第42話 脱出不能!? 最後はハイエースとおっぱい

「ちょっ! お兄、お兄!! なんかタイマーがあと2分とちょっとしかないし!!」

「新汰くん、急いで! 急いで! わたしも爆発に巻き込まれるのはヤダよ!?」

「大丈夫です! 新汰さんは、どんな時でも助けてくれますから!!」


 女性陣が騒がしいですが、致し方ありませんね。

 人は死を身近に感じると、どうしても気が逸るものです。


 あれ?


「どうしたんじゃ、新汰!? なんぞ問題でもあるんかぁ!? 時間がないけぇ、小便じゃったらちぃと我慢せぇ!!」


「あのー。そのー。えっとですねー。言いにくいと申しますかー。どうしてなんだろうなぁ。こんな事が起きるはずないんですけどねぇー。いやー、はい」


「何も伝わって来ねぇ!! せめてヒント出して!? お前の出題は、タカシくんが100円のりんごを3つ買いました。さて、タカシくんのお父さんの歳はいくつでしょう? みてぇな理不尽しかねぇんだよ!!」


「えー。だって、言ったら怒るじゃないですかー?」

「怒らねぇから! ちゃんと言いなさい! ぜってぇ怒らねぇから!!」

「本当ですか? 絶対の絶対ですよ?」

「約束するから! なに、どうしたの!? 何が問題なの!?」



「いやー。校長室の机の上にですね、置き忘れて来ちゃいました。……鍵」



「てめぇ! ぶ・ち・殺・す・ぞ!!」



「怒らないって言ったじゃないですか」

「事と次第によらぁ!! ああ、ちくしょう! 莉果ちゃん、時間は!?」

「あ、あと2分ピッタリだし!」


 皆さんの連係プレーが始まります。

 これはここ一番の見所ですよ。


「お前たち、出て来ないでくれ! 一番校長室に近い者は!? そいつが鍵を取りに走って、そこからバケツリレーの要領で! 早く!!」

「佐々木さん。そんな大声を出したら、キャラ崩壊とか言われますよ?」


「君、呪うよ?」

「あ、ごめんなさい」


 ガチのトーンで怒られると、コミュ障は落ち込むんですよ。

 それなのに、みんな酷いなぁ。


「新汰! そこにおらんで、起爆装置の前に来てくれぇや! 鍵の操作が分かるんはお前だけじゃろう!!」

「えっ。俺、操作方法も知りませんよ?」


「えっ」

「はい」


「ど、どう言う事じゃぁ!? ワシに分かるように説明してくれぇ!!」

「いえ、言ったじゃないですか。このゲーム、作ったの俺じゃないですって。だから、起爆装置なんて今、初めて見ましたし」

「ぐぁぁぁぁあぁっ!! そうじゃった! こりゃあ参ったのぉ! 新汰は確かに言うちょったわ! がははは!!」


「阿久津の! ど、どう言うことじゃ!? なんか、まずいんかいのぉ!?」

「神無月の。これまで色々と争うて来たけど、あれじゃのぉ。おどれの事、言うほど嫌いじゃあなかったけぇ……」


「どがいして涙を浮かべて空を見上げるんじゃ!?」

「そりゃあのぉ、涙が零れんようにと。あとは、最期くらい、星っちゅうもんをじっくり見るのも、わるぅなかろう……」


「うわぁーん! お姉ー!! ウチ、今度生まれ変わる時は、おっぱい大きい女子になるかんねー!! 凪紗さん、おっぱい触らせてー!!」

「人生って、終わる時は呆気ないんだねぇ……。凪紗ちゃん、わたしもおっぱい、良いかな?」



「み、皆さん! 諦めちゃダメです! 新汰さんならきっとどうにかしてくれます!!」



 タイマーの残りは、30秒。

 鍵が仮に間に合ったとしても、差込口が分かりません。

 と言うか、差込口って本当にあるんでしょうか。


 俺が企画者だったら、そんなもの最初から作りませんよ?

 だって、デスゲームですもん。

 適当にコード引っ張って、時間切れになったらドカーンが手っ取り早いです。


 あ、コードが伸びてますね。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!!」



 ガコーンっと快音を残して、起爆装置がグラウンドの真ん中の方まですっ飛んでいきました。

 やはり、フルスイングをするなら金属バットに限りますね。

 俺の背中の武器コレクションに入っていて良かった。


 皆さんが唖然としていますが、どうしましょう。

 作業止めた方が良いですかね?

