ヤル気の源
登校中の事です。
寮から学園までの通学路には簡易的なゲートがあり、私は毎日そのゲートの横を素通りします。
そして毎日上級生のマルコフさんに止められます。
「おい、待て!」
学園には安全に学園生活を送る為の非公認な納税制度があります。私はお兄様から貰っている大切なお金をそんな事の為に使いたくありません。
毎日一ゴールドなんて払っていたらすぐにでも底をつきます。
お兄様に言えば、私にお金を用意してくれるでしょう……ですが迷惑はかけたくないのです。
「私は絶対に払いません!」
「きゅい!」
アリアスちゃんも私に同意してくれるように鳴き声をあげます。
毎日戦闘を繰り返しているのですがマルコフさんは強いです。必死で攻撃を避けていたら服が砂で汚れ、ホツレが出てきます。
服に魔力を流すと発動する修繕機能が無ければ、そっちの方でお金がかかっていましたね。
私は腰に掛けている鞘からグランゼルを引き抜き、戦闘態勢に入るとマルコフさんは硬直して顔色を変えました。
舌打ちをして私を睨んでいます。
「今日はここまでだ! 撤収するぞ!」
なんだか分かりませんが今日は早く帰ってくれるそうです、毎日始業のチャイムが鳴るまで私にお金を払わせようとするのに。
マルコフさん達は凄い速さでゲートを回収すると、すぐさま走って行ってしまいました。
私はほっと息を吐いて、グランゼルを鞘にしまいます。
『あら貴女、どうして道の真ん中で突っ立っているのかしら?』
私がほっとしていた所に後ろから声がしたのでビクッと肩を揺らして振り向きます。
「ふふ、面白い娘ね」
私の前にいる人は、非公認な納税制度の元凶。
惹き付けられる笑みは魅力的で出来る女の人という感じが強いです。
私はそんなソフィアさんに言いたい事がありました。
「ソフィアさん! 納税制度なんて辞めてください!」
「納税制度? なんのことかしら? 久々に寮から学園に行くっていうのもいいわね、こんな面白い事を言う娘に会えるんだもの」
えっ? 納税制度を知らない?
ふふっと笑うソフィアさんが少し考え込むような仕草をする。
「え〜と……フランちゃんで良かったかしら?」
「なんで私の名前を?」
「貴女だけじゃなくて学園のみんなの名前を覚えているわよ」
自慢気に胸を張るソフィアさん。
私も可笑しくなって少し吹き出す。
「貴女は笑顔の方が素敵ね、どうかしら私と一緒に行かない?」
「はい」
ソフィアさんは私の手を引くと歩き出す。
マルコフさん達が一生懸命に仕える理由も分かりますね。ソフィアさんにはそれだけの魅力があります。
納税制度はマルコフさん達がソフィアさんの名前を使って勝手にやっている事でしょうか?
立ち止まっていた私にお声がかかります。
「何を考えているの?」
「い、いえ何も!」
変な事を考えている余裕はありませんでした、今日はラグナロクの日です……頑張らないと。
私はソフィアさんとお喋りをしながら学園に向かった。
俺は武道館の豪華な椅子にくつろぎながら座っている。
だら〜っと!
