【第一章】【フィル・カトレイヤ国際学院】

 クリティ島。

 地中海に浮かぶ人口三十万人ほどの島の名前だ。

 首府がある主要都市『イラクリオ市』は、クリティ島人口の半分、およそ十五万人が生活しているほか、海外からの観光客などで一年中、賑わっている。

 その島の一角――イラクリオの中心街よりも離れた閑静な場所に、宮殿と見紛うばかりの豪奢な建物が存在した。


 広大な敷地を持つその建物の名は『フィル・カトレイヤ国際学院』という。

 世界各国の富豪や要人たちの寄付によって運営されるこの学院は、世界で活躍するために必要とされる国際教養や国際儀礼などを教えていた。

 入学には富豪や要人からの紹介状と多額の寄付が必要であり、この学院に通う少年少女たちは、将来、世界を舞台に活躍するエリートとして教育される。

 つまり『フィル・カトレイヤ国際学院』に通う生徒は全て、世界中の富豪や要人の親族であるということだ。


 当然、少年少女たちに対し、四六時中、四方八方から良からぬ手が伸びてくる。

 誘拐は言うに及ばず、盗撮に脅迫、果ては殺人まで多種多様な悪意に曝されるのは、学院に通うセレブリティたちにとって避けがたい現実だ。

 そういった事態から身を守るため、学院に通う生徒たちは護衛を付けることが当然のようになっていた。


 俺――真上まかみはくは、聖ソレイユ公国第三公女であらせられる十二歳の少女、アンジェリク・ド・ラ・ソレイユ様の護衛執事としてフィル・カトレイヤ国際学院の個人寮で生活している。


