チビじゃない







 ユウカとリリアとミミリアの三人は森の中にいる。


 始まってから五~六時間は経ち、ランダムで場所を決めているのか、また森のステージだ。


「今、残ってる人は何人なのかな~」


「もう結構経つよね~」


 リリアとユウカが座り込み楽しく喋っている。


「もう少し気を張ってくれ」


 ずっと周囲を警戒しているミミリアが二人に言い放つ。


「だってさ~お腹も空いたし強敵! って感じる人とも会えないし、つまんない~」


「闇の勇者なユウカ様を煩わせる相手がいたならこっちから遠慮したいです」


 この三人の中で飛び抜けて強いのがユウカだ。


「え~ミミリアちゃん、そんなこと言ってたら剣の勇者になんか到底追い付かないよ」


「クレスは規格外ですから」


「またまた~、ミミリアちゃんはクレス君と肩を並べるほど強くなりたいんでしょ」


「な、なんでそれを! ……違いますよ!」


 ミミリアは頬を朱に染めながら否定する。


「見てれば分かるよ~」


 それをユウカがからかう。




 ユウカとリリアが立ち上がり。


「ほら~ミミリアちゃんが強敵なんて言うから来ちゃったよ」


「私はそんなこと言ってない! ユウカ様が言ってたじゃないですか!」


 ミミリアが否定した時、木の影から姿を表す人物が。


「おっ! 可愛い子達はっけ~ん」


 精霊の勇者ソラ・ミズキだ。


 ソラは染めた金髪の髪に甘いマスク、イケメン勇者だ。


「帰ってくれないかな、僕達は君とは戦いたくないんだけど」


「おっ! その声ダークネスか!」


 ソラは驚きに満ちた声を出す。


「よく分かったね、正体を隠してる時は風の魔法で声を低くしてたんだけど」


「ダークネスが女の子だったって噂で聞いててね。前から華奢な奴だとは思ってたんだよ。あと声を低くしたからって俺にはわかっちゃうよ、だってこんな美少女だ……」


 ユウカはソラの声を遮る。


「ふ~ん、まぁ君には興味なんてないからどうでもいいんだけど」


「俺に言い寄ってくる美少女達は沢山いるけど、そうやって俺の事を軽くあしらう女の子を落とすのが燃えるんだよ!」


 ソラは剣を構える。


「知らないのかい? 女の子には優しくするものだよ」


 ユウカ、リリア、ミミリアが呪文を詠唱する。


『天空の光よ、僕に力を』


『天空の光よ、私に力を貸して』


『漆黒の闇よ、形をなし我が手の中へ』


 透明な剣が二本と銀の剣が現れる。


「こっちは三人で君は一人かい?」


「俺は一人でも三人を相手に出来るけど魔力の消費が激しそうだね」


「やはり我の力がいるか、精霊の勇者よ」


 どこからか聞こえる声に精霊の勇者が答える。




「まっ共闘と行こうじゃないか元邪神さん」


 森の中で闇が空中に集まっていき人の形になっていく。


「久しぶりよのう、闇の勇者」


 艶のある黒髪を腰まで伸ばし、つり目で吸い込まれそうな紫色の瞳、手足が細く白い肌、そして人を見下した雰囲気。





「チビ」


 ユウカがぼそりと呟く。


「チビじゃなかろう! 我と貴様の身長は変わらぬではないか!」


 元邪神様は顔を赤くして吠える。


「僕は153だけど? 君は?」


「146じゃ」


 ボソボソと邪神が呟く。


「ずいぶん盛ったね~、チビじゃん」


「バカにするな~! 我はまだ完全に復活出来てないのじゃ!」


「前とはずいぶん違うからね、誰もが見惚れるだろうスタイルだったのに笑っちゃうよ」


 ミミリアは歴史に名を刻んだ最強の勢揃いに言葉が出ない。


 リリアは立っているだけで汗が出る。


 ミミリアとリリアは最強達の出すプレッシャーを浴びて身体が震えて動けない。


「わ、我の名はフィリア・アーリエスタ」


 どうやら元邪神フィリアは仕切り直すらしい。


「ずいぶん、可愛い名前だね」


「ぐぬぬ」


「精霊の学園と邪神の学園は手を組んでたって事だね」


「前から精霊の学園とは共闘関係にある。なぜ我がここに居るのか疑問に思わないのか?」


「どうでもいい……なぜだい?」


「貴様、心の声は口に出すな! まぁよい、今の我は世界征服なぞ望んでいない、我が世界征服を望んでいたのは人族が魔族の恨みを買いすぎたからじゃ。今の世界は魔族に対しても居心地がいい、世界征服する必要もなくなった」


「だから学園に入ってこの平和を楽しんでいると?」


「そうゆう事じゃ」


 フィリアが言い終わると魔力が膨れあがる。




「我を楽しませろ、退屈しのぎにはなって貰わないとな!」


 フィリアはユウカに向けて斬りかかる。フィリアはどこから出したのか黒い刀を持っている。


「さすが邪神様と言った所だね」


 その剣撃をユウカが凌ぐ。


「我も言おう、さすが闇の勇者だ」


 フィリアの横からソラが現れる。


 そしてユウカに斬りかかる。


 ユウカは二人の剣撃をギリギリで耐えている。


「女の子に二人がかりは卑怯じゃないかい?」


「ダークネスの能力はやっかいだからね、先に潰して置くよ!」


 ソラはユウカの勇者の能力を知っている。


 勇者はそれぞれ固有スキルを持っている。


 魔術、魔力を使わないスキル。


「そんなに僕の直感のスキルが怖いのかい?」


「あぁなんせその直感がなければ俺達は邪神を倒せなかっただろうからな!」


「おいおい買いかぶりすぎだよ、直感なんてみんな持ってるだろ」


「直感が全部当たるスキルなんてチートスキルだろうが!」


「だから買いかぶりすぎだよ~」


 ソラの苛立ちが頂点まで届く。






「「じゃあ、目を開けろ!」」


「あっ!」


 フィリアとソラの声が重なる。


 そうユウカは途中からずっと目を瞑って直感だけで剣撃を全て受け流してたのだ。


「もういいアレを使うぞ!」


「わかった」


 フィリアの言葉と同時にソラとフィリアがユウカから距離を取る。


「もう終わりかい?」


 ユウカは目を開け煽る。



 フィリアとソラが同時に詠唱する。


『『戒めの鎖を解き放て』』


 その言葉と共に深い闇と眩い光が姿を現す。


 深い闇が形づくる闇の精霊。


 眩い光が形づくる光の精霊。


 美しい美女が二人。


 眩い銀髪の長い髪を持ち、透き通る金色の瞳を持つ光の精霊。


 紫色の長い髪を持ち、深い紫色の瞳を持つ闇の精霊。


 どちらも肌が白く、スタイルも抜群で顔も整っている。


 だが淀んだ赤いオーラを発する鎖に縛られている。



 それを見たリリアの眼の色が変わる。


 眼の色が変わる、金色に。


 精霊化オーラルフォーゼ


『お兄ちゃん! 私ちゃんと助けるから!』


 リリアの震えが止まり、今動き出す。



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