第45話 泥棒の人生
二年ほど前、空き巣に入られたことがあります。正確には、私の家は空き巣じゃなかったんですけど。
当時、私は早朝に出勤しておりました。家を出るときに、近所で見かけない男性二人がウロウロしてたので、「あれ?」と思ったのですよ。でも、作業着のようなものを着ていたので「道路工事かなんかかな」と思ってそのまま出勤しました。
この二人組が泥棒だったのですが、作業着を着るというのも、自分を記号化して目撃者の注意をそらすテクニックなんですかね。私はその二人の作業着の蛍光イエローだけ覚えていて、顔はほとんど覚えていませんし、作業着を着てたので「いても大丈夫な二人」と無意識に判断していました。
私の家には裏庭から入れるスライド式ドアがあるんですけど、そこ、鍵かけないことが多いんですよ(不用心ですよね〜)。で、おそらく事前に下調べをしていた二人は、裏庭側のドアに鍵がかかってないことを知ってた模様です。
一人が表のドアをピンポーンとやってる間に、もう一人が裏庭へ。そのとき、夫はシャワーを浴びていたのでドアに出られませんでした。私が出勤したのを見てるし、家に誰もいないと思ったようです。
男の一人が裏庭側のドアから侵入してリビングへ入ったのと同時に、夫がシャワーから出てきて、リビングから物音がしたのを聞きました。夫は「おい、誰だ!」みたいな大声を出したらしいです。その声で侵入者は逃げました。夫は捕まえたかったらしいですけど、真っぱだったんで、急いで着がえてるスキに二人はいなくなっておりました。
被害にあったのは、車の鍵と家の鍵、夫の仕事用パソコンでした。パソコンに関しては、データはクラウドだし、本体は会社の保険で新品が支給されました。家と車の鍵を変えないといけなかったのが、一番の出費でした。盗まれたがわの出費の割に、泥棒にあまり旨みがないパターンですね。パソコン一台、闇で売って少しのお金になったかとは思いますが。
このことがあって、私は泥棒の人生ってものを考えました。泥棒稼業、福利厚生も有給もないし、誰にもほめてもらえないし、労力の割にあまり儲からなさそうじゃないですか。空き巣なんて、他に選択肢がある人がやるような稼業には思えません。できごころで一回とかならまだしも、毎日それで衣食住を稼ぐなんて、そんな人生、私だったら辛いです。あの二人はどんな生い立ちであんなことをやるにいたったのか、考えれば考えるほど、世知辛い妄想ばかり浮かびます。
統計的に、塀の中の人たちの識字率の平均は、外の人たちと比べて格段に下がるそうです。犯罪を犯すには、それに至るまでの背景があるのですよね。社会的な地位や所得が低く、いろんな理由で教育をちゃんと受けられなかった、いわゆる「恵まれなかった」人たちが犯罪に走ってしまうケースがほとんどだと、警察官をやっていた人に聞いたことがあります。(もちろん例外もたくさんありますが)
ここまで書いてて、そう言えば、貧しい泥棒が出てくる物語って多いなと思い至りました。是枝監督の「万引き家族」もそうですし、ロビンフッドやねずみ小僧も有名ですよね。フランス革命を題材にした「レミゼラブル」では、主人公が一本のパンを盗んだ罪で投獄されるところから、物語が始まります。オーストラリアでは、実在した盗賊のネッド・ケリーの話が人気です。
貧しい泥棒って、社会の理不尽さの象徴のような存在なのかもしれませんね。だから読者は共感するのかも。
空き巣騒動で、警察がかなりしっかりと調査してくれて、それはそれで、ちょっとミーハー的にドキドキしたのですが(指紋を取るための白い粉をドアにはたかれたりとか。きゃー!)、あの二人はとうとう捕まりませんでした。今でも空き巣稼業やってんのかなぁ。手口がプロだったからなー。
蛇足:空き巣は割に合わないと思いますが、銀行強盗なら一発逆転ホームランが狙えますよね。銀行強盗ものの小説や映画って、泥棒役を応援してしまいません? 犯罪なのに、成功するとうれしいですし、失敗すると残念です。あ! これって弱者が強者を「チート」で「ざまぁ」する話だから!? テンプレ用語、よくわかってないのに使ってみた。御免。
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