「お嬢様、失礼致します」


 早朝。

 お嬢様の睡眠を邪魔しないように注意しながら寝室に滑り込む。

 遮光カーテンで窓からの陽光を完全に遮断している部屋の中は、すでに朝だと言うのに仄暗い。

 天蓋付きのベッドの周囲にはいくつもの書類が散乱しており、お嬢様が深夜まで仕事をしていた様子が窺い知れる。


「……また遅くまで仕事をされていたのか」


 床に散乱する書類を拾い集めて机の上に置きながら、俺は遮光カーテンを開けて部屋の中に朝日を採り入れた。

 窓から射し込む朝の光は、ベッドで眠るアンジェリクお嬢様を照らす。

 純白のベッドシーツの上に横たわる、十二歳の少女の小さな身体。

 シースルーのベビードールから透けて見える肌は白磁のように白く、陽光を反射する産毛によって金色の光を纏っているように見える。

 呼吸によって上下する薄い胸には余計な脂肪は付いていなかったが、ベビードールを微かに盛り上げる突起は、慎ましげに少女の性を主張していた。

 その美しい寝姿を見つめていると、陽光に照らされたお嬢様は微かに声を漏らしながらベッドの上で身を捩る。

 アンジェリク・ド・ラ・ソレイユお嬢様、御年十二歳。

 小学六年生のお嬢様の身体は、平均的な十二歳女子の肉体と比べて華奢だ。

 細い腕に細い肩、細い足……身体を構成するパーツの一つ一つがか細く、力を籠めて掴めば簡単に折れてしまいそうに儚かった。


「お嬢様、朝ですよ」


 驚かさないように。

 だがお嬢様の眠っている意識を軽くノックする程度の声の大きさを心掛ける。


「ん……」


 お嬢様は声に反応して意識を覚醒させた。

 パチリと瞼を開いてゆっくりと上体を起こすと、小さな頭の動きに合わせて銀髪がさらりと揺れた。


「おはようございますお嬢様」

「……おはようシロ」


 起床したばかりだと言うのに、お嬢様に寝惚けた様子はない。

 例えどれだけ眠かったとしても熟睡せず、すぐに意識を覚醒されられるよう備えるのが公族の努めであると信じる、お嬢様の訓練の賜物だった。


「良くお休みになられましたか?」

「いつもと同じです。シロ、着替えを」

「御意」


 主人の命令に応え、クローゼットから学校指定の制服とお嬢様お気に入りの下着を持ってきてベッドの上に並べる。


「支度を」

「失礼致します」


 主人のか細い肢体に手を伸ばす。

 起床したばかりのアンジェリクお嬢様の傍にいると、少女特有の高い体温が空気を通して伝わってくる。

 手を伸ばし、胸元で結ばれたリボンを解くと、ベビードールはパサリと開き、白い肌が網膜に飛び込んできた。

 窓から差し込む光が作る、微かに肌を浮かす肋骨の影。

 丸みを帯びるほどの脂肪はなく、だが確かに女性性を感じさせる柔らかな肌は、生命力に満ちあふれて瑞々しい。

 前を開き、肩紐を外してベビードールを脱がしたあと、俺は主人の前に跪く。

 するとアンジェリクお嬢様は俺の肩にそっと手を乗せた。

 準備が整ったことを確認し、俺はお嬢様の下腹部に手を伸ばす。

 張りのある肌を盛り上げる幼い腰骨。

 身体のバランスを取ろうと微かに動く度に、肌の下で微かに動く幼い腰骨は、どこか妖艶な匂いを漂わせていた。

 腰骨に縋り付く紐を解き、下着を捧げ持ちながらゆっくりと脱がしていく。

 太股の肌を撫でるように下ろされた下着を受け取りやすいように、お嬢様は片足を上げてくれた。

 一糸まとわぬ姿で片足をあげた姿勢を保つお嬢様に、俺は新しい下着を差し出した。

 その下着をするすると引き上げ、やがて無毛の恥丘が薄い布地にその姿を隠す。

 背後に回ると、お嬢様は俺が着させやすいように両手を軽くあげた。

 その細い腕をシュミーズに通し、フリルを施したシャツに袖を通して上着を着せる。


「寒くはありませんか?」

「大丈夫です。続けなさい」


 主人の指示に従い、ベッドの上に並べた服の中から、ガーターベルトを手に取った。


御御足おみあしを」


 俺の言葉に素直に従い、お嬢様は再び片足を上げた。

 その足にベルトを通し、腰骨に掛かる位置まで引き上げた後、お嬢様の足にハイサイソックスを通す。

 ソックスの裾をガーターベルトの留め具に差し込む。

 時折、指がお嬢様の肌に触れるがお嬢様は素知らぬ風だ。

 着替えをするのだから肌に触れるのは当然のことで、俺にもお嬢様にも邪な感情など微塵も無い。

 純白のシュミーズに上半身を包み、ガーターベルトとストッキングを履いたお嬢様の姿は、十二歳とは思えないほど妖艶で美しい。

 その姿に見惚れながら、俺は引き続き、お嬢様に制服を着せていった。


「終わりました。いかがでしょう?」


 大鏡の前で、左右に身体を振って身だしなみをチェックしたお嬢様は、やがて満足したのか、跪く俺の頭を撫でつけた。


「よくできました」

「ありがとうございます」

「シロ。朝食はどうなっていますか?」

「本日はエマが担当しておりますので、もうしばらく時間が必要でしょう」

「では髪を先に整えます」

「御意。失礼致します」


 化粧台の椅子に座ったお嬢様の髪を幾房か持ち上げ、櫛を使って梳いていく。


「お嬢様、少し髪に痛みが見られます。……ちゃんと睡眠が取れていない証拠ですよ」

「昨夜は本国からいくつか問い合わせが来て、その処理に手こずっていたのです。こればかりは仕方ありません」

「お声掛け下されば、お手伝いしたものを……」

「資料が送られてきたのは深夜です。二人を起こす訳にもいかないでしょう?」

「俺たちならばいつ何時でも、お嬢様のために跳ね起きます」

「ふふっ、知っています。だから私は二人を起こさなかったのですよ」


 鏡に映ったアンジェリクお嬢様に笑顔が浮かぶ。

 きっと俺たち使用人の体調を考えてのことなのだろう。

 優しい主人だと思う反面、その華奢な身体に多くの物を背負っていると思うと、余計な心配が溢れ出してくる。


「お願いですからお一人で抱え込むことの無きように。俺たちを頼ってください」

「頼っていますよ、いつも……」


 言いながら、お嬢様は髪を梳く俺の手を取り、頬を寄せた。

 それはお嬢様が甘えたいという欲求を抑え込んだときに見せる代替行為だ。


「もっと頼ってください。お嬢様のためなら俺は何だってしますから」

「知っています。だから――いいえ、何でもないわ。さぁシロ。余計なお喋りはやめて、支度を急ぎなさい」

「……御意」


 話を切り上げたお嬢様に対して否は言えない。

 命令された通り、急いで――だが細心の注意を払いながら丁寧に――お嬢様の絹ような銀髪を櫛で梳く。

 時折、肌に触れる部分にざらつきが感じられてしまうのが残念に思える。


「ん……」


 櫛が髪を通る度に、お嬢様から漏れ出してくる吐息。

 気持ちよさそうなその吐息を聞くと、心の中が充足で満ちてくる。

 髪を軽く引っ張って髪全体を梳くと、抵抗なくスルリと櫛が通るようになった。


「あっ……」


 頭皮に受ける刺激に反応してか、お嬢様の口から甘い音色が漏れ出してくる。


「痛かったですか?」

「……いいえ。大丈夫です。もう少し強くやりなさい」

「はっ。失礼致します」


 主人の命令に従い、髪を優しく――だが先ほどよりは強く――何度か引っ張ると、お嬢様の口から気持ちよさそうな声が漏れてくる。


「んっ……あっ、んくっ……はぁ……」


 心地よさげな声に満足感を覚えながら、俺はお嬢様の銀髪を丁寧に梳いていく。

 やがて――。


「支度が完了しました。お嬢様」


 髪を整え終えた俺は、一礼して一歩、後ろに下がった。


「……最後の仕上げはしないのですか?」

「お嬢様のご命令があれば、いくらでも」

「そう……。なら仕上げをしなさい、シロ。命令です」

「御意」


 恭しく一礼したあと、お嬢様の髪を一房だけ手に取り、そっと口付けした。

 唇に触れた銀糸の微かな芳香が鼻孔をくすぐる。


「お嬢様が幸多き一日を過ごされんことを……」

「ありがとう。今日もよろしく頼みます、シロ」

「はっ!」




 身支度を終えたお嬢様を食堂にお連れする。


「エマ、食事の準備は整ったか?」

「ん。あとはパンを焼いてスクランブルエッグを作るだけ」

「……それは整ったとは言わないぞ。どこまでできている?」

「サラダは作れた。フルーツも用意した。珈琲も準備完了」

「なるほど」


 お嬢様に椅子を引いたあと、俺は苦笑しながらキッチンに向かった。


「むぅ……料理は苦手」

「『天才ジーニアス』と言えども苦手はあるか。後は俺がやる。エマにはお嬢様のお世話を任せる」

「ん。……お嬢様、なに飲む?」

「そうね。珈琲をもらうわ。お砂糖は一つでミルクは多めに。あとは新鮮な情報を頂けるかしら?」

「ん。了解。情報は二つ。一つは今朝のこと。中東連合シリアで、治安維持のために駐留している米帝軍キャンプに過激派が砲撃を加えた。今のところ大きな動きには繋がっていない。もう一つはクリティ島外の犯罪組織が多数入島していて、地元マフィアと揉めているみたい。危険度判定は今のところ設定していない」

「ありがとう。引き続き、情報収集をお願いします」

「ん」


 エマが珈琲を入れる準備に取りかかるのを横目に、俺はパンをトースターに入れた。

 フライパンを手に取り、ガスコンロの上に置いてバターを投入する。

 フライパンを熱している間に卵液の仕込みだ。

 卵を割り、そこにミルクと粉チーズを投入し、砂糖と塩コショウを入れてよく掻き混ぜていると、火に掛けたフライパンが湯気を上げ始めていた。

 弱火にして卵液を流し込み、菜箸を使って円を描くように何度か掻き混ぜる。

 このとき、直火ではなく、フライパンを浮かし、火ではなく熱を使って調理するのが、ふんわりスクランブルエッグを作るコツだ。

 やがて卵液が固まり始めたタイミングで皿に移すと、ホテルの朝食などに出てくるスクランブルエッグの出来上がりだ。

 サラダやフルーツと一緒に手早く皿に盛り付け、焼き上がったパンを添えてお嬢様の待つ食卓へと運んだ。


「お待たせ致しました」


 珈琲の香りを楽しんでいたお嬢様の前に皿を置く。


「ありがとう。さぁ二人も席に着きなさい」

「ん」

「はい」

「二人とも今日も頼みます。……では頂きましょう」


 お嬢様の合図で朝食が開始された。

 朝日が差し込む食堂で、主人と使用人が同じ卓について食事をする光景は、アンジェリクお嬢様の側仕えである俺とエマにとっては日常的な光景だ。


「エマ。今日は学校が終わったらすぐに帰宅するつもりです。それまでに仕事の資料を準備しておきなさい」

「ん。了解」

「シロはいつも通り、私の護衛を」

「承知しました。ですがお嬢様。本日はセシリア嬢、咲耶嬢とお茶会の予定でしたが」

「それは延期になりました。セシリアも咲耶も、しばらくは忙しくなるそうです」

「忙しくというと……先日の件ですか」

「誘拐未遂犯たちについて共有した情報を下に、実家と対応を協議するそうです」

「なるほど。誘拐犯の中には米連と中華三国連盟が居ましたからね。両家にとっても即応しなければならない案件でしょう。しかし……」


 チラリとエマに視線をやると、頬張っていたパンを急いで飲み干し、エマがお嬢様に向き直る。


「最後に襲ってきた連中の正体が不明」

「不明? 警察と救急のほうも当たったのですか?」

「ん。でも警察の調書はデタラメだらけ。病院のカルテを当たってみたけど、そっちも偽名のオンパレードで、死体安置所モルグはもぬけの殻。追跡は不可能だった」

「……相変わらずクリティ島の公的機関はひどいようですね」

「この島では公権力に対しての賄賂が横行してますから」

「嘆かわしいことです……」


 一瞬、整った眉根を寄せたお嬢様だったが、すぐに話題を変えた。


「そういえば、二人に朗報があるのを忘れていました。二週間後の『新エネルギー貿易交渉』が終わったら、一度、本国に戻ることになります。本国では休息日を設ける予定なので、楽しみにしていなさい」

