?  なんじゃろ?」


カセンは席を立ちキーロに連れられ馬車まで向かうと


言葉を失った


それはキーロの連れてきた少女を目のあたりにしたからこそだ



「な?  え?」



キーロが照らすランプの光は馬車全体を見渡せる程に明るい



「な、なんだよ、あんたも同じような反応して」


食事処の娘にそっくりな少女は下半身を汚い布で覆いながらカセンを不思議な顔で睨む


「説明は皆さんの前でしますので、お願いして良いですか?」


「お、お~?  あぁ   そうか」

赤鬼は少女を軽々とお姫様抱っこすると少しの間じっと見つめ、優しく胸元へと抱き寄せる


「え、え、、、な  あ、あんた力持ちなんだな?」


「ふふ、あぁ   そうじゃよ」






「え?」


「!?」


「そのこって、、」


ジン、巫女、従者全員がカセンの抱く少女を見て瞬時に反応する



「な、なんなんだよ?  どいつもコイツも同じ顔して」



それもそのはずである





アイリの遺体はここにいる全員が確認後  埋葬、供養までしている





忘れるはずがない





「皆さん驚いたと思います、僕も 驚きました  今も信じられない気分です」

キーロがゆっくりと話を始める




この少女の名前は アル 


身長は163cm程   紺色の髪に薄い紫色の眼  17歳だという

見た目、年齢だけじゃない、声も  何もかもが同じである

全く違うのは太ももから下

足全部が機械で出来ていると言う点



、、、それと、中身だ



言葉遣いが全く違う、違う人間の喋り方である




姿形しか知らない巫女と従者


ニコニコと調子良く軽快に接客をする態度を知っているジンとカセン


反応は割れるが誰もが不思議なモノを見る様な顔になる






少し静かになるが静寂を破ったのは巫女である


「お前は何者だ?」


「え、、ま、まだあんたらを信用出来た訳じゃないんだ、そんな簡単に身分なんて明かさないよ! まずそっちこそ名乗れよ」


「あ?あぁ 私は王都大聖堂の巫女シエルだ めんどくせぇからさっさと喋ってもらえるか?  お前は」





「『人間』で良いのか?」



空気が一気にビリビリと感じとれる程に張り詰めた


本人らもそうだが、全員

ここにいる全員が思う所のある言葉に緊張を覚える



「な    ぁ   ぁたしは」

覇気のない少女の声にかぶせる様にキーロが喋り出す

「そんな、急に矢面に立たせるのは、、どうかと思います  この子は! アイリとよく似てますけど別人で! どう見ても人間でしょう!」


珍しく声を上げるキーロに従者もフォローに入る


「まぁまぁ、シエル様の言いたい事も分かります(その足の光沢に似たものを見たのは昨日ですし) けど人間そんなに強い人ばかりじゃ無いのでもう少し言い方が」


「別人と言う事は分かる  ロリ巫女が警戒するのは自然じゃがそれでも言い過ぎじゃないかの?」

カセンも続けて反論する



「あ?」



明らかに良くない空気の中


一人の男が厨房で音を鳴らす




「えっとさ~  あ~ん、俺も一気に情報入って来てちょ~ビビってるけどさ~」




ふつふつ、ぐつぐつと言う音が聞こえ始める




「腹減ってるからイラつくんだよきっと」


「にゃあ」


「な~?ルトもそう思うよな~」


カチャカチャと手際良く動くジンの足に子猫が頭突きをかます


「えっと、アル?だっけ? 先に風呂入るか?  あ~、いやもうすぐ温まるから食べてからにするか、とりあえず顔でも拭くか? ほれ!」


ぬるま湯を絞ったタオルが少女に投げられる



「ぁ     あぁ、うん」



胃を刺す様なスパイスの香りが店内に充満すると亭主は人数分のお米を盛り始める


「お前ら全員一回飯食うぞ!  で!俺が話まとめるから!! オーケー?」






昨日の残り物


シチューがカレーへと変貌を遂げていた




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