泳ぐしかない!










「あと何人倒せば勝ちになるんだよ~」


 周辺が海のステージになっている小さな島の浜辺にユウカ達が座っている。いつまでも終わる気配がないラグナロクに対してユウカだけが不満をぶちまけていた。


 各学園の十一人の生徒がこのラグナロクに出場している。


 光の勇者、反発の勇者、闇の勇者、精霊の勇者、剣の勇者、邪神。


 それぞれ違う目標を掲げ目指している学園。


 このラグナロクには六十六人の生徒が出場していることになる。



 

『これより出場者の集計を行います』


 ユウカの不満を聞いたかのようにアナウンスが流れ、ラグナロクの今いる生徒がわかるらしい。



「へぇ~、こんなものがあるんだ」


 ユウカ達はそのアナウンスに耳を傾ける。


「いえ、今回のラグナロクは早すぎるのだと思いますよ」


「早すぎる?」


 ミミリアの言葉に疑問を示すユウカ。


「はい、最長で一週間と言いましたが、最低でも三日は続くと言われているのですよ? それが一日もまだたってない状況で出場者が半分近く退場したのだと思います。だから今回は緊急措置として後何人残っているのかを知らせる必要が出てきたのだと」


「知らせる必要があるのかな? だって知らない方が警戒もするし後何人かが分からない状態の方が心理戦にも有効じゃないかな?」


「だからです」


「だから?」


「はい、心理戦は人数が多い方が有利すぎるんですよ。だからあえて何人の出場者がいるかを提示して自分達が何人なのか、敵は何人なのかを知ることで作戦をたてやすくすることが目的なんじゃないかと思いますよ」


「そうだよね、人数が少ない方が不利だけど相手の人数を知ってれば立ち回りも変わってくるよね」


 ユウカはミミリアの話に納得したようだ。




 そしてアナウンスが流れる。


『集計が終わりました。フィーリオン剣士学園残り三名、全体残り三十二名、以上になります』


 そしてプチっと何かが切れた音がしてアナウンスが途切れる。



「えっ? なんだったのかな?」


「これは意図的に私達が不利になっただけですね」


「僕達の学園三人だけってことは、ここにいる僕達だけってことで、残り二十九名ってことは、単純に計算しても他の学園は五人ぐらいかな?」


「はい、そして私達だけが人数を公開されました。人数が多い学園からは真っ先に狙われるでしょうね」


「なんで僕達だけがこんな扱いなの?」


「闇の勇者様がいるからだと思いますよ」


「でも他にも勇者いるじゃん、不公平だ~!」


 ユウカは不公平を海に向かって叫ぶ。


 他にはもう勇者はいないのだが。






「僕はなにをやっているんだ」


「どうしたのユウカちゃん」


 浜辺で俯いたユウカにリリアは優しく声をかける。


 ユウカはガバッと起き上がり。



「海なら泳ぐしかないじゃないか!」


「ユウカちゃん泳ぐのは無理だよ~、制服濡れちゃうし」


 リリアは制服が濡れるのが嫌みたいだ。


「水遊びぐらいなら平気だよ。リリアちゃん行こ、ミミリアちゃんも早く~」


 ユウカはリリアの手を引き海に向かって走る。


 あと海まで数歩の所で。




 海があった所はマグマが流れ、洞窟のようなステージに変わった。


 マグマを見ながら膝をつくユウカ。


「なんなんだい? これは嫌がらせなのかい?」


「ユウカちゃん元気だして」


 リリアはユウカを励ます。


「そうですよ、ユウカ様、元気をだしてください」


 ミミリアもユウカを励ます。


「う、うん、僕は頑張るよ」


 熱気に満ちた洞窟の中、ユウカは顔をあげる。


「僕は水遊びがしたかったんだよ。リリアちゃん、ミミリアちゃんと一緒に遊びたかった」


「ユウカちゃん、次の休みの日は一緒に海に行こうよ」


「私も行きますよ」


 リリアが提案してミミリアも提案に乗る。


「ほんと?」


「うん!」


「はい」


 二人に励ましと海に行く約束を貰い、段々と元気を取り戻していくユウカ。


「そうだね、次の休みの日は海だ~!」


「海だ~」


 ユウカとリリアが両手をあげて叫ぶ。




「でも僕は今やりたい」


 ユウカの身体全体を半透明な水色のオーラが流れ、そして両目が水色に染まる。


 精霊化オーラルフォーゼだ。


 ユウカはマグマの中に飛び込む。


「なんか温泉に入ってる気分だよ、リリアちゃんも来る?」


「私には無理だよ~」


「それはどうかな!」


 ユウカは近くに来ていたリリアとミミリアの手を引っ張り、無理矢理マグマの中に引きずり込む。


「「きゃっ!」」


 二人が可愛らしく悲鳴をあげる。


「熱! くない、暖かいよ」


「本当に温泉に入ってるみたいですね」


 ユウカとミミリアは安全を確かめて身体の力を抜く。


 二人はマグマの中で身体を触りながら温泉みたいな快適な温度のマグマに身を投げ出していた。


「これはユウカちゃんの能力?」


「うん、水の精霊化の能力だよ。僕の周りの温度を変えれるんだ~別にマグマに入る必要はないんだけどね。水のオーラルの能力が身体に薄い膜を張れるんだけど防御機能は結構高いんだよ」


 ユウカの精霊化の能力が温度調整、オーラルの能力が盾の生成。


「ユウカちゃん、凄いね~」


「まぁね」


 褒めるリリアにユウカは得意気だ。


「ユウカちゃん、神化しんかっていうの使ってたけど、ユウカちゃんは全部の属性が得意属性なの?」


 リリアは疑問を口にすると。


「そうだけど、あれは奥の手だからあまり話したらダメだよ~」


 ユウカはそれに応える。


「そうだよね、秘密だね」


「秘密だよ~」


 笑顔で内緒話をする。




 それから数分後。


「皆上がって! 早く!」


 他愛ない話をしてたら突然にユウカが二人に叫ぶ。


 その様子に二人は慌ててマグマから出る。


 リリアは最後に出たユウカに声をかける。


「どうしたのユウカちゃん」


「いや~思ったより能力の同時発動の消費が大きくてね、ほら」


 ユウカは自分の目を指差して。


「目が戻ってるでしょ、魔力が切れそうになってね、あと数秒気づくのに遅れてたら三人とも燃えてたね」


 笑いながら話すユウカに。



『笑い事じゃないよ』


『笑い事じゃありません!』



 二人はそれを聞いて冷や汗を流すのだった。





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