今日はラグナロクの日、もう生徒はラグナロクの会場に行ってしまったようで、ここに居るのは出場選手だけだ。
ダラダラと座っている俺に向かって大声で怒鳴る奴がいる。
「おい、お前はあの時のガキか!」
俺は怒鳴った男をチラッと見るとすぐさま目をそらし無視を決め込む。
俺が無視した事に何かアクションを起こすと思ったが他に興味が移ったみたいだ。
男は隣にいるフランを指差し喋り出した。
『おい、お前も参加してるのか?』
フランが喋りかけられた瞬間にビクッと肩を揺らすのが見えた。
フランは男の顔を見ずに小声で喋る。
「は、はい……」
男にはその小声が気に食わなかったようだ。
「声が小せぇんだよ!」
それは無視できないよな。
俺は無視する事をやめて口を挟む。
「嫌がられてるのが分からないのか? 雑魚野郎」
「上級生に対して口の聞き方がなってないようだな!」
コイツは入学式の時に校門の前で絡んできた奴としか覚えてないな。
『よしなさい、マルコフ』
俺に掴みかかる勢いだった男が後ろから響く女の声で静止する。
「ハッ!」
マルコフと呼ばれた男が女に振り向き片膝を地につけ頭を下げる。
俺は女に視線を向ける。
生徒会長のようなお堅い雰囲気のある美少女が居た。
「誰だ?」
「ソフィアよ! ソフィア・アークエド!」
入学式に絡んできた奴か……。
『キュイ〜』
さっきから顔を伏せてるフランにアリアスは心配そうに声をかける。
最近ボロボロになって遅刻する事が増えたフランに俺は疑問を感じていた。
助けるのは簡単だ、問題を元から排除したらいいからな。だがそれで良いのかと敢えて手出ししてない。
フランがイジメを受けないように俺は学園に入ったが、それをすぐに排除したら意味がない。
そう! 俺は兄として成長したのだ!
見守る事の重要性を。
俺はダラダラと腰掛けている椅子に背筋を伸ばして座り直す。
そしてソフィアを睨みつける。
『お前らフランに何かしたか?』
ソフィアは睨みつけられてたじろぐ。
「な、なにもしてないわよ!」
殺気がマルコフとソフィアを飲み込む。
俺は釘を刺しておくことにした。
「何かしたら許さないからな?」
「してないわよ!」
ソフィアは何もしてないらしいな。
「さっさと席につけよ」
「入学式から上級生を敬う態度がないと思ってたけど、ラグナロクで何かあっても助けてあげないんだからね!」
「はいはい」
俺の返事にフンと鼻を鳴らして、クルッと俺に背を向けるソフィア。
「行くわよ! マルコフ」
マルコフは覚えてろよと捨て台詞を残しソフィアと共に少し離れた席に向かって行った。
フランは俺を見上げると疑問の声を出す。
「何で?」
その疑問は何で口を挟んだのかという事だろうか? 兄としては当然だが……ここは。
「友達だからな」
俺はフランに向かって笑顔で応える。
ここでは頼る者がほとんど居ない中で必死に頑張ってる妹の手助けをしてやるのも兄の務めだ!
リリアが武道館に入ってきた。
この武道館には転移の術式が天井に書かれていて、魔力を流すと発動する仕掛けになっている。
『それでは行きます!』
リリアが声を出すのに呼応して天井に刻まれた魔法陣が光輝く。
前の時は教師が全員で魔力を流していたが、今回はリリア一人みたいだ。
一瞬の浮遊感と共に風景が一変する。
俺は煩いぐらいの歓声に包まれているラグナロク会場へと転移した。
上では映画のスクリーンのような物が魔法で展開されていて擬似空間の様子が観客席から見える様になっている。
前のラグナロクのように闘技場の真ん中には時空が歪んで亀裂のような物が現れている。
それに入ると擬似空間に転移されるのだ。
ルールは覚えてない、どうせ全員倒せば勝ちなんだからな。
出場者の生徒達が亀裂に入っていく中でリリアは俺にゆっくりと近づいてくる。
俺の目の前で立ち止まると風呂敷に包まれた物を俺に渡してくる。
「クレス君、頑張って来てくださいね」
「こ、これは!」
頬を朱にせめてリリアは俺から目をそらす。
「そうですよ、クレス君が昨日から楽しみにしてたので頑張って朝から作りました」
お弁当じゃないか!
「頑張る!」
学園から支給される弁当よりもこっちの方が断然いい!
これは勝たないとな。
リリアに見送られながら俺達は時空の亀裂に飛び込んだのだった。
『頑張ってね……お兄ちゃん』
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