無攻有逃《むこうゆうとう》

鈴風一希

プロローグ

真っ暗闇の奥底で。

 世界で人間がギリギリ倒せると言われている最も強いドラゴン、名をサイレントブラックドラゴンという。通称サイブラドラゴン。名の通りやつは静かで黒いドラゴンだ。光を反射せず奴がいる場所は必ず真っ暗なダンジョンの底だ。例えやつのいる場所を明るくしてもやつはにしか見えないだろう。


   そう、ベンタブラックのように。


 今まで幾度となくそのサイブラドラゴンに挑んだ勇者がいた。がしかし、誰一人として帰ってきた者はいなかった。故に情報もとても少ない。というより、無いに等しい。


 誰一人倒すことが出来ていないというのに、何故人間が倒せる最も強いドラゴンと言われているかと言うと、その昔とても腕のたつ剣士が予言したのである。


 ん? 何故剣士がって? もちろん彼はただの剣士じゃない。なんでも出来た、言ってしまえば、魔術、矢術、剣術、銃術、武術……と多彩な技術を持ち合わせた剣士だ。


 その剣士は色んな魔物を倒し成長した結果、そんなことが出来るようになっていたらしい。唯一予言が当たらなかったとすれば、自分がサイブラドラゴンを倒す! と言って消息不明になってしまったことだろう。


 そんな最低凶悪な敵に既に173組目のパーティが挑んでいた。そして、173組目が挑んで2年間がたった今、久しぶりの挑戦者、4人組が現れたのだった。


         🏃🏻‍♂️


 目の前には巨大な扉。本当の力が使えれば開くような気がするが、なにせ、あのサイブラドラゴンとの決戦なもので、足が震えて全身に力が入らない。そんな俺を見てか、仲間の魔道士は、何ビビってんだよ。なんて言ってきた。

「え、え? びびっびってねえし!」

 全身に力が入りにくいのだ、もちろん言葉も力が無いようにしか言えない。


「ガチでビビりまくりじゃん!」

「わ、私も怖いですよ。」

「そうだよ、みんな怖いんだよ!」

「ほら、お前がビビったらみんなも不安になっちまうだろ! しっかりしろ。」


 仲間の魔道士、剣士、銃使いはそれぞれ励ましの弱音を吐いて、最後に魔道士は言って俺の背中を軽く叩いた。振り向くと、みんな顔が引きつってはいるが笑っている。演じるだけの余裕があるらしい。無論、自分にも顔を引きつらせながら笑うだけの余裕はあった。


 場も和んで、体に力が入るようになってから、「それじゃ〜気合い入れて行くぞ!」と声をかけ身を引きしめる。その時にみんなの肩を1人ずつ叩いた。


 足腰に力が入り巨大な扉が、ピューゴロゴロガガガガ〜、と悲鳴をあげながら開いていく。中はまだ明るい様子だが、やはり扉の前とは比べ物にならない程暗い。先程の扉が開いているから明るいのかと思いきや、普通に明かりが灯されている。


 聞いた話と違うと思いながら、松明たいまつに火をつけ、重たい足をゆっくり慎重に動かして前進する。敵の気配は全くない。だけどいつ襲ってくるかも分からないから警戒態勢が解けない状態だ。


         🏃🏻‍♂️


 前進してどれくらい経っただろう。体内時計的にはまだ10分だが。一向に敵が来ない。


 なにか大きな影があると思い、松明を寄せて確認すると扉があった……。

 ………どうやらここは中間区らしい。どれだけ回りまくっても敵らしきものの姿がなかったため、恐らくここは、暗くなる部屋の前準備と言ったところだろう。


 一同の体から少し気が抜ける。


「なんだ、早とちりか〜」なんて言われたからペコペコと謝りつつも、そうそうに気を引きしめるため。


「でも次は絶対いると思うから戦闘態勢取れよ。」と言って、今、目の前にある扉に手をかける。


「ん? あれ?」


 どうした? と魔道士が俺に言う。


 扉が重くて開かないのだ。全身で踏ん張るもののやはり開かない。


 魔道士は、頼むよ〜なんて言いながらも、結局2人では開かなかったので4人で押してやっと開くことが出来た。


 勿論その部屋は真っ暗で、今持ってる松明と扉が開いている時の外の明かりで多少なりとも自分の周りは見えるが、端っこなどが見えない。


 じきに扉は閉じて、松明の灯りだけが頼りになる。


 少し歩くと、ドラゴンの鳴き声がこのマップ上に響き渡り、発信源にいた俺たちは鼓膜がちぎれそうな程だったため、耳を塞いだ。


 何処だ? と音の発信源に松明を導くと、目の前には形の分からない闇から作られた巨大なサイレントブラックドラゴンがそこにいたのだった。

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無攻有逃《むこうゆうとう》 鈴風一希 @suzukazekazuki

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