3 親切

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



4/10 7:00  2時間程前 また、別目線のお話


「ふぁあ  ん~しょっと」


冬が終わって少しかかったけど

やっと暖かくなって来た


(うんうん、陽もあって風もそこそこ、気持ちが良いな~)


ルトリ家の長女 16歳

母と同じく黄緑色の髪

動き勝手の良いショートカットを軽く撫で


リィンは背伸びをしてから玄関の扉を開ける


「いいおてんきだね~! おねえちゃんいっぱいくまないと~」

妹のウルは朝から楽しそうだ

、、正直、私はこの後延々と往復する事を考えると苦笑いしか浮かばない


「はぁ、ヒトゴトだな~  ウルは母さんと買い物があるからね~ 良いなぁ?」


体力仕事はいつも私の出番だ、6つ年が離れているので当然

しょうがないのだけど、愚痴の一つや二つ溢したくもなる


「おねえちゃんにもちゃ~んとおみやげかってきてあげるから~」


「ん~?じゃあ 甘い物か物語帳の本が良いな、お父さんと兄さんの事もしっかり見てくるんだよ?」


王都には出稼ぎに出ている父と兄がいる

特別距離がある訳では無いのだが馬で半日かかる距離、なので月に1度帰って来るかどうかだ


「まぁ、お姉ちゃんは1人で筋トレに励むので早く支度していってらっしゃい」


「はーい」

ウルが自分の小さな鞄を振り回しながら母の方へと駆け寄る


「危ないから振り回さないの、リィンじゃあ あと任せるからね」

母ルトリはまだ若い長女に絶対の信頼をしている


「はいはい、ちゃ~んと美味しい美味しいご飯も作っておきますよ~」


適当なやりとりの様でも『任せる』の意味は大きい


「も~ふてくされないの  お土産、本で良いよね?好きそうなの買って来るから」


「うん、甘い物もよろしく~」

報酬に釣られた訳では無い、当たり前の事ってだけ


二人に軽く手を振り肩を回す素振りを見せつける






「さてっとお水から行くかね~」

見送りを済ませ、腕まくりをしながら倉庫へと向かう


「リィンちゃんは今日も威勢が良いね、お~強そうだ!」

向かいの爺さんが朝から茶々を入れる


村長なんてこの村にはいないのだが皆から好かれているので村長の様な存在のオールさんだ


「こんなにもか細い娘捕まえて何言ってるんですか~  捻り倒しますよ?」


「あっはっは、こわいこわい  そうだ、お昼過ぎにでもアイリちゃんの所に甘い物持って行くからリィンちゃんも食べに来なさい」


「む、餌付けされてるようでなんか嫌だから気が向いたらね~」

朝から軽快な挨拶を2~3度交わす

いつもの事だ、狭い集落で若者は少ない為見かけると皆構いに来るのだ  


(あ~私も王都へ働きに行きたいな~)


こんな小さな村でやりくりをするだけでは面白みも無い、、のに重労働


「はぁ~、嫁に行く相手もいね~ずら~」

倉庫内でぶつくさ独り言を言いながらも淡々と桶の準備をする


「えええい!やるかああ!!」


(いざ、水路と自宅の50往復)





ここは小さい村で名前なんてものは無い

村人は20人ちょっと男手は警備の数人と年配者を残し王都へ出稼ぎに出ている

若者と言えば私リィンとウル、それとアイリくらいしかいない


しかしながらこの集落、王都や他の国からも必要とされる拠点の1つと呼ばれている


活気のある港町へ向かう中間点であり

炭鉱への通過点であり

遺跡調査をする学者達の補給地点であり

エルフの森付近でもあるので交渉等々の場でもある

要するにどこに行くでも遠過ぎるので一度ここを経由するのだ


その為村人のほとんどが宿経営

私の家は母が作る薬や父達が工房で作った品を販売している

(ほとんどは王都で売れるのだが)


最近村の周辺を魔物が徘徊している

その為王都から討伐として色々な人が訪れていてここ数日は村が賑やか?になっている様な気がする


(きっとアイリの所、多めにいるだろうし倍は用意しておいた方が良いかな)

アイリはこの村唯一の食べ処兼酒場、と言うか集まれる所 『アイリの店』 の娘だ

名前がもう分かりにくいが、今はアイリが切り盛りしているので間違ってはいない 私の一つ年上の幼馴染だ


(何か面白い話聞かせてくれるかもだしお昼はアイリとご飯食べよう(別にその後の甘い物の為じゃないんだからね)

もくもくと単調な運搬作業をこなしながらも頭では別の事を考える


(この後薪割って、、あ~、夕ご飯用に何か貰ってこないとか)



ふと村の入口に目をやる  と



木が動いている



(エ、ナニアレ)


あれ?   ウル??


