最凶な妹と最強な精霊の姫
三十人もの星の力を宿した分身達。
この数を相手にしたら既に本物と大差はない。
その筈なのに。
「もう少し粘れよ、面白くねぇな」
俺が銃の引き金を弾くだけで一撃必殺の弾丸と全回復を行う魔法が展開される。
攻守に秀でた魔法だった筈なのに。
魔力無しの相手如きに手も足も出ない。
そんな事って……俺のミライを取り戻す為に費やした時間全てを無駄だと思わせる様に圧倒的で捉えようがない剣。
一人一人、存在を抉るように消されていく。
そこに最初からいなかったように。
段々と引き金の音が少なくなって、考えるようになる。
『俺の番が来ませんように』と願ってしまう。
反撃の意思をも頭から抜け落ちて助けを願う。
俺が銃を向けるのをやめ手をぶらんと下に落とす。
異常な事にそいつは最初からゆっくりと歩いて、ただ剣を振ってただけ。
それだけで何故、この猛攻を凌いでたのかは分からない。
なぜこの状況を覆されたのかも分からない。
ただ姿を変えただけで何故、何故、何故。
何故に疑問が解けぬまま剣は俺に振り上げられた。
終わりを迎えて黒剣を投げる。
『俺はまたユウカに踊らされた』
『私達は知ってましたよ。ただユウ様の昔のお姿を見られて私は役得でした』
仮面を付け直し結界が崩れ去る。
『こっちはもう一仕事だ』
『はい、特定は済んでます。転移しますね』
『神は会った瞬間に消す』
俺は転移の光に包まれた。
『さっさと終わらせてメイド喫茶探しだ』
銃を鳴らしてもヒカリの銃から魔法は展開されない。
ジークはそんなヒカリを見ながら魔力を加速させていく。
そんな中でヒカリは焦り信じられないと言葉を出す。
『分身体が消えた』
『油断しましたね。これで三度目です』
ジークのスキルで魔力が制限されたヒカリは加速したジークを捉えることは出来ない。
斬られたヒカリは自分が無傷な事を確認して余裕を見せる。
ジークは剣を鞘に戻すと
「僕はもう魔力切れです」
呆気なく言うとヒカリはジークに銃を向ける。
ジークはもう抵抗する力も無い。
『終わりだな』
ヒカリはカチャリと銃の引き金を弾いた。
その瞬間、膨大な魔力がヒカリの中で暴発して弾け飛んだ。
『あっ、今魔法使わない方がいいですよって言い忘れてました』
ジークはわざとらしく消し飛んだヒカリに言葉を零すと膝をつく。
ユウカからおつかれ~と軽い連絡が入った。
「はぁ、疲れました」
結界が消滅していく中、アクアはジークに駆け寄り肩を貸す。
「ジーク君ありがとう」
「アクア様あの人の焦った顔みました? 僕達よりも早くにクレスさんは倒してるみたいですよ」
「あの人には敵わないな」
「全くです。アクア様はフランさんとこの後の学園祭を楽しんで帰ってくださいね」
「フランは今」
悔しそうな顔をするアクアだがジークは今入った情報をアクアに伝える。
「フランさんフィーリオンに来てるようですよ」
「大丈夫なのか!」
明らかにソワソワし出したアクア。
それを微笑ましそうに見ながら職務を放棄して自分も想い人を誘って学園祭を周ろうかなと思ってしまう。
「さぁ、帰りましょうか」
二人は転移の光に包まれて行った。
俺は何もない白い空間に降り立つ。
『久しぶりだねユウ君』
「おぉ、女神か懐かしいな」
虹色の瞳を宿す長い白髪の美女。
そんな中で神が白々しく手を叩きながら現れる。
『これはこれ……』
俺は剣を神に向かって振る。
存在が消滅したのを確認してクロに転移を頼む。
「用事は済んだから帰るわ」
「もう行かれるのですか?」
寂しそうにする女神。
「今度ゆっくり話でもしに来るよ。焼き鳥でも持ってな」
「はい。楽しみにしてますね」
不機嫌オーラを出してくるクロを宥めながら俺達は転移した。
『お前らなんなんだよ!』
分身体が全員消えた事に怒りを現すヒカリ。
だがそんな事は姉妹には関係ない。
黒の色を纏う剣と奇跡の光を宿す剣が交錯する。
銃を鳴らしても鳴らしてもその勢いは収まらない。
ヒカリを圧倒していく姉妹。
戦闘の終わりは見え始めていた。
何段階も何十段階も次元を超えて強くなっていく自覚と共に姉妹は決着と剣をヒカリに振りかぶる。
ヒカリは迎え撃つ事も出来ずにただ呆けるだけしか出来なかった。
その姉妹の剣は黒剣で弾き返される。
驚きを示す姉妹は突然現れた仮面の男に剣を向けるとユリアは言葉を投げる。
「ルーラーね」
ルーラーと呼ばれた仮面の男はヒカリに向き直ると拳を固めて力一杯に顔面を殴り飛ばした。
地面を転がりヒカリが体制を立て直すとルーラーは何時の間にかヒカリの傍にいて耳元で囁いた。
『お前をミライに合わせてやる』
ヒカリは目を見開き代わりに口を開くのをやめた。
勝ち目がないと分かっているからかルーラーに従い銃を収めた。
転移の光に包まれたヒカリを見送りルーラーは姉妹に向き直る。
『最後の試練の前座はどうだったかな』
ユリアは怒りの矛先をルーラーに向ける。
「これも貴方が仕組んだことなのかよ!」
荒々しい口調のユリアにルーラーは少し間を開けて問いに答える。
「あぁそうだ」
『なら殺されても文句ねぇよな』
「お姉ちゃん言葉が汚いよ!」
言葉の汚さをティアに咎められるユリア。
「悪い、意識しててもリンク状態だと自然と出ちゃう」
シュンとなったユリアだが、すぐ気を引き締めてルーラーに剣を向ける。
ルーラーは二人をマジマジと見ながら呟く。
「すげぇな、奇跡の礼装なんて初めて見たし概念を創る力は最凶の力までコントロール出来んのかよ。規格外すぎて前座の彼奴には役不足だったな」
「じゃあ貴方なら相手になるって? そうは見えないんだけど」
ユリアの煽りを受けてルーラーは仮面の下で笑う。
「そうだな。お前ら相手だと欠伸が出そうだ」
ルーラーは呟き、何も無い空間から金色のオーラを纏う黒剣を引き抜いた。
俺が戦って来た中でこれ程までの強敵は居ただろうか。
この現在でも段々と二人は呼応しあうように強くなっている。
過去の勇者が適う次元はとうに超えてるんじゃないかとすら思った。
これはユウカが俺に与えてくれた負け時という物かもしれない。
もう楽になっても良いんだよな。
やっと、やっと俺の物語が終わる。
俺はもう超える側じゃなくて超えられる側になっちまったらしい。
なんてな。
『手加減してやるからかかってこいよ』
俺が負ける訳ねぇだろ。
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