「休息日ですか」

「ええ。一週間ほど休むつもりなので、三人で国内旅行でもしましょう。どこか行きたいところはありますか?」

「お嬢様。エマは山に行きたい」

「山、ですか。良いですね。では本国の侍従長に手配させておきましょう」

「ありがと」

「いつも仕えてくれている二人への感謝の気持ちです。皆で楽しみましょう」

「ん。楽しみ。お嬢様は何したい?」

「そうね……湖畔のコテージでのんびりと過ごすのも良いかもしれません」

「ん。エマものんびりしたい。他にもエマはやりたいことがあってね――」


 女性陣二人が、休暇をどう過ごそうかと盛り上がっている間、俺は中身が無くなりかけのカップに新しい珈琲を注ぐ。


(お嬢様には、穏やかな朝のひとときを存分に楽しんで欲しい……)


 この寮から一歩外に出れば、お嬢様には心安まる時がなくなる。

 お嬢様の一挙手一投足は学生や教師たちに監視され、少しでも淑女たり得ないと判断されれば、世界のセレブリティの間で噂になってしまうのだ。

 その噂は時に国益を損ねる結果を招く。

 聖ソレイユ公国第三公女として相応しい振る舞いをすることこそ、お嬢様の公務と言っても過言ではなかった。

 だからこそ。

 朝の穏やかなひとときは、お嬢様にとっても俺たちにとっても、素でいられる貴重な時間なのだ。

 だが――そんな穏やかな時間も振り子時計が鐘を鳴らして終わりを告げた。


「もう登校する時間ですね。……行きますよ、シロ」


 椅子から立ち上がったお嬢様は、先ほどまで見せていた表情とは違う、凜としたものに切り替わっていた。


「お供致します。エマは引き続き、先日の件について情報を集めておいてくれ」

「ん。了解。二人ともいってらっしゃい」




 お嬢様が生活している個人寮は、校舎から二キロほど離れた場所にある。

 ここは学園が持つ広大な敷地のほぼ中央にあたり、学園の中でも特に重要な立場を持つ子女たちが護衛とともに生活していた。


 『フィル・カトレイヤ国際学院』の設立に関わった聖ソレイユ公国の第三公女、アンジェリク・ド・ラ・ソレイユお嬢様も個人寮を利用しているし、お嬢様の友人である『近衛咲耶』嬢や『セシリア・ヴァンダービルド』嬢も個人寮を利用している。


「おはようございます、咲耶、セシリア」

「おっはよー! アンジェ!」

「おはようございます、アンジェ様」


 個人寮が立ち並ぶ道にある小さなベンチが、お嬢様方の待ち合わせ場所だ。

 お嬢様方が朝の挨拶を交わす後ろで、それぞれの家の護衛たちも挨拶を交わす。


「よぉサムライ子犬パピー。今日も尻尾の振りが激しいな」

「俺はオオカミだって言ってるだろうオッサン。とうとう脳の消費期限が切れたのか? 老人は無理せずゴーホームしとけポテト野郎」

「子犬が嫌なら子猿とでも言おうか? アジアンモンキー」

「やれやれ……アジア系を猿に見立てるなんて何世紀前の感性だ? さっさと定年して国に帰ったほうがいいぞサム爺アンクル・サム

「俺はまだ四十代だって言ってんだろう、ハラキリ野郎ボーイ!」

「俺はオオカミだって言ってんだよ、中年野郎オールドバガー

「朝からやかましいですよ。黙りなさいシロ」

「はっ。失礼しました」

「ビリーもよ! 大人げない!」

「でもよぉ、お嬢……!」

黙りなさいシャラーップ! 朝っぱらから男二人の諍いなんて聞きたくないって言ってるの!」

「い、イエスマム……」

「ったく。二人とも、もうちょっと近衛家の二人を見倣いなさい! 桂も鞆江も主の護衛に集中しているでしょう! それなのに男のあんたたちときたら……!」

「うふふ、セシリア様、当家の護衛を褒めてくださって恐縮ですが、それは買いかぶりというものですわ」

「へっ? そうなの?」

「はい。鞆江は反応するのも面倒だから知らぬフリをしているだけですし、けいに至っては会話を聞いて妄想に耽っているだけですから」

「咲耶様、鋭い!」


 その通り、とばかりに桂が言葉を引き継ぐ。


「毎日毎朝、男同士の口喧嘩を聞かせられたら、そりゃどっちが受けでどっちが攻めとか妄想してまいますわな!」

「受けと攻めって……その言葉に何か意味があるのですか?」

「うふふ、いいえ、特に意味などございませんよ。アンジェ様がお気になさるものではないかと」

「……むぅ。でもセシリアは知っているような反応でしたよ? ズルいです。私だけ仲間外れにしないでください」

「ま、まぁまぁ! 受けとか攻めとかそういう言葉は、あたしたちの天使アンジェリクが知る必要なんてこれっぽっちもないわ! ホントヨ!」

「ジーッ……」

「あ、あははー」

「うふふっ、お二人ともお可愛いこと。ですがそろそろ時間ですわ」

「そう! 時間よ時間! さっさと行かないと遅刻しちゃうわよ。さぁアンジェ。いつまでもほっぺを膨らませてないで、学校に行きましょう!」

「はぁ。どうあっても私を仲間外れにするつもりですか。良いです。後でエマに調べさせますから」

天才ジーニアスエマ・ルクレール女史にそんなことをさせるのは、さすがに天才の無駄遣いじゃありませんか……?」

「咲耶とセシリアが教えてくれないからです」


 プゥ、と頬を膨らませてアンジェお嬢様が訴えた。


「あー、それはそのー……ちょっとシロ! あんたが何とかしておきなさい!」

「承知しました」

「シロ。あなたの主人は私なのですよ?」

「その通りです、我が主。主の情操教育は執事の仕事でもありますから」

「元はといえば、あなたのせいなのに……」

「そう仰らずに。さぁアンジェリクお嬢様。皆様と共に学校に参りましょう」

「……分かりました。今はあなたの言葉に従っておきましょう」

「ありがたき幸せ」




 納得いかない気持ちを顔に浮かべていたアンジェお嬢様も、校舎が見えてきた頃には機嫌を直し、親友のお嬢様方と談笑に興じるようになっていた。


(機嫌が直ったようで良かった……)


 そう思ったものの、ああ見えてアンジェお嬢様はとても頑固で根に持つタイプだ。

 今は咲耶嬢、セシリア嬢という親友の二人と一緒に居るから怒りを隠しているが、後々、ネチネチと言葉で俺のことを責めてくるだろう。


(まぁそれはそれで待ち遠しいがな……!)


