親衛隊
みんな知っているんだよ、君が今まで小守くんに何をしてきたか。その言葉に驚いたのは荒谷だけではない。
「ま、待って!翼くん!知っているってどうゆう事!?」
「落ち着いて優くん、みんなは優くんの味方だよ、知っているのは適正を見るための身辺調査の結果さ」
「身辺調査?」
聞きなれない言葉に翼くんへ聞き返す。
「そう、この学園に入学する者は少なからず受けているよ」
「ぼ、僕も?」
「もちろん!」
し、知らなかった、いや、知られたらいけないのか?
「その身辺調査で、荒谷くん?君のしてきたことはみんな知っている」
「な、何でだよ!?個人情報だろ!」
「個人情報?違うね僕はたまたま噂を聞いて、興味があり、調べたら出てきたから、友達に噂としてたまたま話しただけだよ?」
どうやら、流したのは翼くんらしい。
「まぁ、それが無くとも、君と優くんでは、大きく扱いが違うだろうけど」
「ど、どういう事だよ!?」
「直ぐに分かるよ、いや、思い知らされるよ、さぁ、行こう優くん」
「え?う、うん……」
翼くんの言葉には僕も知りたい事があったが、今は聞かないで歩き始める。
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校内を見終わり教室に戻ると、既に女子は戻っていた。
「よーし、全員戻って来たな、これからはチャイムが鳴るまで自由時間だ、大いに友情を育むように!」
そう言うと河原先生はポンと手を叩いた。おそらく自由時間開始の合図なのだろう。
「ふぅ……」
自由時間なら少し休めると思い一息ついたのもつかの間、僕の机の周りには人だかりができた。
『小守くん!』
『私と!』
『お話!』
『しましょう!』
クラスのほぼ全員が同じ目的で僕の机に集まってきた。
(ひぃ!さすがに恐いよ!)
「はーい!みんな落ち着いて!優くんが恐がってるよ!」
パンパンと手を叩きながら翼くんがみんなを宥める。た、助かった。
「で、でも翼くん、私達小守くんと仲良くなりたいわ」
「そんなに慌てなくても、これからは毎日会えるんだから、ゆっくり仲良くなればいいよ、そうだなぁ、今日は優くんに気になることを順番に質問して答えて貰おうか?」
「う、うん、いいよ……」
翼くんが確認の意味を込めてこちらを見てくるので首を縦にふる。
「じゃ、じゃあはい!好きな食べ物は何ですか!」
「えっと、みかんです、祖父がみかん農家をしていて、その影響で」
『おぉ』
質問に答えるとみんなが声を上げた。なんで?
「しゅ、趣味は何ですか!」
「あ、読書が好きです」
『おぉ!』
また!?と、この様なやり取りを数度繰り返すと、いつの間にか十五分が経ち授業終了のチャイムが鳴った。
「よーし、席に戻れー、ホームルーム始めるぞー」
『はーい……』
しぶしぶ席に戻って行く、ようやく質問攻めから解放され息をつく。
「お疲れさま」
机に身を投げていると、小南さんが苦笑いをしながら話掛けてきた。
「あ、はい……」
「ふふふ、みんなすごかったね」
「そ、そうだね、何かメモを取ってる人もいて……」
「それだけ興味が有るんだよ小守くんに」
「そうなのかな?」
嬉しい事ではあるが、もう少し自重して欲しい、特に小声でぶつぶつ言いながらすごい勢いでメモを取っていたメガネの人、今も自分の席でメモを書き込んでいる。
「ちょっと怖い……」
「大丈夫よ、これから親衛隊もできるんだし」
あ、そう言えば、この後面接だった、まだ大変な事が有るのを思いだし憂鬱になる。
「そ、そうだね、いい人が居たらいいなぁ」
何となくぼやきながら帰りのホームルームを聞く。
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帰りのホームルームが終わると直ぐに武田さんが教室にやって来た。
「優様、応接室にて、面接の準備をしてあります」
どうやら既に面接の準備は整いいつでも始められるようだ、それより気になるのは。
「お、応接室?そんな所使って大丈夫なの?」
「うん、問題無いと思うよ、応接室って基本男子の為に用意されてるから」
「そ、そうなの?」
「そう、お見合いとかにしか使わないから」
応接室ってそういうものだっけ?と、疑問に思いつつ、応接室に向かう。中に入ると綺麗な机にふかふかのソファー、え?ここで面接するの?