鬼が人を小脇に抱え私の妹を肩車して木を担いでいる


(エ、ナニアレ)





4/10 11:00


「おねえちゃ~ん」

よく分からない状況だが妹のウルは楽しそうだ


「ん~あれがリィンか~ お~うんうん可愛いのぉ」

よく分からない状況だが鬼のお姉さんに私の情報は流れているらしい


「あ、え~と、こんにちは   ウル?母さんは?」


「おうちにはいったよ?」


「え、なんで?」


「片付けるって言っておったのぅ」


「え、なんで?」

妹と赤鬼の発言が大雑把過ぎて分からない



「リィン?そこいるの~?  ちょっと先こっち手伝って~」

母ルトリの声が自宅の2階か3階? から聞こえる


「え~あ~   では えっと失礼しますね、、」

(なんでええ~~?)

リィンは持っていた水汲み用の桶を置くと駆け足で家へ向かった


「お~お~リィンお姉ちゃんは働き者なんじゃのう カカカカカ」

赤鬼は軽快に笑いながら足元の桶を拾う






「・・・と言う訳なのよ」

母ルトリがざっくり説明しながら3階の置き場を片付けている


「へ~、エサかなんかだと思ってよく見なかったけど、確かになんか変な服着てたね」

失礼かと思ったが身内しかいないので本音が出る


「だから解毒薬用意しておいてくれない? こっち綺麗にしたら寝かせちゃうから」


「は~い  ん?じゃあ今日は行かなくなったの?」


「うん、急ぎの物だけアイリパパにお願いしちゃったから大丈夫」


「ふ~ん そっか~」

(じゃあ本はまた今度か~)


「寝かせ終わったら母さんお店の方あけちゃうから」


「は~い、あ、私お昼アイリの所で食べようと思ってるんだけど」


「そうなの? じゃあ母さんもウルと行くかもだから何かあったら適当に~」


「は~い」


仲の良い母娘での意思疎通

というよりは小さな集落だ、何か変わった事でも無い限りはなんとなくで済んでしまう物だ


二人共に簡単な情報共有だけを済ませると作業の方へと戻る


リィンは調合室へ向かいテキパキと準備をする、、のだが



「あれ?」



(もしかして私仕事増えただけじゃない?)



何か納得いかないのだがいつもの事だ

しょうがなしなしに、飲み込み、手際良く材料を調合する


「ふぅ、予備の入れ物入れ物~」

液体を何本かの瓶に詰め、保存用と別に仕分けて行く


そんな中、元気な声が調合室に響いた


「おねえちゃ~ん!」

妹のウルが勢い良く走って来る


「え!? 待って、おねえちゃんお薬持ってるから待って、まっ、くんな!」

ぶつかる手前で黄緑ロングがふわっと宙に浮く


「あっはっは、お姉ちゃんがくっさくなっちゃうからちょっと待ってやらんと」


助かった、危うく色々である! やり直しとか水浴びとかやり直しとか


「カセンさん  で良いんですよね? 母から聞きました、助かります~」


「お~、リィンは薬も作れるんか凄いのぉ」

赤鬼は片手に掴んだウルをそのまま頭に乗せると部屋を見回す


「いえいえ、解毒くらいしか、ほとんどは母がやってますので」


「十分じゃってまだ若いのにのぉ、偉い偉い」

豪快に頭を撫でられ恥ずかしくなってくる


「そこまで幼くはないですよ~」


「うんうんえらいえらい~」

小さなウルの手ももれなくついてくる


「オマエハイインダヨ」





「エサ、、いやあの人は、もう寝かせたんです?」


「おぉ、転がしてきたぞ、母は店あけるって言ってたのぉ  あ~それでなんじゃがの! 酒が飲めるところがあると聞いたので場所が知りたくて聞きに来たんじゃ」


「あぁアイリの店なら二つ隣の、村の中では大きい建物ですから多分すぐ分か」

と言い終わる前にウルが頭からゆっくり降ろされた


「ではまたのぉ!」


二人の頭をポンポンしたと思ったら一瞬で消えてしまった


「お酒、、好きなのかな」


姉妹は揃って首を傾ける


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