ワールドクエスト




 競技大会の会場内。


 煌びやかな服に煌びやかな部屋。


 努力なんてしなくてもここまで余裕で来れたことに俺は感激していた。


 この世界に転生させられて何年経っただろうか……。


 前世の俺がやっていたゲームとそっくりな世界。


 魔法、剣のスキル、魔道具。


 そしてランダム要素が強い固有スキル。


 俺はメニュー画面にあるステータスの【Lv89】を見ながら呟く。


【ワールドクエスト】


 固有スキルを発動させながら今から起きる様々なミッションが俺の視界を埋め尽くす。


 難易度と共にクエストの内容と報酬が記載されている。


 俺の目には今まで見た事のない難易度のクエストが紛れ込んでいた。



『なんだこれは』



 クエストLvの上限は俺がゲームをやってた頃なら【Lv99】が最高だった。


 だが俺が今見ている難易度のクエストは【レベルエラー】の表記がされてある。


 バグか?


 すぐさま俺は報酬を確認すると人の名前が二名書かれていた。


【ユリア・フィールド、ティア・フィールドの婚約条件を満たす】


 誰だよ、コイツら。


【精霊神契約資格を得る】


 精霊の神? なんだそれ。


【最強の証明・無力の証明・決死の努力の証明・英雄の証明・勇者の証明・獣王の証明・深海の証明・剣士の証明の称号を得る】


 こんなの見た事がないな。


【『リミテッド・アビリティー』固有スキル獲得】


 一つのクエストで固有スキルと称号と資格が手に入るのは見たことないな。


 俺と婚約の条件を満たすって事は女だよな……可愛かったら婚約してやってもいいな。


 さて、報酬もレベルも見たし条件を……は?


 俺は条件を見てあ然とする。



【Lv0クレス・フィールドの討伐】



「Lv0を狩るだけでこんな破格な報酬貰ってもいいのかよ! 心底ヌルゲーな世界だなここは!」



 早速俺は固有スキルを発動させる。


【ナビゲート】


 ピコンと俺の感知スキルにクレス・フィールドが引っかかる。


 マップを表示してクレス・フィールドに旗を建てる。


 近づいてくるな。


 競技大会の後にでもサクッと倒して……あぁ忘れるところだった。


 俺はナビゲートでティア・フィールドとユリア・フィールドを検索する。


【カメラオン】


 固有スキルを発動すると二人の顔写真がマップの真上に現れる。


「おぉ! めちゃくちゃ二人共可愛いじゃねぇか! ヤル気がさらに上がったな!」


 俺はその二人にも旗を建てる。


 そしてついでにクレス・フィールドの顔写真も見とくか。


「なんだこの間抜け面……クレス・フィールドめっちゃ弱そう、家名が一緒だから何か繋がりがあるのかもなこの三人」



 レベルエラーはバグっぽいが報酬は確実に貰うからな!








『くしゅん!』


 僕はクレスさんの足が止まったことに疑問を覚えて声をかける。


『何してるんですか? クレスさん』


「ジーク……また誰かが俺の噂をしてるな!」


「そんな事言ってると本当に誰かに目をつけられますよ」


「別に俺は構わないが?」


「いや、僕が困るんですよ!」


 クレスさんが暴れると国が壊れる。


 僕は最悪の想像をして身震いした。


「今失礼な事考えてなかったか?」


「滅相もないですよクレスさん……つきましたよ」



 やっとバトルドームに着いて僕は一息つく。


「それではスーリフォル様、クレスさんを任せましたよ」


「はい、任されました」



 スーリフォル様に後を託して僕は剣聖の仕事に戻る。


「待てジーク!」


 クレスさんの声に振り向くとゆっくりと何かをコチラに投げてきた。


 僕はそれを空中で手に取る。


「串焼き?」


「あぁ、今日のお礼だ」


 全くこの人は……剣聖を案内に使って報酬がこれだけなんて。


「別にいいですよ」


 師匠に頼られるのは何だか悪い気はしない。


 僕もリリアさんやユウカさんのようにクレスさんに甘い人の一人かも知れませんね。



「それでは失礼します」





 僕はクレスさんと別れてすぐさま城下町を走り抜け門を出る。


 城下町のパトロールと今日は魔物を何匹か狩る仕事が入っている。


 国を守るのが僕の剣聖の仕事なんだ。


 クレスさんのお陰で僕は色々な物を守れるようになったんですよ。


 ずっと右手に持っていた串焼きが目に入る。


 お礼ですか……僕には貴方に返しきれない程の恩があるって言うのに。


 その串焼きを頬張り、僕は目の前に見える飛龍の群れに突き進む。


 言葉が分からない飛龍に対して言葉を紡ぐ。



『手加減してやるからかかってこいよ』



 クレスさんの真似をして僕は少し笑ってしまう。


 背中すら見えない目標を掲げて、串焼きを投げ捨て剣を取る。



『僕は貴方にいつか追いつける日が来るんですかね』



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