 銀髪美少女に説教されるなんて、ご褒美以外の何だというのだ。

 ――と、そんなバカなことを考えているうちに、お嬢様方は校舎に到着した。

 玄関口で上履きに履き替え、自分たちの教室に向かっていく。

 ちなみにお三方とも同じクラスだ。

 護衛である俺たちも主人の背中を追って共に進むが、残念ながら学院の規則によって緊急時以外の教室への入室を禁じられている。

 建前上は『生徒が勉学に集中するのを邪魔しないため』なのだが、実際は各国のパワーバランスによる軋轢を回避するためだ。

 その規則を破った主人と護衛は、理事長命令によって退学を余儀なくされる。

 フィル・カトレイヤ国際学院を退学させられたという経歴は、セレブリティにとっては致命的な悪評となるため、教室の外の廊下には問題を起こさないように生徒の護衛が並び立つことになる。


「さて、と」


 アンジェリクお嬢様たちが教室に入っていくのを見送ったあと、俺は廊下に並び立っているいつもの面子に声を掛けた。

 ソレイユ家の執事を務める俺と、ヴァンタービルド家のビリー、近衛家のメイドである桂と鞆江の二人は、各々の主人が仲良しということもあり、二年ほど前から協力関係を築いている。

 協力の内容は、情報の共有と可能な限りの共闘だ。

 ソレイユ家のメイドを務める『天才ジーニアス』エマ・ルクレールがクリティ島内外の情報を集めて事細かに分析し、もし主人たちに仇なす者を発見した場合は、三家が合同で対処することになっていた。

 廊下で待機している今の時間は情報共有の絶好の機会だ。


「先週、取り逃がしてしまった誘拐犯の件だが……エマが色々と調べているが、一部の連中の裏がどうにも取れないらしい」

「へぇ! 天才エマ女史が調べても何も出ないやなんて、ちょっとヤバそうやな」

「ヴァンダービルド家でも調べているが、全く同じ状況だな」

「近衛でも同じでござるよ。……三家の情報網を逃れているとするなら、かなりのやり手でござる」

「連中の標的が三家のうちの誰か判明すれば、もう少しやりようがあるってものなんだがなぁ」

「うちらのご主人様は皆が皆、敵の多いご主人様やからなぁ……標的を絞るにしても情報が足りな過ぎやわ」


 お手上げとでも言うように両手を広げる桂の言葉に、俺も同意を示す。


「情報が無いのなら、情報を見つけるまで待つしかない。引き続き、何か情報があれば共有しよう」

「それしかないでござるな」

「情報と言えば。おい子犬パピー、知ってるか? 今、イラクリオ中のマフィアたちがピリピリしてるらしいぞ」

「複数の犯罪組織が入島しているって話ならエマから報告を受けているが。先週の件とは無関係って話みたいだぞ?」

「確かに今は無関係かもしれんが、犯罪組織なんざカネが絡めばいくらでも繋がるビッチだからな。念には念を入れるに限る」

「それもそうだな。分かった。そっちは俺が知り合いに当たってみよう。桂と鞆江には俺がいない間、エマのフォローを頼みたい」

「適材適所やねんから気にせんでええよ。うちらはイラクリオのマフィアに知り合いはおらんしな」

「うむ。任せるでござるよ、シロ」

「頼む。あと、一つ言わせて貰うが、俺の名前はハクだ。シロと呼んで良いのはアンジェリクお嬢様だけだ。馴れ馴れしく呼ぶな」

「なんや。うちのご主人様かて、シロのことはシロって呼んどるやん」

「お嬢様方は良いんだよ!」

「なるほどでござる。美少女ならばOKということでござるな。さすがロリコンのシロでござる」

「まぁロリコンやからなぁ。咲耶お嬢様には気をつけるように言っておかんと」

「おい、うちのお嬢に近付くんじゃねーぞ? もし手を出したらてめぇの額にでっけぇ穴をぶち開けて、俺の陰茎コックをぶち込んでやるからな!」




 廊下に控えている護衛たちの軽口の応酬は、静寂に包まれて勉学に励んでいた主人たちの耳にも当然、届いていた。


 大人の男たちの頭の悪いやりとりを耳にして、護衛の主人であるアンジェリクとセシリアは同じように顔を赤く染めていた。


「……ったく、あのバカ……!」

「うふふ、愛されていますね、セシリア様」

「そういう問題じゃないでしょ……! あの会話、教室のみんなの耳に届いてるのよ? 主人のあたしまで下品な言葉遣いをするビッチって思われちゃうじゃない!」

「そんなこと、誰も思わないと思うけれど。……うちのシロよりマシだと思うわ」


 恥ずかしげなセシリアを、眉間を揉みながらアンジェリクが励ます。


「うふふ、ロリコンのシロという二つ名は、各国の犯罪組織の中では最強の護衛として有名だそうですよ。アンジェリク様も愛されていますね」

「意地悪な言い方ですね、咲耶。……下手をすれば私とシロの関係を疑われる二つ名なのですけれど」

「あら。疑われる、のですか?」


 にこりと笑った咲耶の顔は、別の意味を含んでいるようにアンジェリクには思えた。


「……何が言いたいのです?」

「うふふ、さぁ、なんでしょう?」


 にこやかな笑顔を浮かべ、コテンと首を傾げる咲耶から、アンジェリクは何も言わずに視線を外した。


「とにかく、あとで折檻です、あの子はもう……」

「うふふ、ではアンジェ様とセシリア様が二人を折檻しやすいように、今日のお昼は外庭でお弁当に致しましょうか」

「はぁ、そうしてくれると助かるわ……」


 時折、クラスメイトたちがチラチラと視線を向けてくるのに気付いていたセシリアが、渡りに船とばかりに咲耶の提案を受け入れる。


「では桂にお弁当を手配させます。アンジェ様もよろしくて?」

「ええ。お任せします、咲耶」




 フィル・カトレイヤ国際学院には、敷地内にいくつもの食堂が存在する。

 地中海料理を専門に取り扱う食堂の他にも、和食、中華、洋食、果ては小国の郷土料理まで、多数の専門食堂を備えている。

 食堂は全てテイクアウトに対応しており、生徒たちは食堂に赴いて食べるなり、テイクアウトして外食するなり、自由に振る舞うことができた。


 昼休み前。

 近衛家のメイドである桂は食堂のキッチンを借り、主人たちの昼食を作るために腕を振るった。

 わざわざ桂に調理させたのには、それなりの理由があった。


「近衛家は公家の家系で宮中を戦場として生き抜いてきた氏族なのです。剣の代わりに銭を。槍の代わりに毒を使い、競争相手を蹴落としてきたのが近衛の歴史。そのため、近衛家は口を付けるものについて、厳格な決まりがあるのですわ」


