エピソード 二十四の瞳

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『遅れて来た瞳』


連載戯曲

改訂版 エピソード 二十四の瞳・1『遅れて来た瞳』  



 時   現代

 所   東京の西郊


 登場人物


 瞳   松山高校常勤講師

 由香  山手高校教諭

 美保  松山高校一年生




 東京、郊外の公園。枯葉がチラホラ舞い落ちるベンチの傍らに、由香がプレゼントの包みを抱えて所在なげに佇んでいる。ややあって、下手から瞳が折りたたみ自転車のブレーキの音をきしませながら飛び込んできて、上手の端で、ようやく停まる。


瞳:  キャーーーーーーーーーーーーー!(きしむブレーキ音)

由香: うわっ!

瞳: …………ごめん、待った?

由香: びっくりするじゃないよ! 待つのも待ったけど……。

瞳: ブレーキの効きが悪くってさ~、やっぱ中古のパチもんはだめだわ。

 今日も明日も忙しいのなんのって……あ、それ、あたしへのバースデイプレゼント!?

由香: うん、一日早いけど。

 残念ねえ、半日でも空いてりゃ、バースディパーティーしてあげるんだけど、

 お互いスケジュール合わないから、恒例の忘年会と兼ねるということで。

瞳: ということは、忘年会はおごってもらえるんだあ!

由香: 何言ってんのよ。忘年会の会費は割り勘って決まりでしょ。

瞳: えーーー

由香: 気持ちよ気持ち。

瞳: なるほど、気持ちで済ませようって腹か。

由香: 何言ってんの、遅刻した上に自転車で轢き殺しかけといて。

瞳: だから、ごめんて、めんごめんご……。

由香: ま、ケーキの一つぐらいは用意させてもらうつもりだから。

瞳: イチゴとかデコレーションいっぱいのバースデイケーキ!?

由香: んなの食べたら、お料理食べられなくなっちゃうでしょ。プチケーキよプチケーキ。

瞳: プチケーキ……。

由香: なに不満そうな顔してんのよ。

 だいたい二十五にもなろうって女がさ、女友達から、バースデイパーティーやらプレゼント期待する方が、みっとも……。

瞳: ん……?

由香: ……(アセアセ)

瞳: いま、「みっともない」って言いかけたよね……それが親友の言葉あ(泣き崩れる真似)

 どうせ、あたしなんか、あたしなんか……ヨヨヨ……。

由香: 拗ねた女に明日なんてこないぞ。

瞳: 何言ってんのよ。あたしだって、ボーイフレンドの一人や二人目の前にして、バースデイパーティーくらい……。

由香: 見栄はらなくていい。

瞳: あったらいいなって……き、希望を持つのは青年の特権だぞ!


由香:言う割には腰ひけてんじゃん。

瞳:ひけてねーよ。

由香:ムキになんなよ、皴増えるよ。

瞳:皴なんかねー!(言いながらホッペの皴を伸ばす)

由香:お、こーやると高校時代の瞳だ!(瞳のこめかみをリフトアップする)

瞳:なにをーーー! あんただって、こうやらなきゃ昔に戻らないじゃん!(由香の胸をリフトアップ)

由香:じゃ、今度はヒップアップだ!

瞳:キャーー! お嫁に行けなくなるうううう!(ふざけ合う二人)

由香: やっと、学生時代のノリになってきたね。

瞳: じゃあ、そのノリで忘年会の費用ジャンケンで決めよう!

由香: おーし!

瞳: 最初はグー、ジャンケンポン!(瞳チョキ、由香パーで勝負)やりー!

由香: アチャー……しくじった。

瞳: 焼きが回ったわね。チョキの法則忘れるなんて。

由香: チョキの法則!?

瞳: そう、最初はグーで出したら、次はチョキかパーしか無いだろーが。

 チョキを出しておけば、勝つか、あいこ。だから勝つ確率が一番高い。心理学で習ったじゃんよ。

由香: そういうことだけは覚えがいいんだよね。

瞳: なにさ、どうせ採用試験には関係ないわよ。

由香: ひがむなひがむな。でもさ、明日スケジュールが詰まっているって言うのは?

瞳: 文化祭の居残り当番。

 本番二日前、生徒たちもやっと熱が入って、完全下校は八時はまわりそうね。

由香: なるほどねえ。

瞳: 彼氏がいたら、たとえ十時でも十二時でも、バースデイパーティーやってもらうわよ。

由香: 勝負パンツ穿いて?

瞳: アハハハ……て、ほんとだね。ま、ありがたく頂戴いたします(相撲の力士のように手刀を切る)


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