勇者は君だ!








 突然きた転校生のせいで勇者探しが始まった。


 迷惑すぎる。


「誰かこの学園で剣の勇者みたいな人を知ってるかな?」


 この言葉で特待生の皆が真剣に考えている。


「剣の勇者が魔力ない説が一番有力だよね、そしたらこの学園で一番魔力がない人は誰かな?」


 クラス中がガバッと勢いよく後ろの席の俺を見るが、それはないだろうと前に視線を戻す。


「皆んなそこの彼に目を向けたね、どうしてだい?」


「ソイツは魔力無しだからだ! だがソイツが剣の勇者というのはあり得ない」


 ユウカの問いにフレイルが答える。


「どうしてそう言い切れるんだい?」


「どうもこうもソイツは雑魚だからだ」


 そこの赤髪いいすぎな!


 だがナイスだ!


「雑魚じゃないもん! 私のお兄ちゃんならこの中の誰にも負けないもん!」


 リリアが席を立ち言い放つ。


 なに熱くなってんだ。


「君のお兄ちゃんね。名前はなんて言うのかな」


 ユウカがクレスに向けて言う。


 



 俺は皆の視線を浴びながら。


「クレス・フィールドだ。剣の勇者ではないがな! 俺はリリアにこの学園に入れて貰えたにすぎない。そこの赤髪が言うように雑魚だ」


「雑魚ね~僕には雑魚には見えないよ。死線を何度も潜り抜けた目をしてるからね」


 コイツは勇者探しを言い出す前から分かってんな。


 でも、はいそうです! 俺が剣の勇者ですと教えると思ってんのか。


「剣の勇者いないかな~」


 俺を見ながらユウカが声を発する。


 ミミリアに擦り付けるか。


「俺は誰が剣の勇者か知ってるぞ!」


 その声に皆が振り向く。


「それは誰かな、クレス君」


「まず生まれ変わりというのを知っているか? 死んだら魂は巡っていく、そして新しい生命に宿る。もし剣の勇者がそれに近い体験をしていたらどうだろう?」


「ふむふむ、それはこの世界ではあり得ることだね。僕も不思議な体験をこの世界では手足の指の数じゃ足りないぐらいしてるからね。じゃあクレス君が言う剣の勇者とは誰かな?」


「ユウカの言う通りこの学園に剣の勇者がいた場合の話だ。一番剣の勇者に近いのはミミリアだろう」


「ミミリアと言うのは誰だい? 会ってみたいな」


「紹介するからちょっと待ってろ」





 俺は席を立ち、ミミリアがいる四年生の特待生教室に行く。


 授業中の教室の扉を開けて。


「おいミミリア! 付き合ってくれ!」


 俺は大声で言い放つ。


 四年生の特待生クラスが一気に騒がしくなる。


 そして教室中から殺気が飛んでくる。


『ミリアード様に何てことを!』


『ミミリア様を呼び捨てなんて』


『アイツ! 何様だよ!』


 ざわざわしすぎて全然聞き取れない。


 なにか変なことしたか? まぁ、授業中に来るのは可笑しいが、こっちも訳ありなんだ。


 ミントは今の授業では魔力のコントロールと知識を増やす為に時間を使っている。


 この時間は魔力のコントロールの授業だったがコロシアムが使えないと自習ということになっている。


 その自習の時間を使って急にきた転校生の自己紹介のはずなのに何時の間にか勇者探しとかやってられないな。


 ミミリアは奥の席らしく、顔を赤くさせて近づいてくる。教師には何も言わず教室から出てドアを閉める。


「な、なんだ!」


「あぁ、ちょっと付き合ってくれ」


「まだそんな、お互いに何も知らないし、私は大丈夫だが、もう少し時間をくれ」


「いや! 今すぐに付き合ってほしいんだ!」


 俺の言葉を聞きミミリアの顔から湯気がぼっと出る。


「わかりました、お願いします」


「よかった! 俺の教室に来てくれ。お前を紹介したいんだ」





 ミミリアの心臓はバクバクだ。


(まさか私は本当のお姉ちゃんとしてリリアに紹介されるのか!)





「ということで連れてきたぞ!」


 俺はユウカの前にミミリアを出す。


「クレスこれはどういうことだ?」


「話してなかったっけ? ユウカがミミリアに会いたいと言ったから、ミミリアにはちょっと悪いが付き合って貰ったんだ」


 ミミリアはそれを聞いてガクッと肩を落とす。

 

「へぇ~君がミミリアさんで剣の勇者なのかな?」


「おい何を言って……」


 俺はミミリアの声を遮る。


「ユウカはダークネスと呼ばれていた闇の勇者だ! そしてミミリアは剣の勇者だ!」


「ダークネス様だと! 女の子だったのか! いや偽物かも知れない」


「それはないな。ユウカは正真正銘の闇の勇者だ」


 俺は自信満々に言い放つ。



 魔力の質や魔力量、そして目を見れば分かる。


 俺が魔族と思っていた魔王クラスは倒せるレベルだと。


「僕は闇の勇者だよ。まぁ、分かる人には分かるって奴かな? ところでさ、ミミリアさんは剣の勇者なの?」


「いや、私は……」


「ミミリア少し剣技を見せてくれ、それで全部分かるはずだ!」


 またまた俺はミミリアの声を遮る。


「見せるだけなら別にいいが」





 そしてミミリアに模擬剣を渡し、その場で剣舞を披露して貰えた。


 ユウカの驚いた顔がやけに面白いな。


「これは間違いなく剣の勇者の剣技だね」


 闇の勇者が認めたことによりミミリアが剣の勇者の生まれ変わりで確定しはじめていた。


「そうミミリアには自覚はないがミミリアは剣の勇者の生まれ変わりだ!」


 俺の一言からクラス中が騒がしくなり。


 勇者探しは幕を閉じた。


「私は剣の勇者ではないぞ!」


 


 というミミリアの否定の言葉はもう誰の耳にも届かない。



 そしてミミリアが剣の勇者という事はあっという間に学園中に広まった。


 ユウカは美少女だが日本人同士だからだろうか、気が合いすぐに仲良くなった。ずっと付きまとわれてたが俺を剣の勇者という事もなくなった。




 俺は油断していたんだろう。


 この勇者探しから数日後。


「ねぇ沖田優おきたゆう君、放課後は暇?」


 学生のノリで接してきたユウカに俺は。


「あぁ、放課後一緒に飯食うか!」


 俺は気づいてしまった。


『あっ!』


 ユウカは最初から気づいてたしな。


「やっぱり~ユウ君がなんで隠してるかは知らないけど僕はユウ君の味方だからね」


「勇者探しを言い出した奴が何をいってんだ」


「僕はユウ君が好きなんだよ、困らせたくない。でも知りたかったんだ、ごめんなさい」


 少し頭を下げてこちらを上目遣いで見るショートヘアの黒髪美少女。可愛いし許せないはずがない。


「いいよもう、でも好きなんか気軽に使うなよ」


「でも~」



 俺はスタスタとユウカを置いて教室に帰る。



 ユウカは凄いな。周りに勇気や、元気をくれる勇者だったんだろう。周りはどうかは知らないが俺には到底できないと思う。


 俺はユウカにバレた事をもう気にしなくなっていた。


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