魔力無しの反抗
ユリア先生とクレスさんに今日も強くなる為に剣術や魔術の事を教わって二人が帰った後も少しだけ習った事の復習をしていた。
遅くなってしまったので僕は早足でフィーリオンの門を潜る。
異変はすぐに起きた。
黒い煙が至る所から立ち上がっているのだ。
家につけば、灯りはついているが何時も『遅い!』と叱りつけてくる両親はいない。
そしてアナウンスがうるさく鳴り出す。
『フィーリオン剣士学園の制服を着た生徒が国に攻撃を仕掛けています、戦える者は拘束をお願いします』
僕はユリア先生やクレスさんに戦い方を教えて貰っている。
『自分の力でこの国を守るんだ』
さっそく家を飛び出して僕も拘束へ向かう。
フィーリオン剣士学園の生徒はすぐに見つかった。
魔力のコントロールなどお構い無しに強力な魔法を辺りに放って国を破壊してる。
僕よりも大きな家が一つの魔法で容易く壊れていく、もしも自分にそんな物が当たれば死ぬ。
クレスさんが軽い口調で言っていた『一つ間違えば死ぬ』のイメージが明確な恐怖になって固まっていく。
今、この現状を見て初めて気づいた。
僕じゃ絶対に適わない魔法の絶大なる力に。
僕は元凶に背を向けて走り出す。
いつの間にか僕は逃げる言い訳を探していた。
魔力がない僕が魔力ある人達に勝てる訳が無い。
魔力も纏えない僕がカスリでもしたら死に直結する。
今の僕には逃げるしかない。
僕は逃げ回っている内に見つけた避難誘導に従って国から避難する。
国の兵士の人達は生徒を一人拘束するのにも苦労していた。
一つの建物の中に入り避難を終える。
安心して壁際に座るとすぐに声をかけられた。
『ねぇ、ジーク君。ナイルを見なかった?』
見上げるとそこには知っている顔の大人達。
僕の事をいつも馬鹿にしている友達の親だ。
『ジーク! 俺の娘のレイナを見なかったか!』
『ジーク君、ユイちゃん見なかった?』
見てないと言うと目に見えるようにガックリと肩を落とす大人達。
僕はいつも一緒に遊んでいた場所を思い出す、まさかまだそこに隠れているのか? でも外は怖い。
怖くて身体が震える。
クレスさんの言葉がふっと過ぎった。
『お前は何の為に力が欲しいんだ?』
こんな時まで僕をからかってくるんですね。
自然と僕の身体が動いてた。
「ちょっと、探してきます」
親達が止めるのを無視して僕はいつも遊んでいた場所に走りだす。
魔法が使えなくたって一緒に逃げる事は出来る。
赤い髪の女の子が口を開く。
『ねぇ、ここに隠れてて本当に平気かな?』
ヤンチャそうな青髪の男の子は二人を励ますように自分を奮い立たせるように声を出す。
『俺達はジークと違って魔法が使えるんだぜ! 怖がることねぇよ、いざとなったら戦って逃げればいい』
紫の髪の女の子は青髪の男の子の言葉に応える。
『そうよね、ジーク君と違って私達は魔法が使える』
三人は物陰に隠れて身を潜める。
爆発の音が鳴る度にビクッと肩を揺らす子供たち。
ここは子供達がたまり場にしている家と家の隙間の路地裏の行き止まり。
誰も人が来ないこの路地裏には子供達が寄せ集めてきた物が置いてある。
四人だけが知る秘密基地。
だが今は三人だけしかいない。
三人は物陰に隠れている。
赤い髪の女の子は、紫の髪の女の子に問いかける。
「レイナちゃん、ジーク君怒ってるかな」
レイナと呼ばれた紫髪の女の子は赤い髪の女の子に言葉を返す。
「最近ここに来ないわよねジーク君、ユイは心配なの?」
自分も危険な状態なのにジークの心配をする赤い髪の女の子ユイ。
「うん、今頃どうしてるのかな、ちゃんと逃げ切れたかな? 次に会ったら謝りたいな」
それが気に食わなかったのか舌打ちをする青髪の男の子。
「チッ!」
レイナは青髪の男の子に強めの口調で言葉を漏らす。
「ナイルがあんな事言うからよ」
ナイルと呼ばれた青髪の男の子はレイナの言葉に立ち上がり大声で反論する。
「はっ! ジークの魔力が無いのが悪いんッ!」
レイナが急いで立ち上がりナイルの口を手で塞ぐ。
「しっ! そんなに声を出したら」
立ち上がっている二人の目にはフィーリオンの制服を着た青年が映る。
『こんな所に子供が居たか! 無事か?』
青年の右腕が立っている二人に向かって伸ばされた。
『風よ、切り刻め』
青年の周りに風が渦巻く。
『フェン』
助かったと思った二人だったが。
「ダメ〜!」
隠れていたユイが勢いよく立っていた二人を突き飛ばす。
転んだ三人の後ろをシュッと何かが通ると行き止まりだった壁が切り刻まれたようにバラバラと崩れ落ちる。
それを見ていた三人はゾッとする。
「に、逃げなきゃ」
レイナが一言呟くと三人は勢いよく立ち上がり、崩れた壁を乗り越えて逃げる。
後ろで渦巻く風に触れればアウト。
「魔法でどうにかするんじゃなかったの!」
「見れば分かるだろ! 俺達が力を合わせてもあの威力の魔法防げるわけない」
レイナとナイルの言い争い。
「ママ、パパ……助けてよぉ」