 自らが毒を使えば、誰かからの毒を警戒しなければならなくなる。

 千五百年に届かんとする近衛家の歴史の中で培われた毒に対しての警戒は、今なお受け継がれている。


「信頼できる者が毒味したものしか口にしない、という訳ですか」

「はい。幸い桂も鞆江も近衛子飼いのメイドですから安心です」

「毒かー。うちの国の場合は敵の排除には札束と鉛玉って相場が決まっているから、咲耶の家のルールって普通じゃなく感じるわ」

「常に護衛を従え、食事では毒を警戒する。……私たちの立場上、仕方が無いとはいえ、嘆かわしいことですね」

「生まれた家が家ですから。アンジェ様の仰る通り、仕方が無いことですわ」

「それはそうかもねー……」


 淡々とした咲耶の台詞に同意するセシリアに、


「セシリアお嬢様。ご学友が面会に来た……求めていらっしゃいますが、どうします? じゃなくて、如何致しましょう?」

 ビリーが慣れない言葉遣いに苦労しながら声を掛けた。


「面会? 折角の昼休みなのに。誰が来たって言うのよ?」

「六年C組のファビオラ・ターフェシュ嬢、だそうです」

「ターフェシュ? ターフェシュって誰だっけ……」


 記憶を探っていたセシリアに、アンジェリクが助け船を出す。


「中東連合に属するシリアの現大統領、オマル・ターフェシュのご息女です」

「ああ、そうだったわね。シリアの。……だけど時期的に今、あたしと接触するのは向こうにとって良くないんじゃないの?」

「今朝、過激派がシリアの米帝軍キャンプに砲撃を加えたという報道がありましたからね。米帝の実力者の孫であるセシリアに、和解交渉の仲介をお願いしに来られたのかもしれません」

「ハァ~……まぁあたしもオヤジに命令されて仕方なく動くこともあるけど。昼休みはないでしょう。せめて放課後にして欲しかったわ」


 昼休みは生徒たちの多くがランチのために外庭に集まる。

 今朝、起きたばかりの米帝軍キャンプ砲撃事件の関係者であるセシリアとファビオラの二人が会話をしていれば、嫌でもセレブの子女たちの視線が集中するだろう。

 面倒だとでも言うように大きく溜息を吐いたセシリアは、


「好奇の視線に晒されるのは嫌なんだけど。でも無碍にもできないわね。はぁ、ごめん、アンジェ、咲耶。ちょっと席を外すわね」

 友人たちに謝りながら腰を上げた。


「いってらっしゃいませ、セシリア様」

「私たちのことは気にせずに」

「ありがと。……ビリー、付いてきなさい」

了解ですイエス・マム


 セシリアの後ろ姿を見送っていた咲耶が、首を傾げてアンジェに問い掛ける。


「……少し気になりますね」

「何がです、咲耶」

「フィル・カトレイヤ国際学院には世界中の権力者の子女が集まっていますから、学院内で国や家の意向を受けて子供が動くことは、よくあることですけれど……」

「……それはそうですが、咲耶は気になるところがあると?」

「はい。シリアの米帝軍キャンプが砲撃されたのは昨夜未明。そして一晩明けて、ファビオラ様がセシリア様に接触を図った。……早すぎませんか?」

「確かにそうですね……。米帝との和解交渉のための根回しが不調だったため、ヴァンダービルド家に仲介を頼もうとしているのでしょうけど……」

「少し気になりますわ……アンジェ様。エマさんをお借りしても?」

「ええ。構いませんよ」

「ご助力感謝致します。……桂」

「はいな」

「エマさんの力を借りて、ファビオラ様の周辺を洗ってください」

「了解や」


 主の命令を受諾した桂が、エマに連絡を入れるために通信機を取り出した――。




 午後の授業を終えた後、お嬢様方は寄り道もせずに個人寮に戻った。

 普通の小学生ならば、下校途中で寄り道したり、友達の家に遊びに行ったりするのかもしれないが、俺が仕えている少女はどの角度から見ても『普通』ではない。


 世界の革新のきっかけとなる新エネルギー『ヌーヴェルコロニウム』の世界唯一の精製国であり産出国である『聖ソレイユ公国』第三公女という立場。

 そして兄姉たちと共に世界の政治家を相手取り、商談をしなければならない立場の小学生がアンジェリクお嬢様だ。

 求められるのは無垢さではなく聡明さ。

 必要なのは知能だけではなく、大人に負けないほど深く広い教養と洞察力。

 そして判断力と決断力を求められる。

 フィル・カトレイヤ国際学院で国際儀礼プロトコールを学び、寮に戻ったあとは一外交官としての仕事に従事する。

 遊んでいる暇などないのが、俺のあるじであるアンジェリクお嬢様の日常だった。


「エマ。学校に行っている間にまとめた資料を」


 扉をくぐったお嬢様は、迎えに出ていたエマに開口一番で指示を出す。


「ん。聖ソレイユ国内業務の処理待ちが二件と、対外業務の処理待ちが二件。資料は部屋に置いてる」

「ありがとう。それとエマ、珈琲を貰えるかしら」

「ん。お砂糖一つと――」

「ミルクは多めにね。部屋に持ってきてください」

「ん。了解」

「シロは夕食の準備を。そのときに明日の打ち合わせをします」

「御意」


 お嬢様の指示に一礼したあと、俺はキッチンに入って夕食の準備に取りかかり――夕食の準備を終えた頃にはすでに日は暮れ、窓の外は暗闇に包まれていた。

 有史以来、人は常に夜の闇に怯え、暗闇の中に一筋の火を灯し、不透明な夜の帳に包まれながらも、自らの周辺のみを何とか照らして夜の闇と対峙してきた。

 灯りを灯し続けるために人は木を燃やした。

 木はやがて蝋となり、油に変わり――そして最後に電気となった。

 だが電気という万能エネルギーも、結局は火によって木を、油を、果てはウラン燃料を燃やすことでしか全ての人々の生活を賄う量を生成できなかった。

 それが人の歴史だ。

 そして現在。

 万物に活力をもたらす電気は、油から産み出されるものでは無くなってきていた。


 『ヌーヴェルコロニウム』。


 聖ソレイユ公国のみ精製することができるその新エネルギーは、発電量が石油の五倍でありながら無公害ということもあり、環境問題が取り沙汰される先進国では数年前から代替が進んでいる。

 人の世に『ヌーヴェルコロニウム』という新エネルギーが浸透するにつれ、世界の中で聖ソレイユ公国の重要度は増していき、重要度が増すほど第三公女であるアンジェリクお嬢様の周辺に怪しい影が見え隠れするようになっていた。

