特別遺伝子で人生逆転。

カザミドリ

プロローグ

 春爛漫、辛い中学生生活を乗り越え、心機一転新しい環境に胸踊る………はずだった。


「よぉ、小守くーん」


「荒谷……なんで……」


「へへへ、俺もここの特待生なんだよ、お前には言わなかったけどな、また三年間遊んでやるぜ」


「そ、そんな………」


 歩き去る男の背中を見ながら絶望に苛なまれる。


 僕、小守こもり ゆうは中学二年の後半からいじめられていた。

 主犯はさっきの荒谷あらや たけしまさに地獄の一年を過ごした。


「……この学校に、特待生で来て、やっと変わると思ったのに………」


 諦め、悔しさから涙が溢れる、地面に斑模様を作る。


『これより、入学式を始めます!新入生は体育館に集まって下さい!』


 放送を聞いて涙を拭いながら体育館に向かう、拭いても拭いても涙は溢れるが、仕方ない。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『ーーー以上で入学式を終わります、各自解散してください、男子生徒は三十分後再度体育館に集合して下さい、繰り返しますーーーー』


 茫然自失の中いつの間にか入学式が終わっていた、指示に従い体育館を出た所で、誰かに肩を組まれる。


「小守くん、ちょっと待てよ」


 見るまでもない荒谷だ。


「…………」


「おい、無視してんじゃねぇよ!」


「ひっ、ごめんなさい!」


 踵で足を踏まれる、足の指に痛みが走り反射的に謝る。


「なぁ、三十分暇だろ?遊ぼうぜ?」


 荒谷の言う遊びは僕にとってのいじめだ、あぁ、また始まるんだ。


「失礼、少しよろしいかしら?」


 悪夢を覚悟した時、不意に後ろから声を掛けられる、荒谷と共に振り向くとそこには綺麗な金色髪の女性が立っていた、学生服を着ているので近しい歳なのは間違いないが、大人びて見え、要り体に言って美少女だ。


「へへへ、俺に用か?本当は小守と遊ぶつもりだったが、声掛けられたんじゃあしょうがないなぁ」


 荒谷が嬉しそうに笑う、そりゃそうか、僕なんかより荒谷が声掛けられるのは当然だよね、僕なんか気弱そうで、おどおどしてる気持ち悪い奴だから………。


「はぁ?何を言っているの?この劣等種が!?」


『え?』


 瞬間固まる荒谷と僕、とても目の前の美少女が発したとは思えないドスの聞いた声に僕と荒谷は奇しくも同じ反応をした。


「聞こえませんでしたか?貴方みたいな劣等種に用はありません消えなさい、わたしが用があるのは………」


 美少女はびくびくする僕の目の前に来ると満面の笑顔を見せる。


「小守 優様ですね?わたし有栖川ありすがわ エリナと申します、よろしければ学園の案内をさせて頂きたいのですが?」


「へ?えっと?」


 混乱する僕を余所に荒谷が怒りを顕にする。


「おい、ちょっと待てよ!何で俺より小守が上みたいになってんだ!?」


「事実そうだからですわ」


 笑顔のまま堂々と荒谷にはっきり言う有栖川さん。


「なんだと!?このアマ!」


 危ない!と有栖川さんを庇おうとしたが、次の瞬間には殴り掛かろうとしていた荒谷が投げ飛ばされ、地面に叩きつけられていた。


「がっ、ぐぁ、ゴハッ!」


 地面はコンクリート、叩きつけられた荒谷は苦しそうにもがいていた。


「野蛮な劣等種が、触らないで頂きたいですね?さ、小守様こちらへ」


「は、はひ!」


 驚きから変な声で返事をしてしまい、そのまま有栖川さんについていく。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「こちらがラウンジ兼食堂になります」


「…………」


 有栖川さんに校内を案内され暫く経つが未だに混乱していた。


「あ、あの!」


「はい」


「えっと、その………」


「わからない事がありましたら遠慮なさらずどうぞ」


「何で僕の案内を?」


「小守様が特別だからです」


 笑顔を見せながら答える有栖川さん。


「特別?僕が?」


「はい、後程体育館で説明がありますが、この学園に入学を許される男子生徒は皆様特別なのです、中でも小守様は群を抜いて」


 意味が解らずまた固まってしまう。


「そろそろ時間ですね、体育館に戻りましょう」

 

