家族










 トウマと仲良く寝ていた俺は飛び起きてギルドに向かう。


「ふふふ、俺達が本気出せばすぐにでも飯が食える」


 そう、俺達は昨日から飯抜きだ。


 ぐ~と腹から腹へったと主張する音が聞こえる。


 そして肩の軽さに今更ながらに違和感を覚える。



「アリアスどこ?」


 朝起きた時はいたような?。


「あのチビドラゴンなら昨日ギルドに行く前にどっかに飛んでったぞ?」


 トウマ……なぜ言わない。


 まず宿でもギルドでもドラゴンにいっさい触れて来ないのは気になっていたが、まさか最初から居なかったとは……色々あったから周囲を確認する余裕がなかったのかな。


「まずギルドに行く前にアリアスを探すことにする」


「ほっといてもいいんじゃないか? 最強の魔術師だろ?」


「お前はわかってないな、アリアスの探求心には底がない。自分が興味があるものに向かっていく習性がある」


「どんな物にでもか?」


「あぁ、どんな物にでもだ。ほっとけばほっとくほどアリアスは危険に自ら足を突っ込む」


 アリアスと一緒にいて死にそうになった事を思い出す。






 俺達は宿を出てアリアスを探し始める。


「お~い、アリ……ソーダどこだ~」


 ペットにアリアスとつけるとヤバイんじゃないか?


 ミリアードが少し心配だな、剣の勇者がこの世界で暴れた事になっている。


 アレクも言っていた、勇者が起こしたことは召喚した国が責任を持つと。


「しょうがない、あれを使うか?」


「あれだと?」


「俺の第三の能力だ」


 第一、異世界言語の自動翻訳。


 第二、理不尽を切り裂く剣の召喚。


 第三の能力。


『気まぐれな探索』


 この能力は異世界に来る前から俺についていた能力だ。


「『気まぐれな探索』聞いたことない能力だな」


「説明してやろう、俺はなどんな物、どんな人でも近くにあれば一時間で探し出す事ができるのだ!」


 遠くに居れば居るほど時間がかかるが確実に探せる。


「それ方向音痴なだけじゃ……」


「はっ! 方向音痴をこじらせたような能力じゃねぇんだよ! 俺の元からある能力なんだよ」


「方向音痴を認めないとか方向音痴の典型だよな」


「俺の能力をバカにすんなよ! 俺の力を見せてやる」


「ちょっと待って」


 俺はトウマの声に振り返る。


『サーチ』


 トウマは目を閉じ何かを呟く。


「そっちの方向じゃないな、全くの逆方向だ」


「そんな能力あるなら最初から出せや」


 俺は全力でトウマが言った方向へ走る。


「そこ左だって! おい、逆に行くなって!」


 トウマの声を背に俺は走る。







「キュイ!」


「どこ居たんだ?」


「そこのベンチでさっきまで寝てたな」


 クレスは一時間かけてアリアスのもとにたどり着いた。


「チビドラゴンはクレスと離れて五分後ぐらいで見つかったぞ」


 アリアスはトウマの肩に乗っている。


「チートにはわからない! 俺の気持ちなんて!」


「いや、こんなチートよりもクレスの力の方が俺には羨ましいよ、前の世界でそれほどの力があったならと少し考えてしまうからな」


「じゃあお前には俺の剣術を教えてやろう」


「ほんとか! 次こそは大切な者を守れる勇者になるよ」


「大切な者の中に俺もアリアスも入ってるんだろうな」


「あぁ」


「よしそれじゃ、チビドラゴンじゃなくてアリアスをソーダと呼べ! ソーダは俺の家族だからな」


「よろしくなソーダ」


 トウマは少し羨ましいなと思ってしまった。


「キュイ!」


「トウマお前は俺のシモベだ」


「そうだな」


「お前は俺の傍にいて俺もソーダも守れ」


「あぁわかっている」




『そしたら俺がお前を守ってやる、もうお前は家族だからな』




「何て言った」


「なんだろうな? ギルドに行くぞ~」


「キュイ~」


 アリアスはトウマの肩を離れ、クレスの肩に飛び乗る。





「家族か……」


 大切な者を全て失ったトウマに『大切な者』を全てくれるクレス。


 そして大切な者を全て守れるだろう強い意思と力。


 トウマはこんな勇者になりたいと、こんな勇者になりたかったと初めて想った。




「トウマ・フィールドとかか?」


 トウマは呟くと目が霞む。


「お~い、置いていくぞ~」


「あぁ」


 トウマはボヤけた視界を裾で拭う。


「おい、どうした」


 クレスはトウマを心配して近寄る。


「ちょっと目に、ゴミ、がな」


「そうか」


 クレスの笑う姿が目に写る。




『今度こそは守れるかな……守りたいな……違うな……守るんだ』



 トウマは心の中で再度クレスに誓うのだった。


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