欲しかった物



「俺の妹に変な事を吹き込んだ奴出てこいよ」


「さすがだね、剣の勇者」


 リリアの声からはリリアの意思を全く感じない。




『乱入者は退場してください』


 アナウンスが流れる。




「ほら、さっさと消えてくれないかな」


「俺の妹を返してくれたら、お前の前から消えてやるよ」


 後ろにいる剣聖、周りにいる客を無視しては戦えない。


「アリアス行けるか?」


 肩に乗っていたアリアスが人化すると詠唱を口にする。


『壊れること、朽ちることなく、再生を繰り返す、永劫の檻』



「女性を強制エスコートとはお前はなってないな」


 リリアがアリアスに振った剣を俺が止める。


「よく言われるよ」


『ホーリークリエイト』





 空と大地が続いていく世界。


 俺とリリアはそんな場所に転移する。


 作られた世界に。


「ミリアードの姫は厄介な事をしてくれたな」

 

「痛い思いをしたくなかったらさっさとリリアから離れろ」


「私がこの娘から出るのはお前を殺した時だ!」


 リリアが俺に向かって剣を振る、俺はそれを全力で避ける。




「逃げてばかりだな、剣の勇者!」


 リリアの中に入ってる奴は俺の逃げ惑う様が楽しいのか笑っている。


 リリアが剣を振る度に、その斬撃は地面を抉る。


 可愛い妹に力は出せない。


 世界を守る? そんなことより妹を優先するのはお兄ちゃんの特権だろ。


「契約で乗っ取ったのか?」


「察しがいいな、契約の代価は剣の勇者の命だ」


 それが嘘か本当か、俺には調べるすべがない。




『本当だよ、僕の直感が言ってる』




「お前らなんで来たんだ?」


 そこにはユウカ、トウマ、アリアス、フィリアがいた。


「クレス君が困ってるって思ってね」


「ユウカ、リリアに攻撃するなよ!」


「そんなことしないさ」


 じゃあ何しに来たんだよ。


「アリアスは空間維持してたんじゃないのか?」


「女神様が代わってくれました」


「女神だと! 私の邪魔をしやがって!」


 リリアの中の奴が苛立ちを見せる。


「ユウカ! リリアの中に入ってる奴は誰なんだ」


 俺達はリリアの攻撃を避けながら言葉を交わす。


「邪神と闇の女神だね、邪神は取り込まれてるみたいだけど」


 直感でそこまで分かる物なのか?




『じゃ、後は頼んだ!』



 リリアを救えるなら、俺の答えは決まっている。


『『『えっ!』』』


 その場にいる全員、闇の女神も含めて驚きの声を出す。


 トウマ以外は。



 透明な剣に自ら突っ込んだ俺は透明な剣を赤く濡らす。


『……お兄ちゃん』


 ふっと黒い煙がリリアの中から出ると邪神を取り込んだ闇の女神が姿を現す。


「簡単だった、予想以上に」


 闇の女神も困惑を隠しきれないようだ。


 リリアは涙を流す、無理をしたのか透明な剣を放してパタリと俺に向かって倒れる。


 段々と力がなくなっていく俺の身体で必死にリリアを支える。


 契約に頼ってまで、俺に追い付きたかったのか。


 俺が突き放したからリリアは契約に頼ったのか。


 ユウカの方が間違ってなかったのかもな。


『ごめんな、リリア』


 俺はリリアをその場に優しく寝かせると俺も意識を手放した。





『リリアの為ならやると思ったよ!』


 唯一クレスの行動を読んでいたトウマはクレスに近づく。


「何をする気だ、お前にはもうデスキャンセルはない、そしてクレスの身体も消える」


 透明な剣に刺さっていたクレス。その透明な剣から滲み出す虹色のオーラが既に全身に周り、トウマが近くに来た時にはクレスの身体は粒子になり消えていった。




『契約だ! 邪神』



「契約でクレスを復活させようと言うのか? 代価はお前の命じゃぞ」


 フィリアがトウマの横に立つ。


「契約だ、代価は俺の命」


 トウマはそれでも揺らがない。


「なんでそこまで!」


 フィリアはトウマの行動が分からなかった。


「素直に剣の勇者を復活させるまで待ってると思っているのか!」


 闇の女神はトウマに向かって虹色の玉を放つ。




『家族を助けるのに理由はいらないよな、ソーダ!』




 アリアスに向かって叫ぶトウマ。


 アリアスは頷きホーリークリエイトで闇の女神の魔法からトウマを守る。



『契約じゃ、代価はクレスの復活』


『契約だ、代価は俺の命』




 トウマの身体が少しづつ粒子になり消えていく、それと共に消えたはずのクレスの周りを粒子が形作り少しづつ姿を現す。



『これでやっと俺の役目は終わったよな』


 復活していくクレスを見る。



『何もない俺なんかを家族だと言ってくれたよな』


 そしてクレスの横で寝息をたてているリリアを見る。


『この世界のリリアには俺なんかじゃなく、クレスが必要なんだよ。今度こそ、リリアが幸せになる未来の為に』


 トウマは運命がこの為に俺を生かしてたんじゃないかと思った。


 だがクレスに想う感情は一つしかなかった。


 それはこの為だけに生きてたとしてもクレスに会えて嬉しかったという感情だけ。


『ありがとう』


 トウマは一言残すと消え去った。







 俺の意識が覚醒する。


 俺はその場で立ち上がり、トウマが居た場所に向かって叫ぶ。


「なんで俺なんだよ! トウマ! 自分の命を無駄にする俺なんか生き返らせたところで、お前には何も残らないだろが!」


 トウマが消えたと同時に俺は生き返った、夢のような空間でトウマの声がずっと聞こえていた。



「最後のありがとうってなんだよ! お前にはまだ何も、何も、何も……してやれてないじゃないか」




 チャリンと地面にトウマの冒険者プレートが落ちる。


 俺はそれを拾う。





『ずっとトウマが欲しかった物ってこれでよかったのか』




 そのプレートには。




『トウマ・フィールド』と名前が刻まれていた。



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