強制





 クレスに殺気を飛ばしたリリア達は気を取り直してラグナロクの優勝特典の願いを言うことにする。


「僕の願いは願いを一人一つにして~」


『そういう願いは無理です、他の願いを言ってください』


 アナウンスで即答されたユウカ。


「でもさ~、僕達は勇者にいきなり乱入されたんだよ? 少しぐらい何かあってもいいよね~」


 勇者達を呼んだのはユウカなのだが……。


 ユウカはリリアとミミリアを交互に見る。


「う、うん」


「そう、ですね」


 リリアとミミリアは頷くしかない。


『少しお待ちください』


 そこでアナウンスがプツリと切れる。



「待つのか~じゃあ行くよ!」


 ユウカの声に二人は頷きバトルフィールドを後にする。


 出口には気絶している勇者達がタンカで運ばれていた。




 もちろん向かう先は。


「お兄ちゃん!」


「クレス!」


「クレス君!」


 三人の前には椅子に座ったクレスがいる。


「僕達に言うことは?」


「そうだな……」


 クレスは顔をふせる。



 ガバッと立ち上がり。



「優勝おめでとう~!」


 クレスは満面の笑みだ。


「「「「違う!」」」」


 リリア達の中に座っていたフィリアも入る。


「さっきの説明をしてくれるかい?」


「さっきの?」


「あれはダメだと思うよお兄ちゃん!」


 ユウカとリリアはクレスに詰め寄る。


 クレスはやっと自分がしたことを理解する。


「あれはシャドウだな。精霊神に記憶の石が消えるところを再現して貰った」


 シャドウはホーリートレースと同じ効果の闇属性の魔法だ。


「嘘でもあんなことはもうやめてよ」


「あ、あぁ」


 涙ぐむリリアに迫られてクレスは反省する。



 そこでアナウンスが流れる。


『勇者の乱入により迷惑されたということで願いを三個まで認めます』


 ユウカはニヤリと笑う。


「まず大きな家が欲しい! お金をずっと払わなくていい家が!」


『了解しました、家ですね? どこに建てますか?』


「建ててくれるのかい? じゃあ学園に通える距離で~静かな所で~ぐらいかな~」


「私は~おっきな庭も欲しい」


 ユウカが言い終わるとリリアがそれに付け加える。



『了解しました。それでは後二つの願いを言ってください』


「フィリアちゃんをフィーリオン剣士学園に強制入学で!」


 ユウカが願いを言う。


「ちょっと待て、どうして我が!」


「せっかく仲良くなったのに……フィリアちゃんは嫌なの?」


 リリアはフィリアに近づき目線を合わせながら問う。


「い、嫌ではないが我は他の学園には行けないのじゃ」


 それぞれの学園では入学後に違う学園には入れなくなる。


 ユウカは入学の手続きだけしかしてなかったのでフィーリオン剣士学園にはスムーズに入れた。


「「強制入学で!」」


 リリアとユウカが叫ぶ。


『了解しました。続いて後一つの願いを言ってください』

 


「最後の願いはミリアード王国の国宝、グランゼルを譲って~」


「えっ!」


 ミミリアは聞いていなかったのかユウカの言葉に驚きの声をあげる。


「ミミリアちゃん、あれは元々誰のかな?」


「お姉ちゃん、あの黒剣はお兄ちゃんが使ってた時に凄く嬉しそうだったよ~」


「そうですね。剣に心があるのならグランゼルは剣の勇者に持っていて欲しいでしょう」


 ミミリアは倉庫で厳重に保管されるよりもクレスに持っていて貰いたいと思う。


『了解しました。ミリアード王国に確認を取りますので少しの間お待ちください』



「グランゼルは誰が欲しいんだ?」


 クレスは疑問に思ったのか口を開く。


「クレス君、聞いてなかったのかい? クレス君にグランゼルをかえすんだよ」


「願いを俺のために使ってよかったのか?」


「いいんだよお兄ちゃん!」


「ならいいんだが、ありがとな」


 リリア、ミミリア、ユウカはクレスの感謝の言葉に頬を朱に染める。



 アナウンスが流れる。


『ミリアード王国はミミリア様に託すつもりだったとの事なのでミミリア様からの承諾を得れば可能です』


「私は別にいいぞ」


 ミミリアが承諾する。


『それでは』


 バトルフィールドに落ちているグランゼルが光に包まれ、リリア達の前に鞘と一緒に転移する。


『ミリアード王国から所有権が移ります』


 空中に浮いている鞘とグランゼルをリリアが取る。


「はい、お兄ちゃん」


 リリアから差し出された鞘とグランゼルをクレスは受けとる。


「ありがとな」


 クレスは満面の笑みで再度感謝を伝える。


「う、うん」


 三人共にクレスの顔を見れない。


 腰に鞘を掛けて嬉しそうにキラリと輝くグランゼルを鞘にしまう。


「姿は変わったが昔の剣の勇者を思い出す、懐かしい」


 フィリアはクレスを見ながら懐かしんでいる。


『優勝特典も終わったので転移を開始します』


 アナウンスが響くと会場中の全ての人が光に包まれる。




 光がおさまるとラグナロクに転移する前のようにクレスは武道館の椅子に腰掛けていた。


 転移で静まりかえった武道館が急激に熱を取り戻す。


「やっと終わったか」


 クレスは一息つく。


 騒がしい武道館の中で先生達は泣きながら優勝したことを発表し、優勝に貢献した十一人の生徒を表彰している。


 武道館の隅の方では一緒に転移させられたらしいフィリアが入学の手続きを初めていた。





『平和を望んでいた俺だがこういう騒がしいのは悪くないな』


 クレスは平和で騒がしい日常を楽しんでいるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る