 そんな怪しい手からお嬢様を守るのが俺の仕事であり、エマの仕事だ。


「お嬢様。食事の準備が整いました」

「ありがとう、シロ。ふぅ……」


 ずっと机にかじりつき、書類を睨み付けていたお嬢様が、俺の声に反応して溜息と共に上半身を起こした。


「お疲れのようですね」

「そうですね……厄介な案件がありますから」


 言いながら、アンジェリクお嬢様は一枚の紙を差し出した。


「失礼します。……これは新エネルギー貿易交渉の議題ですか」

「ええ。来週行われる交渉で中東連合から提示される議題の草稿です」

「年間のヌーヴェルコロニウム輸出量の削減と市場拡大の制限を求める……ですか。これはひどい……」


 石油を戦略資源として外貨を稼いでいる中東連合にとって、ヌーヴェルコロニウムを輸出する聖ソレイユ公国は、謂わば商売敵だ。

 その商売敵に『おまえの商売を縮小しろ。商品を売る場所を限定してエネルギー市場を荒らす真似はするな』と言っているのだから、交渉も何もあったものではない。


「自身の利益を最大限確保するのは外交の基本ですが、これはさすがに幼稚過ぎますね。願望を隠そうともしてない。本当に中東連合から出されたものなのですか?」

「エマに裏を取らせましたが間違いないようです」

「ん。今の中東連合議長国、イランの外務省に元データが残ってた」

「ハッキングしたのか?」

「ブイ」


 口で言いながら、エマはピースサインを突き出した。


「なんとまぁ……素人目に見てもこんな提案、交渉する価値もない。ただの難癖じゃないですか……」

「正しくその通りでしょう。兄様たちもシロと同じ判断を下しています」

「では何故、お嬢様へ?」


 聖ソレイユ公国運営の中心は、アンジェリクお嬢様の父である大公だ。

 その大公をお嬢様の兄上と姉上の二人が補佐している。


「それが……兄様と姉様から出された課題、なんだそうです」

「課題ですか。それはまた相変わらずのスパルタ教育ですね」


 第三公女であるアンジェリクお嬢様と兄姉の仲は良好だ。

 だが兄姉のお二人は、第三公女であるアンジェリク様の能力を高く見積もり、ことある毎に試練を与えてくるのが常だった。


「中東連合の裏を読み取って報告しろ、ということですか」

「そのようですね。……全く。兄様と姉様は小学生の私に何を期待しているのだか」


 そう言って背もたれに背中を預けたお嬢様の仕草は、どう贔屓目に見たとしても小学生には見えなかった。

 小学生の華奢さと慎ましい成長を見せる肉体を持ち、小学生らしい面持ちの中に大人びた表情が見え隠れし、知性と教養は大人顔負けなのだ。

 そこに惚れ込んでいるロリコンの俺が言うのも何だが、お嬢様は小学生であったとしても決して子供ではなかった。

 子供の身体を持ちながら、お嬢様はすでに大人なのだ。


「どうなさいますか?」

「この案件、兄様も姉様もすでに中東連合の裏の意図は掴んでいるはずです。私に考えさせた後、添削をするつもりでしょうが……今はひとまず保留にしましょう。中東連合の意図は容易に想像できますが、確定するための情報が足りません。シロの情報収集を待ってもう一度考えてみるつもりです」

「承知しました。ではお嬢様にとって有用な情報を集めてみせましょう」

「頼みます。他にもシリア情勢について情報を集めておいてください」

「シリアと言うと……米帝軍キャンプ砲撃の件ですか?」

「ええ。エマが言うには事態を重く見た米帝が、国連を動かして平和維持軍が派遣される可能性が出てきたそうです」

「まぁそうなるのは目に見えていましたが……」


 中東連合の一角を占めるシリアでは、中東連合からの離脱を主張してテロ行為を繰り返す反体制派と政府との抗争が続いている。

 シリア内の抗争に対し、中東連合に所属する諸国は日和見を決め込んで援軍を出すつもりは無いのだが、自国内への飛び火を避けるため、武力を外部から招き入れてシリアの反体制派に圧力を掛けた。

 その圧力の筆頭が米帝の治安維持部隊だ。

 だが、それが事態の混迷を更に進めてしまった。

 第三者が首を突っ込んできたことに怒った反体制派は、目には目をとばかりに外部勢力と結びつき、武器弾薬の供与などを受けることで戦力を強化した。


 二十一世紀当時のシリア内戦時とは真逆で、政府軍を支持する西側勢力と、シリアを中東連合から引き離して自陣営に抱き込みたい東側勢力の代理戦争の様相を呈しているのだから、国内が安定しないのも当然だ。

 そんな中、今朝、シリアの米帝軍キャンプが砲撃された。

 これは反体制派による挑発行為だ。

 米帝を挑発することでなし崩し的に戦端を開かせ、その上で『中東連合がシリアを切り捨てる』ように仕向ける作戦の一環だと思われるのだが、撃ち込まれたのは当然、空砲ではなく実包じっぽうだ。

 米帝は自衛のために動かざるを得なくなる。

 世界最強の軍隊を持つ米帝が自衛のために動くとするならば、世界各国を巻き込んで反体制派からの憎悪ヘイトを分散させるのが費用対効果の高い方法だ。

 こうして、エマが言うように国連平和維持軍という大軍が派遣される、という流れができあがったという訳だ。


「……それぐらい、反体制派も分かっていたことでしょうに」


 お嬢様の嘆きに、俺は淡々と答える。


「頭で分かっていても選択するのは感情なのでしょう。度しがたいことですが、それが人の人たる由縁なのかもしれません。知恵を持った猿は、だが感情によって身を滅ぼす。有史以来、世界中のどこでも見ることのできる、至極一般的な光景です」

「……そうかもしれませんね」


 頷いたアンジェリク様は、だが少し寂しそうな表情を浮かべていた。


(小学生のお嬢様が、己の感情を厳しく律しているのに比べて、大人のくせに幼稚としか言いようがない……だから俺は人間ってやつが嫌いなんだ)


