罪悪







 魔力を吸い込む黒い玉と灼熱を纏う太陽が激しくぶつかり合っている。


 リリアとミミリアは魔力を出し尽くしたのかどちらも地面に着地して膝をついている。



 数分前に遡る

 




 俺が思考のループから復帰したのは自分の身体が急激に軽くなったからだ。


 そして周りを見渡すと。


 最初に目に飛び込んだのは巨大な太陽と巨大な黒い玉だ。


 そして気絶してバタバタと倒れていく周りの人達。


 魔力を急激に使うと消耗して体力も使う。だが急激に奪われたりするとそのショックで気絶するんだ。


 いや俺は剣の勇者だからショックに耐性があるんだ! そうに決まってる! 魔力少なすぎて影響を受けないとかじゃないよな!


 

 


 俺がこの場を見て最初に思った事は『なにこれ?』だった。


 リリアの魔力をほとんど使って圧縮させた神級魔法とミミリアの周りから魔力を奪い巨大になった神級魔法。


 この広大な学園が無くなる程のエネルギーを生むだろう。


 アイツら何をやってんだ。


 今まさに神級魔法がぶつかり合うという所で俺は歩きながら呟く。


『リミテッド・アビリティー』


 なにもない空間に右手を突っ込み、金のオーラを纏った黒剣を引き抜く。


 そして観客席とバトルフィールドを挟む壁の上に飛び立ち、魔法を見上げ黒剣を肩に置く。

 


『おいおい、お前達熱くなりすぎな、学園を消す気かよ』


 俺はダルそうに言い放つ。


 なぜ俺が動いたのか、それは術者のリリアまで危険な状態だからだ。


 魔法は後先考えて放つ物じゃないし自分の魔力量を考えながら戦わないといけない。


 攻撃魔法を放った時にその衝撃で自滅なんて起きないように計算しながら戦うんだが、教師のミントがアレだからな。熱くなりすぎると魔力量を計算しないのか?


 魔力量を計るのは結構勘に左右されるものだから誤ってしまうこともある。


 俺は一番危ない場所にいるリリアの所に移動する。





 瞬時にリリアの居る所まで来たクレスに。


「お兄、ちゃん?」


 リリアはクレスを見上げて何故ここに居るのか分からないのか、疑問を浮かべている。


「なんで後先考えず魔法を撃った!」


 あの優しいお兄ちゃんなクレスからは考えられない程の怒りがこもったら声にリリアは驚く。


「だってお兄ちゃんとの約束を守りたかったんだもん」


 リリアは少し涙目になりながらクレスの問いに答える。


 クレスはリリアに向き直り、しゃがんで目線を合わせる。


(これは怒るところだろ! 可愛い妹を怒るとか、自分を殺してやりたい程、罪悪感に心が支配されて、もう泣きそうだ。


 だが、これは妹の命に関わることだ! ここで怒らないとリリアは気づかないだろ。ここで優しく微笑みかけて助けることなんて俺なら簡単だ。


 でもな、自分の命の重みを教える為に俺は兄として家族として教えないといけない)




 クレスは歯を食い縛り、話を続ける。


「防御も出来ない程に魔力を消費して何考えてるんだ! ここに俺がいなかったらリリアは死んでるんだぞ!」


 色んな事がクレスの中から溢れてくる。


(リリアに嫌われるかもしれない、もう一緒に寝てくれないかも知れない、もう喋ってもくれないかも知れない)


 クレスの心がはち切れそうだった。



「お兄ぢゃんごめんなざい~、もうじないから~」


 リリアはクレスの顔をみながら泣き出す。


「わかってくれればいいんだよ」


 リリアの頭の上をポンポンと優しく撫でて優しい言葉をかける。


「ほんと? リリアを嫌いにならない」


 自分の呼び名が私からリリアに変わって昔を思い出させる。


「あぁお兄ちゃんはリリアの事が大好きだ」


 リリアに怒ることは滅多にしないクレスだが、リリアがケガする程に危険な事を、間違った事をしたらクレスは心を鬼にして心で泣きながらリリアを怒るのだ。


 クレスは昔、リリアを怒った事を思い出していた。


(リリアが崖からダイブした時とか心臓が止まるかと思った。オーラルの能力で飛行が出来るようになってはいたが、もしもの事を考えて俺は怒ったんだよな)



 クレスはリリアを左腕で抱きかかえる。


「まずは安全な所に」


「きゃ!」


 リリアは可愛い声をあげる。


 そしてリリアを抱えたままミミリアの居る場所に移動する。


「クレス! 何故ここに」


 リリアをその場におろして。


「お前もダメだろ」


 クレスはミミリアの額にデコピンする。


「あぅ」


 ミミリアは額を抑えて涙目になる。


「むぅ~私には怒ったのに~お姉ちゃんはそれだけ~」


「昔のクセでな。アリアスはお姫様だから常識を知らなくて毎回怒ってたら疲れてきてな、コレはアリアスにダメだと教える為の物だ」


「わ、私はアリアス様じゃないぞ」


「時々見えるんだよお前がアリアスに、そのあぅって言うのとか変わらないぞ」


 それを聞いたミミリアの頬が朱に染まる。


「リリアの方が怒る回数は断然低かったけどな。アリアスは好奇心が旺盛で、アレはなんですか? と言って突っ込むクセがある。


 魔物の集団にアレはなんですか? で突撃した時はマジで死ぬんじゃないだろうかと思った程だ。


 そういうのが何回もあり、正直常識を知らないとかいうレベルじゃない」


 クレスはぶつかり合う魔法を見上げる。


「よし、やるか」


 一撃。


 魔法に向かって横一文字に剣を振る。


 すると衝撃波が相殺される。


 


 クレスはその場で地面を蹴ると一気に魔法に迫る。


 そして黒剣が黒い玉を斬る、その勢いで太陽にも迫り二撃目を放つ。


 太陽も、黒い玉も、真っ二つに切れて消滅する。




 クレスが地面に着地すると消滅した神級魔法の粒子がキラキラとクレスに降り注ぎ、金のオーラを纏った黒剣と剣の勇者を彩る。


 ミミリアとリリアはその光景に息をのみ。


 クレスが放り投げた黒剣もキラキラと消えていく。


『『剣の勇者様』』


 そこには惚けている美少女二人の姿と。

 


『これ決勝どうなるんだ?』


 これからの事を考えて頭を捻る元勇者の姿があった。


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