相性



「様子が変だな」


 俺はリリアを見た瞬間に嫌な感じがした。


「リリアちゃんの魔力がおかしい」


 ユウカも気づいたようだ。


 リリアの身体から白銀の魔力が滲み出ているからだ。


 見せつけるように圧倒的な魔力を。



『試験を開始します』


 メディアルの剣聖適性の試験が始まる。


 


精霊化オーラルフォーゼ


 リリアの瞳が蒼色から虹色に変わり、白銀のオーラルも瞳と同じ色に変わる。


『天空の光よ、私に力を貸して』


 虹色のオーラルを纏う透明な剣がリリアの手に現れる。


 剣聖適正の希望者達は一瞬でリリアを標的に定める。




 そして一瞬で終わる。


「弱いですよ」


 リリアが呟くとその場の希望者達は一人残らず倒れる。



『勝者リリア・フィールド』


 リリアの圧倒的な勝利に剣聖適性の試験は幕を閉じる。


『休憩時間を挟んで剣聖試験を開始します』


「そんなの良いから早く始めてよ!」


 リリアの声と共に剣聖がコロシアムに降り立つ。


『君すごいね』


 剣聖が鋭い目でリリアを見る。


 メディアルの魔物襲来だけじゃなく幾度ともメディアルを救った自負がある剣聖。


 こんな小娘に負けないと。


『それでは予定よりも早くなりましたが剣聖試験を始めます。リリア・フィールド様はリューク・ディル様を倒すと剣聖になることができます』


「僕に勝てると本気で思ってるのかい?」


「貴方に勝てないぐらいじゃ私は絶対に追い付けない」




『君、何に焦ってるんだい?』




 黒銀の魔力を纏ったリュークが動く。


 鞘から剣を引き抜くとリリアとの距離を詰める。


 リリアの圧倒的な魔力にたじろぐ事なくリュークは剣を振り抜く。


「僕はこれでも剣聖なんだよ」


 圧倒的なはずのリリアがリュークに押されていた。


「なんでって顔だね」


 リリアはリュークに心の中を見られたような感覚に陥る。


「僕と戦う人は皆んな同じ顔をするから」


 上段から振られた剣をリリアは弾き返して距離を取る。


「私の方が強いはずなのに」


「そう君の方が強いよ、僕のオーラルの能力は下克上」


 リリアは天敵のような能力に驚きを隠せない。


『下克上』は自分よりも魔力が多い者の差を埋める能力。


「僕はね、フィーリオン剣士学園の卒業生で君の先輩なんだよ」


 そしてとリュークは呟く。


「入学したときに僕は学園最弱と言われた」


 リュークは学園最弱で剣聖まで登り詰めた真の強者。




『君みたいな偽者とは違うんだよ!』




 リュークはその力がリリアの物だとは思えなかった。偽りの力を手に入れているリリアに苛立ちを見せる。


「……さい」


 リリアは弱者から剣聖になったリュークを見ていると少し羨ましく感じてしまった。


 まさに憧れた英雄章の剣の勇者が目の前にいるように思えてしまったからだ。


『うるさい!』


 リリアの魔力がさらに上がっていく。


 だが下克上の能力でリュークの魔力も上がっていく。


 リュークの瞳の色が変わる。


精霊化オーラルフォーゼ

 

 茶色の瞳が紫に染まる。


「でも貴方は私と同等になっただけ!」


「そうだね『スイッチ』」


 精霊化の能力を発動させるリューク。


 持っていた剣が姿を変える。


 剣が弓に。


 魔力で作った矢がリリアに向かって放たれる。


 その矢は絶大な魔力を纏う。


 リリアも距離が離れると不利な事に気付き、矢を避けながら距離を詰める。


 懐に飛び込んだリリアだったが。


『スイッチ』


 弓がリュークの拳に集まる。


 魔力が込められた拳がリリアの腹を抉る。


 リリアも不意を突かれたが魔力を腹に集めて緩和させる。


「なんで私はこれだけの力があるのに!」


 リリアの苛立ちは頂点に届く。


 一瞬で勝つと思っていたリリアには予想外の事が起こりすぎていた。


『力の使い方が雑なんだよね』


 脳内に響く声にリリアは耳を傾ける。


『なんで勝とうとしてるの? 勝とうとしてもソイツには勝てない相性が悪すぎる』


 リリアはその声の意味が分からなかった。




『殺せ』


 


『はい』


 リリアの瞳から生気が消える。


 その瞬間にリュークの足に闇が絡み付く。


「動けない!」


 リュークは縛られたように動けなくなっていた。


 リリアは透明な剣をリュークの命を刈り取るように動かす。





 リュークとリリアの間に一人の人物が乱入する。


 リュークの首筋を捉えたはずのリリアの剣がピタリと止まる。




『俺の妹に変な事を吹き込んだ奴出てこいよ』



 金色に染まるオーラを纏った黒剣がリリアの透明な剣を止めていた。

 



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