 そう思う気持ちもあるのだが、その言葉が主の心に傷を負わすことになりそうで、俺はグッと口を噤んだ。


「お嬢様。そろそろ一休みなされては? 夕食の準備は整っていますよ」

「そう言えば……お腹が空きましたね。今日の献立は?」

「ペスカトーレとチキンサラダ。季節のフルーツを取りそろえております」

「ありがとう。エマ、夕食にしましょう」

「ん。ありがとシロ」

「ハクだ」

「ん。次は気をつける。シロ」

「はぁ……」

「ふふっ、拘りますね、シロも」

「シロと呼んで良いのは主であるお嬢様だけ、と。そう決めていますから」

「それは光栄ですね。でもシロと呼ばれているあなたも可愛いですのに」

「こればかりはアンジェリクお嬢様のお言葉でも譲れません」

 名は体を表すもの。特に俺にとっては大切なことだ。

「ふふっ、頑固ですね」

「お嬢様よりも年を重ねていますからね」

「そういうところも嫌いじゃありませんけれど。頑固過ぎると煙たがられますよ?」

「お嬢様に煙たがられるのでしたら考え方を改めますよ」

「……そういう言い方はズルいです、シロ」

「これは失礼致しました」


 微かに口を尖らせて不満げなお嬢様に一礼し、俺は手を差し伸べる。


「食堂までご案内致します。アンジェリクお嬢様」


 差し伸べた手を取ったお嬢様は、頬を薄紅色に染めながら小さな声で呟いた。


「そういう振る舞いもズルいんです……バカ……」




 クリティ島にはいくつかの都市が存在する。

 島北部にある首府イラクリオはクリティ島を統べる公的機関が集中している、島で一番の大都市だ。

 郊外にフィル・カトレイヤ国際学院の敷地を持つイラクリオは、海外からの訪問客が集う観光都市の側面を持つ。


 その大都市の中で力を持っている勢力がいくつかある。

 一つは公的機関であるクリティ島統治府だ。

 クリティ島を管理運営している統治府には、生活インフラを管理する管理局と治安維持の警察。そして港湾施設を管理運用している港湾局などが所属する。

 もう一つは国際I刑事C警察P機構特別Sと、それに関連する外部勢力だ。

 島外の権力者との繋がりが強く、島内の勢力からは煙たがられているものの、大きな影響力を持っている。


 そして最後の一つが地元マフィアの存在だ。

 クリティ島のマフィアはどちらかというと労働組合に近い。

 横暴な支配階級から命と財産を守るために労働者たちが集まり、理不尽を強いる相手に暴力で対抗したのがクリティ島のマフィアの成り立ちだった。

 俺はそんな地元マフィアの一つと協力関係を結んでおり、クリティ島内の情報を得る際は対価を渡して協力してもらっていた。


「一ヶ月前からの入島記録。これがあればエマの情報収集も捗るだろう」


 協力関係のマフィアの一つ『スパルタンX』の頭と若い衆に見送られた俺は、駐車しておいたバイクに跨がった。


「さて……」


 情報は得たが大した進展があった訳じゃない。

 最近、島内に増えてきているという外国の犯罪組織とやらが一体どこの国の勢力で、どんな背景を持っているのかを調べなければ情報の精度は上がらない。


「……エマに任せるしかないな」


 シートに腰を下ろし、エンジンを暖気している間、俺は同僚の少女のことを考える。

 エマ・ルクレール、十九歳。フランス人。

 『天才ジーニアス』と称えられ、学生時代からその類い希なる情報処理スキルを駆使し、各国の軍事情報、秘密情報にハッキングを仕掛け、どんな鉄壁の電子防壁も突破して情報を手に入れ、一時、『笑うチェシャ猫ラフィングキャット』というコードネームを付けられて、世界的なお尋ね者となっていた。

 とある理由で軍事裁判に掛けられてしまったエマは、聖ソレイユ公国のコネクションを活用したアンジェリクお嬢様に身請けされ、それ以来、お側に付き従っている。


 エマがなぜ裁判に掛けられて死刑を宣告されたのか。

 その理由はいまだに謎のままで、その一切が闇に葬られていることは気になるが、お嬢様に献身的に仕えているエマの姿を見れば、それも些細なことだ。

 今ではお嬢様にとっても俺にとっても掛け替えのない仲間になっていた。


「さて、一度戻るか」


 バイクのエンジンが心地良い音を奏で始めている。

 暖気は充分。

 書類をエマに渡し、その分析を待って俺が動く。

 それがいつものやり方だ。

 バイクを発進させるためにアクセルを捻ろうとした、そのとき。

 ヘルメットに仕込まれている通信機が入電を知らせてきた。


「なんだ?」


 俺の端末に連絡を寄越す者は少ない。

 バイザーに投射された通信情報に表示されている登録名は『オッサン』。

 つまりヴァンダービルド家の護衛のビリー・ザ・キッドだ。


「ったく、オッサンが何の用だよ……」


 ハンドルから手を離し、ビリーから送られてきたメールに目を通すと、クリティ島の歓楽街にある酒場の看板と、文庫本のくたびれた表紙の写真が添付されていた。


「『レッド・オクトーバーを追え』か。なんだオッサンの愛読書の表紙じゃねーか。あのオッサン、何を考えて……」


 そこまで考えて、俺は一つの可能性に思い至った。


「そういうことか……しょうがない。財布になってやろう」


 写真には文庫本の表紙の他に、硬貨が数枚、無造作に置かれていた。


「人のことを子犬だなんて馬鹿にしてんのに、こういう時だけ集るなよな……ったく」


 小さく毒づきながら俺は再び手首を捻り、アクセルを開いた。




 ビリーが指定した店は探すまでもなく、クリティ島ではそこそこ有名な店だ。

 クリティ島の歓楽街にある、ミドルランクの酒場サルーン『アリアドネーの糸』。

 島外者がクリティ島を気に入り、移住してきてこの店を開いた――という店の成り立ちが語られているが、裏の世界を知る者にその成り立ちを信じる者はいない。

 ここは島外の者のたまり場の一つで、合法、非合法問わず、様々な情報が飛び交う裏の社交場だ。


 店の前にバイクを駐めた俺は、それとなく周囲に目を配りながら店の中に入った。

 店内に充満するタバコの煙が、人よりも鋭敏な俺の嗅覚を不快に刺激する。

 独特の匂いに顔を顰めながら、酔客たちの間を縫うように奥へと進んでいくと、


「Hey、子犬パピー。遅えよ。待ちくたびれたぜ」


 野太いオッサンの声が掛かった。


「急に呼び出しておいて何言ってやがる」


 ビリーの軽口に毒づきながら、紙幣を取り出してビリーに投げ渡す。


「おっ、気が利くじゃねーか。おまえは何にする?」

「グレープフルーツジュース」

「かーっ! つまらん奴だな~。そんなだから子犬って言われんだよ」

「言ってるのはオッサンだけだ。それに西洋の酒は口に合わん」


 無言で出されたグラスを傾けると、独特の苦みと酸味が口内に満ちていく。


「で? 突然呼び出してなんだってんだオッサン。……まぁおおよその予想は付いているが。ジャックライアンは?」


 ジャックライアンは小説『レッドオクトーバーを追え』の主人公で、CIA職員という設定を持つ架空の人物のことだ。


「おう。三十分前に情報屋とVIPルームに入っていった。順調に交渉しているのなら、そろそろ出てくるはずだ」


 オッサンが顎で指し示した場所に視線をやると、表札にVIPルームと掲げられた扉が目についたのだが……。


「そっちじゃねーよ。この店の本当のVIPルームはあっち」


 言いながらビリーが指差した先には、スタッフルームと書かれたこじんまりとした扉があった。


「……これ見よがしにVIPルームって看板を掲げておいて、そっちは囮で上客はスタッフルームに通す、か。オーナーも捻くれてやがる」

「冷戦からこっち、金さえ積めばどんな情報でも売りつける情報屋。裏の情報を一手に扱っていたやり手ババァがオーナーだからな。本人はどこぞの無人島を改造して悠々自適に暮らしているらしいが」

「人の情報を売って悠々自適とは、業の深いババァだな」

「違いねぇ。……おっ、出てきたぞ」


 ビリーの声を受けて、横目でスタッフルームを盗み見た。


(白人が四人に西アジア系が二人……)


 白人たちが一様にスーツを身に纏い、サングラスを掛けているのとは対照的に、西アジア系の二人組は、上等とはいえないラフな服装だ。


(こっちが情報屋で、白人たちがジャックライアンかそれに近しい組織の者、か)


 ニヤニヤと笑う西アジア系とは対照的に、白人たちの表情には緊張感が漲っているのが見て取れる。


(表情を見るに、西アジア系が白人に情報を売りつけたって感じだな)


 情報屋らしき二人組は、白人たちを振り返りもせず、そそくさと店を出て行った。

 しかし白人たちは何やら仲間内でこそこそと会話を始める。


(おいおい、こんな場所で内緒話かよ……素人なはずもないし、それだけ動揺するような情報だったってことか?)


