第48話 善行は意外と記憶されない
「人は、誰かが言ったことは忘れる。誰かが何をしたかも忘れる。でも、誰かが自分をどんな気持ちにさせたか、それだけはずっと覚えている。」
〜 マヤ・アンジェロー(アメリカ合衆国の活動家、詩人、歌手、女優)
ウェビナーとかなんかで何回か聞いたことのある名言なんですが、折にふれて、本当だな〜と思うことがあります。
ちょっと話が逸れますが「海馬」という本で、これを裏付けるような説を読んだことがあります。「海馬」とは脳の一部で、パソコンのRAMみたいな機能があるらしいんですよ。つまり、ショート・メモリーを選別して、大脳皮質っていうハードディスクに保存するという役目です(合ってる?)。
事故や病気で「海馬」が破損してしまうと、長期的な記憶が作れなくなります。これを題材とした映画や小説に「メメント」や「博士が愛した数式」などがあります。
「海馬」のとなりは「扁桃体」という感情を司る部位があります。なので、強い感情を伴うものは、記憶に残りやすいのだそうです。(大学受験時代、下ネタの語呂合わせで古文動詞の活用を覚えましたが、活用はもう忘れてしまったのに、語呂合わせだけ、一生忘れられそうにありません)
「海馬」にダメージを受けて、記憶を作れなくなった患者さんは、「海馬」を破損した後、初めて会う人のことを覚えられません。例えば主治医が何度も診察に来ても、「はじめまして」に戻ります。それでも、何度も会っているうちに「なぜかわからないけど、この人は好きだ」とか「なんとなく、この人は苦手だ」と思うようになってくるらしいです。
あれ? マヤ・アンジェローさんが言いたかったことと、ちょっと違う気もしてきましたが……。私も、実は似たような経験があります。
泊まりがけでミュージック・フェスティバルに行き、夜中に酔っ払って、初めて会った人と意気投合
→ 何時間もしゃべった後に寝落ち。
→ 翌日にばったり再会。
→ お互いに、顔は覚えてるけど名前が覚え出せない。
→ あんだけしゃべったのに、会話の内容はもっと思い出せない。
→ でも、なんとなく、すっごくいい人だったのは覚えてる!
そんな経験がね。
ということで、マヤ・アンジェローさんの言葉は、本当なんだろうなと思います。この名言を肝に銘じて、「人をどんな気持ちにさせるか」を気をつけようと思っています。正誤や損得よりも人の気持ちが大事なこと、けっこうありません?
でもね〜、これってやっかいですよね。
誠実でいい人なんだけど、ものの言い方がキツくて「なんとなく苦手な人」と思われる人もいるし、よかれと思ってやったことが誤解されて評判を落とすこともあります。
真面目にコツコツがんばってきた人が、魔が差して大きな間違いを犯してしまった、なんてときに、衝撃を受けるあまり「本当はそんな人だったのか!」と全部の記憶が上書き保存されることもあります。
逆はあんまり思いつかないですね。悪行の積み重ねで「ろくでなし」という判を押された人が、改心したとしても、一回の善行で失った信用は取り戻せない気がします。良い印象は一瞬で消えることがありますけど、悪い印象は払拭するのに時間がかかる。
「人の気持ちっていろいろ理不尽だけど、とっても大事」ということを心に留めつつ、自分は感情は横に置いて、その人がやってきたことをちゃんと見て、覚えていたいなぁと思うのでした。
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