尊厳
『ユウ様起きてください』
眠っていた俺の意識が覚醒する。
『何かあったか?』
『もう終わりましたよ』
『悪いな、最近あんまり寝てなくてな』
『ユウ様の頼みなら喜んで』
無事に入学式を終えた俺は家に帰ることにする。
俺が席を立つと周りの視線を集める。
なんで皆んな席を立ってないんだ?
『貴方は一年生で特待生だとしても、終わってない式で帰ろうとするとはどういう心境なのかしら』
まだ終わってなかったらしい。
壇上にいる生徒会長みたいな女が俺に向かって言ってきた。
『クロ?』
『予定時間を過ぎましたので終わりかと、精霊は人族の行事には疎いのです』
まぁしょうがない。
俺が頼んでクロは終わったと思って起こしてくれた、そこに間違いはない。
俺は出入口の扉へ足を進める。
「おいおい、もう時間じゃないのか?」
「予定は予定です、延びることもあります。在校生代表として私はここに居て、貴方達に入学を歓迎する言葉を贈ることが今の私の使命です」
「昼御飯食ってないからお腹すいたので帰ります。そのありがたい言葉という物は俺以外の奴等に贈ってくれ」
生徒会長からただならぬ魔力を感じる。
さすが在校生代表ってところなのか。
緑色のオーラルを生徒会長は纏うと魔力が微かに揺れる。
「出れるなら出てもいいわよ」
俺が出入口の扉の前につくと、生徒会長から許可が出た。
俺は扉を開けようとするが……開かない。
アイツ何かやりやがったな。
俺は腰にかけている鞘から剣を抜き取る。
グランゼルはリリアに預けてフランに返しておくように言っておいた。
スッと剣を扉に向かって振ると扉に薄い障壁が現れる。
それを無視して剣を振り抜く。
扉はバタンと倒れ、奥には通路が見える。
「貴方! 何を!」
「扉が壊れていたから、これだと皆んな帰るとき不便だろ? 俺が開けといたから心配ないぞ」
「私の障壁を斬るなんて信じられない!」
えっ? そこ?
「生徒会長さんがこれやったのか? 帰れって言っといて邪魔するとか最悪だな、嫌がらせですか?」
「生徒会長って誰よ! 私はソフィア・アークエド。この学園の四年生で特待生よ」
「へ~、じゃあな」
生徒会長じゃなくソフィアだった。
ソフィアは生徒会長っていうお堅い感じの雰囲気がある。
高嶺の花、お嬢様とかがシックリくるな。
桃色の長い髪にスタイルもスレンダーで胸はそこそこかな。
「待ちなさい! 貴方はクレス君よね」
「あぁ、そうだけど」
「覚えておくわ」
俺は意味深な言葉をソフィアから言われながら武道館を出た。
学園の門の近くには制服を着た沢山の生徒達が居た、たぶん新入生歓迎だろうか。
俺は通り過ぎようと歩みを進める。
そんな中で男に絡まれた。
『お前だよなリリア様に何かした奴は』
今度はなんだよ。
男が話しかけてくると学園の門を閉鎖するよう沢山の生徒達が一斉に整列した。
「こんなに大勢で歓迎されるとさすがに照れる」
「「「違う!」」」
統一されすぎだろ。
俺を待っていたのか?
その大勢の生徒の代表みたいな大男が俺に近寄ってくる。
「お前がクレスか?」
「違いますね、人違いです……通ってもいいですか?」
「あっ! そうか」
バカが!
男はスッと俺の前を開けると大男の周りにいた勘の良い奴がすかさずフォローを入れる。
「ソフィア様からの報告と一緒です。それと今、外に出ている新入生は彼だけですよ」
大男は俺を睨みつける。
「お前は俺を騙したのか?」
俺の中でコイツは既に脳筋だ。
「騙されてれば良かったのに」
「なんだと!」
脳筋のこめかみがピクピクと痙攣して拳を握る。
「リリアに何かしたって関係ないだろ? 俺とリリアはもう恋人なんだから」
脳筋は緑色のオーラルを纏うと、俺は咄嗟に脳筋から離れる。
俺が居た場所には脳筋の拳がめり込んでいた。
緑色の魔力を拳に集めて強化してるみたいだ。
「リリア様の弱味でも握ったか! 俺が男という物をお前に教えてやる。女の弱味を握るっていうのがどんだけゲスな行いかってなぁぁぁ!」
脳筋は叫ぶと一瞬で俺の前に姿を現す。
それも拳を振りかぶった状態で。
「オラァァァァ!」
俺が避けると地面にクレーターが出来上がっていた。
「お前がどれだけ騒いでも俺がリリアと恋人なのはかわらん」
「ほざけぇぇぇ!」
ドゴン、ドゴンと俺が避ける度に地面にクレーターが出来上がっていく。
「くらえぇぇぇ!」
脳筋の瞳が茶色から緑色に変わる。
『
男は離れた所から拳に魔力を溜めながら何もない空間を殴り付ける。
「ッ!」
俺は食らってない筈なのに腹を突き抜かれたような痛みを味わい後ろに吹き飛ばされる。
「驚いたか? 驚いたよな、相手に殴ったという事実だけを与える俺の能力は」
でたチート。
能力に頼ってるような奴に俺が負けるわけないだろ。
「お前みたいの見てるとイライラするんだよ、最初から持ってない奴の事を考えた事があるか?」
「お前は魔力ないみたいだからな! 俺の力が羨ましいか? リリア様の恋人を今すぐにやめるっていうなら、助けてやる」
「リリアがそんな事言ったのか?」
「魔力無い学園最弱な奴がリリア様に相応しいわけないだろ!」
脳筋の言葉を聞いてクロが心の中で話しかけてくる。
『ユウ様に向かって! 許せません。ユウ様、私の力を使って……』
『いや、クロ……やめてくれ』
『ユウ様、ですが』
『いや、久しぶりにイラッとしただけだ、コイツはリリアを侮辱した』
リリアが今やろうとしていることは、魔力が無い奴でも強くなれるってことだぞ。
それを最初から否定しやがって。
男は俺が一歩踏み出すと後退する。
『ユウ様、殺したら駄目ですよ』
『そんな事はわかってる』
『いや、凄い殺気なので』
俺はそんなに怒ってるのか、自覚なかった。
脳筋は俺の殺気にあてられてか? 震えているのは。
「リリアが魔力ない奴が最弱と言ったか? 言ってないよな。リリアが魔力ない奴を罵った事はあるか? そんなことないよな。リリアが魔力ある奴が最強と言ったか? 絶対言わないよな」
俺は離れた男に一歩ずつ近づく。
『だってな、リリアは知ってるから』
俺は腰にある剣を引き抜く。
『世界で最強だったのは魔力がまったく無い奴だってな』
「うるせぇぇぇぇ!」
男は震えた身体を鼓舞するように大声を出して再度、拳を振るう。
ドスッと俺の腹辺りから鈍い音がなる。
俺はそこから動かない。
「なんでだよ! 効いてんだろ!」
俺は男に剣を向ける。
『手加減してやるからかかってこいよ』
魔力がない奴が最弱?
『魔力無くてもお前ぐらいは余裕で倒すことが出来るって今から証明してやるよ』
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