 多分、コード切らないと爆発しますけど。

 近くの人に聞いてみましょう。


「凪紗さん。えーと、あのー。多分助かる方法があるんですけど、やっても良いですか?」


 すると凪紗さんは、白木屋姉妹に胸を鷲掴みにされながら、答えました。


「はいっ!! 新汰さんのやる事に間違いはないって、信じてますから!!」

「あ、そうですか。では、チョッキンと」



「だ、ダメじゃぁぁぁぁ!! 新汰がヤケを起こしおったぁぁぁぁ!! 全員、伏せぇ! せめて、生き残りを増やすんじゃ!」


 阿久津のおじきの号令に、全員が従います。

 俺もしっかりと参加。


「せめて、お前だけでも生き残ってくれ! オレは、お前に1回命、救われてっからよ!! 農場の生活、楽しかったぜ!! あばよ!!」


 なんだかよく分からない事を言いながら、俺に覆いかぶさるペタジーニさん。

 重たいですし、鼻の輪っかが顔に触れて不快なのですが。



 それから3分ほど、全員が微動だにせず、言葉も発さず、呼吸音すら潜めて、時間が止まったのかと錯覚するようでした。

 が、いい加減重たいので、俺が声を出します。


「ペタジーニさん、どいて下さい」


「あれ!? えっ!? 爆発は!? 爆発どうなった!?」

「それなら、このコード切ったから大丈夫ですよ? 言ったじゃないですか、コード切ったら平気ですって」



「言ってねぇよ!!」

「そうでしたっけ?」



「ま、まあ、良いよ! 何でも良い!! おおい、みんなぁ! 新汰がまたやってくれたぞ!! こいつ、1人で勝手に起爆装置を解除しやがった!! すげぇヤツだよマジで!!」


「そんな事はないんですけど……。あれ、どうしてみんなで俺を囲むんですか?」


 もしかして、リンチですか?

 ああ、いつもこうやって、陽キャの人はコミュ障をしいたげる。


「こういう時は、やる事ぁ一つじゃろうが! おどれらぁ! 救世主を胴上げじゃあ! たこたこう! ほれ、行くで! せぇーのぉ!」


「「「わぁーしょい! わーしょい!! わーしょい!!! わーしょい!!!!」」」




 ——酷い目に遭いました。


 なんですか、胴上げって。

 存在は知っていましたけど、あんな拷問方法があるなんて。

 体験するまで分かりませんでしたが、何と言う恐ろしさ。


 いつ地面に叩きつけられるのか分からない恐怖。

 「わっしょい」と言う掛け声で聴覚を奪う悪魔的発想。

 終わりの見えない空中浮遊と高所からの落下。



 陽キャのみなさん、普段からこんな拷問を!?



「新太さん、どうしたんですか!?」

「ああ、凪紗さん。いえ、俺、人生で一番怖かったかもしれません」

「……そうだったんですね。やっぱり、皆さんの命を預かるのって大変ですもんね!」


「あ、違います。誰か一人が死ぬならまだしも、全員同時なら俺、気になりません」


「えーと、それじゃあどうして皆から離れて震えてるんですか? 高東原さんと、郷田さんって方が、今、お迎えのハイエース呼んだそうですよ?」


 気持ちを落ち着けるためには、何か柔らかいものを揉むと良いらしい。

 以前ネットで見ました。


 あ、柔らかそうなものを発見。



「あの、凪紗さん。おっぱい揉ませてもらっても良いですか?」

「ひゃ、ひゃい!? あ、新汰さんがお好きでしゅたりゃ! き、気の済むまで!!」



 あー。なるほど、なるほど。

 これは何と言うか、何も考えずに済むので、良いですね。

 あの、梱包材のプチプチを無限に潰す感覚に似ています。


「おおい、新汰ぁ! 迎えが来るってよぉぉぉぉぉぉぉおい!? これは、なんつーか、すまん! いや、まさかお楽しみ中だと思わねぇで!!」


「あ、構いませんよ? プチプチ潰させてもらってました。凪紗さん、またお願いします」

「……ひゃい。……一歩前進しましたぁ。多分ですけど……」


「凪紗ちゃん、オレ、今ならまだ間に合うと思う。その道は修羅だぜ?」

「承知の上ですよぉ! もう、帰りますよ! ペタジーニさん!!」


「女ってすげぇや……」



 ハイエースが行列を作っている。

 現場を仕切っているのは郷田さん。

 まだ会社内には、彼の派閥があり、権力を行使できたとのこと。


 もう会う事はないですが、良かったですね。


「奈良原様。このハイエース。2台ほどお持ちください。邪魔でしたら、売って換金を。真っ当なルートの車ですので、どうぞ、お納めください」


「なんだかすみません、お土産貰っちゃって。じゃあ、みなさーん! 帰りますよー!!」



 2台のハイエースに分乗。

 何故がペタジーニさんの方が男のみになって、俺の運転する方は女性陣だけになりました。


「やたー!! じゃんけんは勝利のパーが最強だし! ウチ、助手席ゲットー!!」

「じゃあ、スリラー流しながら帰りましょうか」

「うわぁー。すごいシュールな空気になりそうだねぇー」

「ぐぬぬっ、アレキ流したいけど、今日はお兄に譲るし!」

「ふふふっ! 結局いつも通り、新汰さんが助けてくれましたね! お疲れ様です!!」



 さすがに疲れましたね。

 帰りましょう。


 野菜たちが俺を待っています。

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