後ろから追いかけていたユイはそんな二人を見ながらついに堪えきれなくなって涙を流す。
「きゃ!」
そんな中、ユイが瓦礫に足を取られて倒れる。
「ユイ!」
レイナが倒れたユイに気づくとナイルとレイナはユイのもとへと戻る。
『追いついたぞ』
虚ろな瞳の青年が楽しんでいるのか笑顔で近寄ってくる。
「くそ! 俺の魔法で!」
ナイルが青年に手を向けると。
『水よ、いけ!』
水の玉がふよふよと漂いゆっくりと青年に向って放たれる。
青年はそれを纏っている風で弾くとパシュッと風船から空気が抜けたような音と共に消えた。
「俺の魔法が!」
ナイルは全身の力が抜けてその場に座り込む。
『効く訳ないだろ、そんな初級魔法』
青年は両手を三人の子供に向ける。
『魔法はこう使うんだよ』
緑色のオーラルを纏う青年。
『荒くれる風は暴風の槍となり、妨げられる壁を貫け』
一瞬の静寂、その場でふいているだろう全ての風が青年の手に集まっていく。
『フェンスエール』
魔法が手元から離れ、纏められた暴風が三人に迫る。
『ごめんね、ジーク君、謝れなくて』
スっと誰かが三人を庇うように立ちはだかる。
『ユイちゃんはいつも自分より人の事を心配しますね』
『えっ! ジーク君!?』
暴風が三人の後ろで暴発する。
「逃げてください!」
ジークの登場に生を諦めていた三人は驚き、ユイはジークに声をかけるが、ジークの怒鳴り声を浴びてしまう。
「早く!」
青年はそんなのもお構い無しに上級の魔法を放ってくる。
『フェンスエール』
「早く逃げてください!」
掠りでもしたら魔力無しのジークは死に直結する魔法。
今のジークに出来るのは魔法を少し対象からそらすだけ。
『フェンスエール』
青年が魔法を放つ度にジークの身体を切り刻み、血が地面を汚す。
ジークは心の中で言葉を反復させながら剣を握り、集中力を高めていく。
『薄く、研ぎ澄ませ、魔力を剣の一部に集中』
クレスから唯一教えて貰った剣技をジークは思い出す。
フィーリオンの外れにある木陰で木にもたれかかっているクレスにジークが声をかける。
「クレスさん、魔力無しでも魔法を斬れる方法って無いですか?」
「神速を超えればたぶん誰だって斬れるぞ」
「それ以外でお願いします」
「お前の魔力がだいたい五百ぐらいだな、それは魔力無しって呼ばれるぐらいの魔力量だ」
「はい」
「魔力が少ない奴の利点は魔力コントロールが容易なことにある。今から教える方法は魔法を斬る程の威力はないが少しだけ魔法に干渉できるようになる」
「それはなんですか?」
「魔力を相手の魔法が触れる部分にお前の全魔力乗せろ」
「それ……成功しますか? 成功しても一回限りじゃないですか」
「少し違うな、真正面から受けずにそらすだけ、魔力を循環させながら一瞬だけ力を込める技だ。魔力の循環がこの技のキモだ、タイミングを間違えれば魔法に相殺されて魔力切れ、最悪死ぬ」
「でもそれを物に出来れば……」
「あぁ、そらすだけなら何度だって可能だな、この技術だけで何年かかるか分かんないし、俺が教えても誰もやろうとしなかった理想だけどな」
「何故です?」
『魔法と戦える? 笑っちゃうよな、絶大なる魔法の力に魔力ない奴はみんな諦めるからだよ』
魔力を込めるタイミング、魔法の流れを少し変えるように剣でそらす。
集中、集中、集中、集中。
『フェンスエール』
あれから何度魔法を逸らしたのか、暴風が横を吹き抜け余波で身体に切り傷を残す。
まだ完璧には出来ていないが、ギリギリ成功している状態だ。
血を流し過ぎたのか意識がぼやけてくる。
後ろの友達は固まったように動かない。
それが逆に僕の意識を保たせていた。
『そこに助けを求めている大切な人がいるなら守りたい』
「もういい、遊びは終わりだ!」
青年はイラついたように辺りに暴風を撒き散らす。
『神の怒りをもって知れ、世界を揺らめく風は一つとなり神速を生む』
風が巻き起こりグラグラと周りが揺れる。
『フィンリーフェル』
緑色のオーラを纏う風がジークに向かう。
神級の強大な魔法に抗うように一歩も引かないジーク。
『大切な者は守れたみたいだな、さすが俺の弟子だ』
黒髪の少年がジークの前に現れると。
『リミテッド・アビリティー』
少年が何も無い空間から金色のオーラを纏う黒剣を引き抜く。
その黒剣を迫り来る絶大なる魔法に一振り。
それだけで音もなく魔法が消え失せた。
「まさか剣の勇者様」
『何言ってんだ? 俺はお前の師匠だろ』
そう言うとクレスは一瞬で青年に近ずいて腹を殴ると青年を気絶させる。
『ジーク、さっさとそいつらを連れて逃げろよ』
「は、はい!」
ジークを見送った後に轟音が俺のもとまで届く。膨大な魔力が垂れ流され音の鳴り響いている方向に目を向ける。
『この魔力は……』
『はい、レニウスですね』
クロの補足で思い出す、裏切ったアイツを。
『お前は死んでも許さねぇ』
俺はその場所に向かって駆けた。
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