「では、順番に呼んできます」
武田さんが候補者を呼びに行く、とりあえずソファーに座って待つが落ち着かない。
コンコン。
「失礼します!」
候補者が入室し、自己紹介をしてくれる。できるだけ真剣に聞いているが、自己紹介の良し悪しなんて解らない。
ある程度自己紹介が終わると、事前に打ち合わせていた通り、翼くんが質問をし出す。
「………じゃあ以上かな、優くんからは何かある?」
「あ、えっと、じゃあ……」
僕は最後に個人的に気になった事を二、三質問をするだけだ。なのだが、心なしか翼くんの時より緊張しているように見える。
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「はぁ………」
面接が半分ほど終わり机に倒れる。
「お疲れ様優くん、折り返しは終わったよ頑張ろう」
「う、うん………」
とわ言ったものの………。
「優くんは気になる人いた?」
「…………」
そう、面接がゴールでは無いのだ、その後には側近?を決めなくてはならない。
「うーん、優くんは聞くのが精一杯か、こっちでもある程度はピックアップしてるけど、決めるのは優くんだからね?」
「う、うん………」
気持ちが沈みつつ次の人の履歴書(?)を見ると。
「………あれ?これって」
「うん?ああ、次の人は同じクラスだね、確か優くんの隣の席だよね?」
「う、うん、でも、どうして………」
「興味が出たかい?なら、直接聞けばいいよ」
「う、うん」
興味、確かに興味と言っていいのか、気になる。
「よし、じゃあ次の人!」
翼くんが扉に声をかけると入って来たのは、黒い綺麗な髪をたなびかせる小南さん。
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入って来た小南さんは軽く会釈をして僕達の前に座る。
「こんにちは小南さん」
「こんにちは星川くん、ゆ……小守くん」
「こ、こんにちは………」
少しどもりながら挨拶をする僕に、小南さんが微笑む。は、恥ずかしい。
「………ふむ、二人は以前からの知り合いかな?」
「ち、違う……」
「はい、そうです」
「え!?」
小南さんの予想外の答えに目を見開く。
「やっぱり気づいてなかったんだね、前は髪がまだ短かったし、ずいぶん昔だからね」
髪が短かった?ずいぶん昔?何か、思い出しそうな。
「優くん?」
小南さんに名前を呼ばれ、不意に記憶がフラッシュバックする。
『ゆうくん!』
……………。
思い出した記憶は幼い日、神社の昇り階段で並んで座り話した、活発勝ち気な少女の記憶。
「も、もしかしてサキちゃん?」
「ようやく思い出してくれた?」
「え、ええ!?本当にサキちゃん!?」
またしても驚きに目を見開く。
「えっと、二人は知り合いで間違いないかな?」
「う、うん………」
翼くんに経緯を説明する。僕と小南さん、サキちゃんとは小学校までよく一緒に居た幼なじみである。サキちゃんは剣道の練習が好きじゃなく、神社の裏に隠れ場所を作っていた。二人でよくそこで隠れながら遊んでいたのを覚えている。
「と、思い出したんだ………」
「ふふふ、懐かしいね」
中学になってからは、学区の違いで別々になってしまった。何より僕がいじめられ始め疎遠になってしまったのが大きいのだが。
「でも、驚いたよ、見た目もそうだけど、そんなに剣道に打ち込んでるなんて………」
僕はてっきりもう剣道をやめているとばかり思っていた。
「…………護りたいものができたから」
「護りたいもの?」
少しうつむき気味になるサキちゃんに聞き返す。
「私は、優くんを護りたい!護るために強くなった!もう、誰にも貴方を傷付けさせない!」
目尻に涙を溜めながら宣言をするサキちゃん。そうか、みんな知っていると言うことは、サキちゃんも僕がいじめられていたことを知っているんだ。
「………うん、ありがとうサキちゃん、翼くん僕決めたよ」
「わかったよ優くん、とりあえず一人は小南さんに決定だね」
「え?一人は?」
側近って一人じゃあダメなの?
「優くんの場合は最低でも三人は側近が居た方が良いよ」
「はい、私もそれくらいは必要と思います」
「サキちゃんまで……」
二人とも真剣に話すのだから本当に必要なのだろう。
「わかったよ、面接を続けよう……」
その後サキちゃんに退室してもらい、面接を続けるのだが。
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「結局小南さんしか決まらなかったね」
翼くんが苦笑いしながら言う。
「ごめん、手伝って貰ったのに……」
あの後面接を続け、翼くんとサキちゃん、あと親衛隊長の武田さんも候補を上げてくれたが、結局決める事ができなかった。
「うーん、優くんはまずその人見知りというか、人怖がりを治す所から始めようか?」
「はい、がんばります」
自分でも自覚があるのでぐぅの音も出ない。
「さて、とりあえず今日はこれでお開きにしようか、この後優くんは忙しいと思うし……」
「あぁ今日からでしたね、ふむ、なら明日面接の方が良かったでしょうか?」
「うーん、でも、最低限は決めて置かないと……」
「あ、あのー?」
知らない話がどんどん進んで行くので、疑問の声を上げる。
「ん?どうしたの優くん?」
「えっと、何の話?」
『え?』
僕の質問に三者三様に驚く。
「えっと……」
驚きに驚いていると翼くんが顎に手を当てながら聞いてくる。
「優くん、ひょっとして引っ越しの準備はしてないのかい?」
「引っ越し?」
引っ越しの予定はないけど。
「優くん、今日から男子は一部を除き寮生活なのは知ってる?」
サキちゃんが驚きの事実を告げる。
「え!?聞いてないよ!」
「入学式の時に説明していたんだけど……」
「それって、学園長の?」
「ううん、式の時」
あぁ、荒谷に会って呆然としている時に説明されたんだ。
「………ごめんなさい、聞いてませんでした」
『…………』
うう、無言の圧力が怖い。
「ま、まぁ引っ越しは後からでも出来るからね?」
「そ、そうですね、寮には最低限生活のできる準備はありますし、ね?」
「は、はい、私も出来る限りのサポートするから、大丈夫だよ優くん」
優しさが逆に辛い。
「………とりあえず、寮に行こうか」
「………はい」
こうして僕の寮生活が始まった、はぁ、これから大丈夫かな?
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