草むしり



 俺は女神とも別れ、今冒険者ギルドの前にいる。


 金もない、頼れる者もいない俺はまず金を集める事にした。


 大事な妹がお兄ちゃんを忘れて平和に暮らす。


 願っても無いことだ!


 俺が関わる事で妹様に危険が迫る事は充分に知ったからな。


 女神からも。




『ユウ君が関わらなかったらリリアはいつまでも平和だったのにね』




 とか去り際に言われて俺は妹様には関わらず影から見守ることを決意した。


 たとえ忘れられたとしてもだ!


 妹様が平和に暮らせれば俺は生きていける。


「なにボソボソ言ってる」


「はっ? お前に大事な人から忘れ去られた俺の気持ちが分かるか!」


「……分かるよ」


「そうか、ならいいけどな」


「キュイ!」


 コイツの存在を忘れていた、コイツは妹様を影から守ろう会の副会長のトウマだ。


 意識を取り戻したトウマに別次元のリリアはもう助けられない事を話した時は心が崩壊しそうだったが、そこで俺は今の次元のリリアの事を話した。


 俺が色々と吹き込み、もう同じ過ちは繰り返したくないとトウマは俺に誓い忠実なシモベとなった。


 会長は俺、会員は二名だけ。


 俺達はさっそく冒険者ギルドの中に入る。


 憧れていた冒険者という職業。



「はい、冒険者になりたいと言うことですね、それでは説明に入りたいと思います」


 若いお姉さんが俺達に色々と教えてくれた。


 まず冒険者の階級。


 初心者、中級者、上級者、マスター、レジェンド。


 階級によって難易度も、受けるクエストも、制限がかかるらしい。


 依頼を受けるには冒険者専用のプレートを依頼の紙に押し付けると自動的に受ける事が出来るらしい。


 依頼完了はお姉さんにプレートを持って来て特別な魔法石を当てると、完了は青、まだ完了してないと赤の光を放つらしい。


「簡単な説明は以上です、それではこの水晶の上に手を置いてください」


 二つ並べられた水晶玉の上に右手を置く。


 水晶玉からピシッと音がして粉々に崩れさった。


 勿論トウマの水晶玉だけがだ!


「そ、測定不能!」


 お姉さんがキラキラとした目で見ている。


 勿論トウマだけを!


「あ、あの俺はどうですか?」


「あぁはいはい、え~とクレス・フィールド君でしたね。魔力10しかないと魔力無しと言われる事は知っていますね。魔力無しの人は初心者の枠から永久に上に行けないと思うのでさっさと帰って家で寝た方が命を無駄にしなくていいですよ」


「……どうしても冒険者になりたいんですが」


「そうですか、じゃあこちらの初心者のネームレスプレートを渡すので頑張ってください」


 なげやり感がはんぱねぇ。


「すいませんトウマ様! お待たせしました、プレートに名前を掘るので少々お時間がかかると思います」


「いや、俺も初心者のシルバープレートでいいんだけど」


「いえいえ、トウマ様はこの冒険者ギルド始まって以来の逸材です、そんなトウマ様に初心者のネームレスプレートなんて渡せませんよ!」


 ネームレスねぇ……。


 俺は適当に投げつけられた名前が入ってない首にかけるプレートを見つめる。


「じゃあ俺の階級は?」


「はい、勿論マスターからです。測定不能の魔力の持ち主にはマスターの称号が与えられます」


 へぇー。


「でもさ、なんか試験とかないの? 他の冒険者の人に悪いんじゃない?」


 俺がお姉さんに話しかけると。


「はっ? まだ居たんですか? 魔力が多い人、しかも測定不能なんですよ? 魔力が多い人は強いに決まってるじゃないですか、魔力無しの人は同じ質問しかしないんで頭が悪いのかと思いますね」


 態度がトウマと俺とじゃ全然違うじゃねぇか!


「使えない魔力無しは喋りかけないでください」


 短時間で使えない奴認定になってしまった。


「レジェンドは昔は居たそうですが今はいません、測定不能の魔力とそれに見合うだけの功績が必要になるからです、トウマ様は数少ないマスターなのでギルドは出来る限り支援を致します」


「ところでさ、魔力が階級に関係あるなら功績をどんなに積んだって初心者から上がれないの?」


「まだ居たのかよガキ、功績を積めばそれ相応の階級が与えられます、頑張ってそこら辺の草むしりの依頼を一生分積み重ねたら中級者に上がるんじゃないですか? 頑張ってください、後さっさと帰ってください」


 とうとうガキに。


「はいトウマ様、ネームプレートが出来ました」


 お姉さんは黒のプレートをトウマに渡す。


 名前が黄色の文字で「トウマ」とだけ入っている。


「トウマ様、これからもフィーリオンギルドをご贔屓に」


 改めてこの世界の常識がわかってしまった。


【依頼草むしり 10シルバー】


 という依頼の紙にプレートを当てると淡い光を放つ。


 俺はさっそく草むしりから始めることにした。


 初心者が受けれる物は決まってるからな。



 報酬はコイン、シルバー、ゴールド、プラチナという単位らしい。


 コイン1円、シルバー100円、ゴールド1万円、プラチナ100万円。


 これはあくまでも報酬の単位でクレジットカードみたいな魔法カードでお金を払うから計算はしなくてもオーケーだ!


 身分証明書とクレジットカードが融合したカードだな。


 前の世界よりもハイテクだよな!


 普通は誰でもこの魔法カードを持ってはいるが、名無しや身分がない人の為にギルドカード。


 ネームレスやネームプレートにもその機能が付いているらしい。


 しかも本人の魔力に反応する魔道具だから他人は使えない。


 なんてハイテクなんだ!


 ネームレスは身分証明書にはならないので身分証明書のカードがない人は頑張ろう。


 裕福な家庭で育った俺には関係な……。


 ……。


 俺はポケットをまさぐる。


 ……。


 ……ない。


 俺は大変な事に気づいてしまった。


 今までお母様の手伝いをしてコツコツ貯めたお金がないだと!


 女神が使った魔法がここまで影響しているとは。


「俺はすぐに中級者にならなくては行けなくなった!」


「今頃気づいたのかよ」


「魔物退治にでも行くか!」


「その依頼はどうするんだ?」


「キャンセ……」


「言っとくがその依頼のキャンセル料は20シルバーだったぞ」


 報酬よりも高いだと!


「ネームレスプレートを見てみろよ」


 俺はネームレスプレートを見てみると。


 右下に【草むしり10シルバー キャンセル20シルバー】と刻まれていた。


「勿論、草むしりはやるに決まってるだろ? 俺は一度受けたら確実にやりとげる!」


「俺も草むしり受けてきた、一緒に頑張ろうぜ」


「ト、トウマ」


 俺達は朝から晩まで草むしりをしてギルドに報告をしに行った。


 まさかとは思っていたが何キロ取ったとかの制限がない依頼は一日拘束だと初めて知った。


 そして宿屋が飯つきで一ゴールドということも初めて知った。


 身分無しが一人でもいると信用がないということで値引きや後払いも出来ない。


 トウマだけは融通が利いたが。


「俺はクレスだけが辛い思いをするのは我慢できない、俺はお前のシモベだしな」


 コイツなにめっちゃカッコいい!


 逆の立場だったらと考えると当然俺はトウマを置いて泊まっていたがそれは口には出さない。


 その日は一人部屋、飯抜きで二十シルバーの宿のベットで二人仲良く眠った。




『『明日は魔物を乱獲する』』




 二人は決意を固めたのだった。


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