 結局それから先は有栖川さんに聞くことはできず、体育館に戻る。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

体育館に戻ると既に僕以外の男子は席に着いていた、中に入ると一番後ろの席に座っていた荒谷が飛びかかって来る。


「小守!てめえさっきはよくも!」


「ひっ、ぼ、僕は何も………」


 してないと言おうとしたら、またしても後ろから声を掛けられる。


「お待ちしていました小守様、まもなく説明会が始まります、お席にご案内します」


「おい、まだ話して……」


 道を遮ろうとした荒谷だが、女生徒の突き刺すような睨みにしぶしぶ自分の席に戻る。

 

 僕も大人しく女生徒の後ろを着いていくが、目指す場所を見て、慌てて止める。


「あ、あの、待って下さい!」


「どうかしましたか?」


「えっと、席ってもしかして、あの、一番前の?」


「はい、あちらが小守様のお席でございます」


 席はピラミッド状に列べられている、一番前と言うと一席しかないわけで。


「で、できれば後ろの席がいいなぁと」


「申し訳ありません、お席は決まっているので………」


「あ、はい……」


 困ったようにしている女生徒の表情を見て、しぶしぶ席へ向かうが。


(お、落ち着かない、気のせいかすごい見られてる気がするし………)


 程なくして、壇上にスーツ姿の女性が上がった。


「諸君、よく集まってくれた!まずは入学おめでとう!」


 マイクを使っていないのにすごい声量で話す。


「さて、さっそく本題に入ろう、この学校に集まってくれた君たち、男子諸君は特別な遺伝子を持っている」


 特別な遺伝子?一体どう言う意味だ?


「君たちの使命はその遺伝子を後世に残し続けるため、善き伴侶見つける事だ!大いに頑張ってくれ!」


(………え?説明終わり!?結局知りたい事は何一つ判らないよ!?)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

結局そのまま説明は学校生活での注意事項の話をして終了した。


(特別な遺伝子って、結局何なんだろう?………そうだ、有栖川さん、彼女なら何か知ってそうだった!)


 探しに行こうとした矢先また肩を掴まれる、今度はかなり力強く掴まれたので痛い。


「小守ちょっと待てや?」


 声のトーンから荒谷がかなり怒っている事がわかる。


「てめえ、いったい……」


「やぁ!君が小守 優君だよね?」


「え?あ、はい」


「なんだ?てめえ?」


 ここでまた、知らない人が話しかけてきた、何度も邪魔され荒谷がイライラする。


「僕は星川ほしかわ つばさよろしく」


 すごく爽やかな笑顔のイケメンが居た、モデルでもやってそうな別次元の存在に、若干ひきつった笑顔を返してしまう。


「あ、えっと、小守 優です」


「うん、知ってるよ~」


「おい!小守、なに呑気に挨拶してんだ!」


 荒谷の怒りがこちらに向けられ拳が振り上げられる、殴られる!と思い目を瞑り体を強張らせるが、一向に痛みは来ない、恐る恐る目を開けると、警棒のような物を後ろから首に突き付けられている荒谷が目の前に居た。


