神の娘



 闇の空間で二人の人物が語り合う。


 そこには女と男の二人だけ、テーブルを挟むように座っていた。


 男は声を出して笑う。


「やっとだ、やっと見つけた探し求めた神の娘を」


 男はニタニタと笑いながら続ける。


「ルナリアとメディアルの神の娘もこれで俺達の物に出来る」


 男の話に女も口を挟む。


「ヴェルドが私情を挟んで神の娘を消そうと企んでいたけど返り討ちにされるなんてね」


「ヴェルドの事はもういい、それよりまさか奴隷の中に神の娘が紛れ込んでいるとは、愉快だったな」


 闇が支配する空間に一つの切れ目が扉の様に広がる。


「「入れ」」


 二人が入ることを許可すると。


 ペタペタと音をならしながら首輪をつけた幼女が現れる。


 薄いボロボロな布切れを羽織るように着て、クスんだ金髪と蒼の瞳の幼女。


 幼女は震える声で二人の顔を交互に見ながら語りかける。



『ごしゅじんさま?』



 幼女は二人の人物を見比べて、どちらが主人なのか分かってないようだ。


 そして女が椅子から立ち上がると幼女に近寄る。


「お前は奴隷じゃない、家族だ」



『かぞく?』


 幼女は首を傾げて疑問顔だ。



「私の事はママと呼んでもいいよ」


「じゃあ、俺はパパか?」


「気色悪いことを言うな! お前はそうだな、ゴミだ」



『ごみ? ママ?』



 幼女は指を椅子に座っている男と近くにいる女、交互に視線を向ける。


「かぞくってなに?」


「奴隷に落ちて家族の暖かさを知らないだね」


 パンっと女が手を叩くと、男の目の前のテーブルに豪華な料理が出てくる。


 その料理を見て幼女のお腹から可愛らしい音が漏れる。


『た、たべてもいいの?』



「一緒に食べよう、お前は家族なのだから」


 お前と言われた幼女はムッとすると声を出す。



『ティアはティア』



 女はすぐにティアの気に触れた事で謝罪の言葉を口にする。


「悪かったなティア」


 女はティアの手を引きテーブルにつくと女は椅子座り膝を叩く。


 ティアは女の膝の上に座り家族の食事が始まる。


 一口を精一杯に頬張ったティアは満足そうな表情をした後、目に涙を貯める。


『おいしい!』


 そしてまた食べる。


 女はティアの頬をポケットから取り出したハンカチで拭う。


「楽しく食事をしよう、ティアの事を教えてくれ」



『うん』



 

 ティアは食事の手を休める事なく、女と喋った。


 ティアは泥水をすすり、味のない物を食べて生きてきたのだと言うのだ。


 そして親の顔は知らず、ティアという名前だけは奴隷商人が教えてくれたという。


 楽しい食事とは程遠い重い話がティアの口から語られる。


 女は重い話から話題を変える。


「すごく美味しそうに食べるな」


『うん! ひとりぼっちでたべるより、みんなでたべるほうが、おいしい』



 ティアは楽しそうに、だけど涙を流しながら食事をしたのだった。


 それはティアが初めて誰かと話ながら食事をしたからかもしれない。


「ママ達のお願い聞いてくれる?」


「なんのおねがい?」


 ティアは女の願いに首を傾げる。


「王子様がママの言う事聞いてくれないの、だから言う事を聞いてくれるようにお願いしてくれる?」


「それはダメなこと?」


「違うよ、少しだけ言う事聞いてくれるようにお願いするだけだよ」


『それなら、ティアがんばる!』



 女の笑顔から覗く冷めた瞳をティアは気づくことは出来ない。






 王城。


『君は誰だ?』


 ダリアード王国の城の中で幼女がアクアと対面する。


 アクアは誰が城に入れたのか分からないが、声をかけてみることにした。



『ティアはティア』



「ティアちゃんは何処から来たのかな?」


 アクアは疑問に思っていた、髪はくすみ、服はボロボロな幼女、そして首輪をつけている。


 ダリアードでは奴隷を見つけたら解放するようにと指令を出している。


 なのに何故奴隷が?


「今から奴隷の首輪を外すよ、少し痛いけどガマンできるかな?」


 アクアはまず奴隷の首輪を外そうと近寄る。



『ママがはずしちゃダメって』



 アクアが近づくとティアは後ろに下がる。


 怖がらせたのかと思いアクアは近寄るのを止めると、安心させるように自己紹介を始める。


「ごめんね、僕はアクアだよ」


 アクアという名前を聞いてティアは笑みを見せる。


 そしてアクアにはその笑顔に見覚えがあった。


「もしかして君って……」


 アクアの声を遮ってティアは質問を投げかける。


『おにいさんが、おうじさま?』


「まぁ、そうだね」


 ティアはアクアに近寄りちょいちょいと服を引っ張ると、アクアはティアの目線の高さが合うように膝をつく。



『おねがいがあるの』



「なんだい?」



『ティアのどれいになって』



「えっ?」


 ティアの瞳が虹色に輝く。



『マインド』



 闇から出てきた女はティアを褒める。



「よくやったね、ティア」


 そしてティアの目の前には、瞳の色が無くなったように意識がないアクアがいた。


「アクア命令だよ、神の娘リリア・フィールドを私達のもとまで連れてこい」


「……はい」


 アクアは女の命令に頷く。



 そして頭痛がアクアを襲う。


「くっ! 僕は何してたんだ? ティアちゃんは何処だ?」


 周りを見渡しても幼女は見当たらない、アクアは不思議な感覚に陥る。



『そうだ、リリアさんをあの方のもとまで』



 自分が言ったことに疑問も覚えないまま、アクアはダリアードを出るのだった。



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