復讐









「マクロード様~もう二週間ですよ~」


「全然反応ないな、地震が起きたぐらいか?」


 マクロード達は儀式の為に外には一歩も出ていない、外の情報も知らない。


 勇者召喚はこの儀式を確実に成功させるための実験だった。


 女神の神託は女神を信じるもので交信の魔法を使えばある程度聞くことができる。


 その交信では世界の流れをある程度聞くことができるのだ。



「もう一度儀式をやり直すか?」


「マクロード様~食料ももう少しで無くなりま~す」


「それではもう一度儀式をやります。は~い輪になって~」


「「「は~い」」」



 黒フード達は虹の石が置かれている台座の周りを囲む。


「魔力を送れ!」


 黒フード達はマクロードの言葉と共に虹の石に魔力を流し込む。


「おっと」


 マクロードはボロボロの本を落としそうになり、空中で本を掴む。


「……」


 ボロボロの本の表紙を見て固まる。



「どうしたんですか? マクロード様~」


「え~と、この本じゃないんだけど」


「「「えっ!」」」


 黒フード達は魔力を送るのを止める。


「『禁断の書』を持ち込んだ奴は誰だ~」


「俺で~す」


 台座を囲んでいる黒フードAが手を上げる。


「『俺の考えた最強の魔法』とか古代文字エンシャント・スペルで書いた奴は誰だ~」


「ちょ、誰だよ! 俺の本を勝手にマクロード様に渡した奴~」


 黒フードBが叫ぶ。


「ごめんな重要な奴かと思った~、だって古代文字で書かれてるんだもん」


 黒フードCが立ち上がる。


「これはどうゆう魔法なんだ?」



「それはですね……」



 黒フードBはマクロードの問に暗い顔をする。


「「「それは?」」」


 マクロードを含む黒フード達は黒フードBの言葉を待つ。




「適当です! 適当に古代文字で繋げてみました!」


「「「えー」」」


 黒フード達は驚きの声をあげる


「どうすんの? 成功しちまったじゃねぇ~か!」


「地震起きましたね」


「ま、まぁいい『禁断の書』はどこだ?」


「倉庫にあると思うんでちょっと取ってきます!」


 黒フードDが立ち上がり、倉庫に駆け出す。




「取ってきました~」


 古代文字『禁断の書』と書かれた本をマクロードに渡す。


「それでは儀式を再度行う!」


「「「はい!」」」


「このボロボロの本を作った奴はあとで罰を与えます」


 マクロードは無駄に凝って作られた本を投げ捨てる。


「うわ~絶対晩御飯無くなった〜」


 黒フードBは膝をつき項垂れる。


「うぇ~い」


「罰だってよ~」


「ざま~」


 周囲からは黒フードBを貶す声が響く。



「よし準備しろよ~」


「「「は~い!」」」


 黒フード達は虹の石に魔力を流し込む。


『永遠の時の中……』


 マクロードは詠唱を始める。




 三十分後……。


『神との、隔たり、を越えて……』


 詠唱を聞きながら黒フード達は思った。


『『『きっ! きちぃ……なんだよこれ』』』


 マクロードも言葉が重く、詠唱を切らないように紡ぐのがやっとだ。




 二時間後……。


『煌め、きより現れ、しは誠に……』


 黒フード達の魔力が乱れ始める。


 誰もが今にも倒れそうだ。


 黒フード達は膝をつき『もう少し、もう少し』と自分に言い聞かせながら魔力を流す。


 マクロードも詠唱に膨大な魔力を注ぎ込んでいる。




 四時間後……とうとうその時はきた。


『英雄よ、枷をつけ、権限において、顕現せよ』


 黒フード達は残り少ない魔力を振り絞る。

 

『パラドックス・タイムテーブル』


 マクロードが告げると虹の石が光輝く。



「「「や、やったぁぁぁぁぁ!」」」


 黒フード達は膝をつきながら歓声をあげる。




 ドンッ。


 光が収まると台座が一瞬で砕けちり、その上に一つの影が姿を現す。


「これで魔族と人族を根絶やしにできる」


 マクロードは笑みを浮かべる。



『俺を呼んだのはお前か?』


 黒い影がマクロードに声をかける。


『願いを言え、それが枷を外す条件なんだろ?』


 黒い影がプレッシャーを放つ。


「あ、あぁ、それは人族と魔族を根絶やしにすることだ! あとは好きにしていい」


 マクロードや黒フード達はそのプレッシャーで押し潰されそうだ。


『いいのか? そんな簡単な願いで俺は……』


 黒い影が光りに当たり姿を現す。


 黒髪と淡い虹色を宿す目。


 右手には虹色のオーラを纏う剣。




『歴代最強の勇者だぞ』




 この世界では存在しないはずの……。


 六代目の勇者。


 全てを無に返すほどの力を持った最強。


「私たちはそれだけでいい」


『最強の勇者がまさか『獣族』ごときに使われる日が来るとはな』


 マクロードは頭を下げて歯ぎしりをする。


 黒フード達も血が出る程に手を握りしめる。


『まぁいい、まずは魔族と人族どちらを滅ぼすか』


 歴代最強の勇者と名乗る人物は一言呟くと光りが溶けるように消えていった。




「マクロード様、アイツに頼んで大丈夫なんですかね?」


 黒フード達がマクロードのもとに集まる。


「大丈夫だ。お前達は私が必ず、必ず守るからな」


「「「マクロード様~」」」


 マクロードに黒フード達が一斉に抱きつく。




 人族と魔族の戦争に巻き込まれた獣族は家族を失い、住む家も失い、何もかも失った。


  いつしか魔族、人族に復讐しようと誓う。



 そして最強を別の次元から呼び寄せるという女神が書いた『禁断の書』を手に入れ、復讐する為に動くのだった。



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