「な、なんだよ、このアマ」


 見ると警棒を突きつけているのは二人の女生徒だった。


「二人とも、そのまま離さないでね?そのおサルさん状況を理解出来てないみたいだから」


「し、知り合いですか?」


 親しそうに話す星川くんに訪ねる。


「うんそうだよ、彼女達は僕の親衛隊だからね」


「し、親衛隊?」


「それも含めて、この学校の、正確にはこの学校に通う男子について説明しようと思って来たんだ、本来は学園長が説明会でするものなんだけど、大雑把な性格だから……」


 あ、やっぱりさっきの説明会は変なんだね。


「と、言うわけだから、そっちのおサルさんも聞いててね?」


「チッ」


 荒谷が舌打ちをする。


「えーと、まずこの学校に通う男子は特別な遺伝子を持つのはさっきの説明会で知ってるよね」


「うん、でも詳しくは知らないよ」


「うーん、詳しくも何もそのままだからね」


「ぼ、僕、頭も悪いし、運動も苦手だから、特別なんて………」


 自分で言っていても、どちらかと言えば劣等な気がする。


「特別って言うのはそういうのだけじゃないよ?確か、優くんは怪我や病気が治り易かったりしたんだよね?」


「え?うん、よく知ってるね?」


 確かに切り傷や擦り傷処か痣やちょっとした打ち身位なら直ぐに治った、だからいじめを訴えられなかった、驚いたのは朝に高熱で倒れて、昼には治っていた事がある。


「みんな知ってるよ、ある一定ランクの男子の情報は開示されてるからね」


「ランク?」


「そう、男子には得点順にランク付けがされていて、上からS、A、B、C、Dに別れているんだ」


「へぇー」


「ちなみに、優くんは100点満点のSランク、今年唯一のSランクだよ!」


「ええ!?僕が!?」


「驚く事はないよ、君の遺伝子はそれほどに価値が有るんだ!」


「か、価値?」


 僕なんかの遺伝子に一体どのような価値が有るのか、精々治りやすいくらいじゃ?


「うーん、そうだな、例えば優くんの細胞を使って新薬が開発されたりしてるよ?」


 何か、衝撃的な事実が明かされた!?


「ええ!?何その話!僕、そんなのに協力してないよ!」


「ほら、毎年健康診断に唾液検査ってあったでしょ?」


「え?うん、あったよ?確か癌になって無いかっていう……」


「あれ、優くんだけだよ?」


「え?」


 つい確認するために荒谷を見てしまう。


「………あ?ああ、唾液なんて検査したことねぇよ」


「ほ、本当に?」


「その提出された唾液が多くの人の命を救っているんだよ?ほら、君は特別だ!」


 そ、そう言われると、特別なのかな?


「故に、この国は、ううん、世界は君の遺伝子に特別な価値があると判断し、この学園に招いたのさ!」


「そ、そうなんだ……」


 なんか、凄い話だったんだ、まだ、あまり実感が無いけど………。


「おい!なら俺はどうなんだ?そいつが特別なら俺だって特別じゃないのか!?」


 荒谷が怒鳴る、確かにこの学園に居るって事は荒谷も何かすごい遺伝子を?


「ああ、君は人数合わせだよ?」


「へ?」


 荒谷が間抜けた声を出す、それを聞いて荒谷を抑えている女子生徒はクスクス笑い出す。


「この学園には慣例があってね、必ず新一年生は二十人入学させなくちゃならない、今年はSが優くん一人、Aが僕を含めて三人、Bが五人、Cが十人しか集まらなかったんだ、だから仕方なくDを一人入れる話に成った、その仕方なくが君だよ荒谷くん?」


「な、なんで、そんな事お前に…」


「分かるよ、だってその選出をしたのは僕の叔母、学園長だからね、その手伝いをさせられたんだよ」


 そうか、だから僕達の情報に詳しかったんだ。


「さて、これでそれぞれの立場は理解できたかな?それを踏まえて荒谷くん?君はこれからの学園生活をどう過ごしたらいいと思う?」


 翼くんが微笑みながら荒谷に聞く、ただそれだけなのに、圧力を感じるのは気のせいだろうか?


「ふん、そんなの決まってるだろ、今まで通り小守と仲良くするんだよ!なぁ小守くん?」


 つい最近までの日々を思いだし、身体が強張る僕の横で、翼くんがため息を吐く。


「はぁ、全く分かってないね」


「あぁん?」


 翼くんが呆れぎみに説明する。


「この学園では男子は遺伝子の価値が全てなんだ、つまり君と優くんでは雲泥の差が有るんだよ」


「はん、そんなもの……」


「良いかい?これは、善意の忠告だ、無視をすれば大変な事になるよ?」


「………ちっ!いい加減離せよ!」


 荒谷は舌打ちを打つと校舎の方へ苛立たしげに歩いていく。


「さぁ優くん、僕達も教室へ行こう!」


 体育館での説明後は各教室で翌日からの日程を聞かされるだけで終わった、驚いた事に三十人中男子は三人、僕、翼くん、荒谷のみだった。


「じゃあね優くん、また明日」


「あ、うん、また明日……」


 こうして波乱の学園生活が幕を開けた。


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