 白人たちの様子を見て、俺は意識を耳に集中した。

 鼓膜に届く音は店内の無意味な喧噪が殆どだったが、そのノイズの中に目的の声を見つける。


(ロケット……テロ……娘……優位に……か。これ以上はノイズが多くてさすがに聞き取れないな)


 店内は百人を超える酔客が声を大にしてがなりあっているのだから、単語をいくつか拾えただけでも収穫だ。

 やがて白人たちは足早に店を出て行った。

 その後ろ姿を見送ったあと、俺とビリーはたっぷり時間を空けて店を出る。


「で、どうだった?」

「いくつか単語は拾えた」

「ヒュー。相変わらず人間離れしたおかしな耳をしてやがる」

「神がかった耳をしてると言え」

「へいへい。で、内容は?」

「ロケット、テロ、娘、優位に。聞こえたのはこの辺りだな」

「はーん。単語から察するにシリア絡みか」

「十中八九、そうだろう。だが、なぜわざわざクリティ島で米帝と情報屋がシリアの情報を交換をするんだ……?」


 しかも相手はジャックライアン、つまりCIAだ。

 米帝の中央情報と言えば、国益のためと称して合法・非合法を問わず活動する米帝の工作員のことだ。

 国外の情報屋と交渉するのも、別におかしくは無いのだが……。


「フィル・カトレイヤがあるからに決まってるだろ。シリアの現職の大統領の娘が先日、お嬢に近付いてきてただろうが」

「CIAが現職大統領の娘に手を出すつもりとでも? 少しでも情報が漏洩すれば、米帝への世論が悪いほうに傾くぞ」


 世論というのは特に子供絡みのことには先鋭化しやすい。

 誘拐にしろ、暗殺にしろ、事が露見したときの世論によって、間違いなく長期間、国益を損ねる結果を招くだろう。


「CIAが、いや白亜宮ホワイトハウスがそんな博打を打つか?」

「それでも国益のためになると判断したのなら何だってやるさ。もちろん慎重に情報を集めて動くだろうがな」

「そのためにクリティ島まで出張ってきたってことか……」

「現地で実際に見なければ確認できないこともある。最終確認のためにあの情報屋と接触したとも考えられるな」

「ジャックの表情から見て動く可能性が高そうだが……」

「かもな。シリア大統領のご令嬢を護衛しているのは確か――」

「大統領の近衛隊だったはずだ。学院の規則がある以上、数はおよそ一個分隊程度だろう。シリア本国の政情が不安定な今、娘の護衛にそう多くは割けないはずだから、恐らく二個分隊程度を派遣し、その内の一個分隊を近衛、もう一つを学外のセーフハウスに置いてローテさせているってところだろうな」

「その程度ならジャックライアンならまず間違いなく仕掛けるだろうぜ。なんたって国益を守るヒーローだからな」

「ヒーローねぇ……自国の事だけを考えてよその庭でドンパチするヒーローなんざ、傍迷惑も良いところだ」

「ヒーローはヒーローでも、ジャックはアメリカンヒーローなのさ」

「アメリカのためのヒーローって訳か。自分が良ければそれでいい……人間なんて所詮はそんなものか」

「おいおい、マジで子犬パピーだってか? 独りよがりの正義感で物事を判断するガキとなんて、仲良くしたくもねーんだが?」

「安心しろ。俺も、俺が自分の利益しか考えていないのは百も承知さ」

「なら皮肉るなよ。生きていくにゃ誰かを蹴落とさなけりゃならねーのが世の常だ」

「お得意の賢人の嘆きって訳か」

「いいや、単なる割り切りさ」


 肩を竦めたビリーの言葉に思わず頬が緩んだ。

 飄々としたビリーの人生観は、時に心地よさを感じる。


「それはそうと。ジャックはいつ、どんな形で仕掛けると思う?」

「情報の最終確認をしたと仮定するなら、決行の時期はそう遠くないと思うぜ?」

「妥当な推測だな。だが……ふむ」

「なんだよ? 珍しく真面目な顔しやがって」

「米帝とシリアの交渉の結果は、聖ソレイユ公国にも影響を与えることになる。だから少し気になってな」

「ああ、聖ソレイユと中東連合の新エネルギー貿易交渉の件か」

「そうだ。シリアは中東連合の中でも微妙な位置にある。シリアだけのことなら、そこまで影響は無いが、ここに米帝が絡むとややこしくなる」


 米帝は世界一位の軍事力を持つ大国だ。

 世界の警察を自負し、各地の紛争に軍隊を派遣している……と言えば聞こえは良いが、実際は強大な軍事力を背景に紛争に介入し、各国の利権を片っ端から押さえにかかる、性質たちの悪い用心棒だ。


 今回、シリアの反政府組織から砲撃された治安維持部隊もその点は同じだが、シリアに駐留した経緯が普通とは違う。

 通常、他国の軍隊を駐留させる判断は、その国を統治する政府が行うものだ。

 しかし米帝軍がシリアに駐留することになった発端は、シリア政府の要請ではなく、シリアが所属する中東連合からの要請だった。

 当のシリア政府は当初、米帝の進駐を拒否していた。

 だがシリア内紛の波及を嫌った中東連合がシリア政府に圧力を掛け、用心棒として米帝を招き入れさせた。

 米帝はその代価として中東連合内での石油利権を求め、中東連合はこれを受諾。

 こうしてシリアに米帝軍が派遣され、その派遣が反政府組織を刺激して砲撃事件が発生するに至る。


 ここで面倒なのが、米帝は中東連合に石油利権を求めているのと同様に、聖ソレイユに対してもヌーヴェルコロニウムの利権を求めていることだ。

 当然、聖ソレイユは利権の供与を拒否しているが、それでも米帝は世界有数の大国で、つまりはエネルギー輸出先として大口の客なのだ。

 他国と同様、聖ソレイユに於いても米帝の影響力は計り知れず、その圧力に屈しないためにも精度と密度の高い情報を収集し、分析する必要がある。


 今回、中東連合の幼稚とも思える議題が、米帝の後ろ盾があるからなのか、それとも米帝は無関係なのか……その点は聖ソレイユにとって重要な要因ファクターだった。


「シリアとの和解交渉が早々に終われば、米帝が貿易交渉で中東連合を矢面に立たせつつ、その後押しをする時間ができる。そうなれば聖ソレイユは中東連合とその後ろに隠れる米帝を相手に貿易交渉に挑むことになる」


 中東連合だけを相手にするなら、それこそ利権をチラつかせて米帝を巻き込み、聖ソレイユから中東連合に圧力を掛けることもできるだろう。

 だが最初から中東連合と米帝が組んでいるのであれば話は別だ。

 新エネルギーのお陰で世界的にも重要なポジションにあるとは言え、聖ソレイユの国力は高い訳ではない。


「米帝が絡むのであれば、米帝に伍する勢力と手を結ぶ必要が出てくる。これは……お嬢様の睡眠時間がまた削られることになりそうだ」

「まっ、それはうちのお嬢も同じだろうがな」

「お互い、主のためにできることをするしかないな」

「そうしよう」


 俺たちはハイタッチを交わして互いの健闘を祈る。

 敵は多く、味方は少ない。


(愛する主の命を、生活を、立場を守る。それが俺たちの仕事だ)


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