第百七十二話 顔見せ

「はじめまして。私、誰だと思う?」


 ミドたちが昼食をとっていると、来訪者が現れた。ドアを叩き、迎えられると手を大きく広げて自分が何者なのかを尋ねた。


「……さあ。美人っすね」

「バンローディア、あなたは正直ね。そして本質を見抜く目がある。アンヘルにはもったいないくらい」


 お次は、とそれぞれを伺う。


「外人さん、ですよね」

「雛菊ね。それはあなただから出る答えかもしれないわ。ここではこの滑らかな金髪も艶やかな肌も、この魅惑のプロポーションも珍しくないから。なぁんてね」


 茶番だ。東城はあきれ返り、無言でパンをかじっている。


「お父様、あなたも良き信者です。私がだれかお分かり?」

「あー、そうだな。まさかこの子のもう一人の姉かい?」

「そうなれたらとても素敵ね。でも、違う」

「——様」


 ジェネットが呟いた。


「ん? どうしたのかしら。小さくて勇敢で、そして敬虔な人の子よ」

「フォルトナ……様?」

「あらあら。どうしてそう思うのかしら?」

「お髪に体格、本に出てくる彼女に似ているからです」

「光栄だわ。かの有名な神と思われるだなんて」

「いい加減にしておけ。お前はそうだからいかん。人を惑わすことしかしらんのか」


 ジェネットもそうだが、ミドが一番に驚いた。東城がこれほど乱暴な言葉遣いをするとは思わなかったし、女に対しては甘いばかりの人物像があったから、


「な、なんだよ東城。そんなに怒るなって」


 と立ち上がってその女に自分の席を与えた。


「ミドさん。そんなことはしなくてもいいのです。こいつは」

「ねえ東城さん。お知り合いなんですか」

「……これは、あれです。あなたが仰ったそれ、を自称する何かです」

「てことは、この人? がフォルトナ神? へえ、初めて見た」


 それぞれの反応に満足したのか、改めまして、と女はちゃっかり座って挨拶をした。その上で、座って頂戴と指を弾き、無から椅子を生み出した。


「私はフォルトナ。よろしくね」


 あっさりといいのけ、ジェネットとミドは言葉を失った。


「まあ色々あってね、聞いているとは思うけど、東城のあの話」

「世界がどうのってやつっすか?」

「そうそう。あれが明日なのよ」

「らしいっすね。つーかなんでみんな喋んないの? 私だけじゃん、もっと、ねえ、東城が窓口になれよ」

「俺は話したくないので」

「そんなこと言ってらんねえだろ。ミドさんもジェネットも固まってるし。雛菊は神様ってのにピンとこねえだろうし」

「見たことはありませんけど、そういうのがいらっしゃるのはわかってますよ」

「ほらね。普通はこうなのよ」


 話すなら話せ。と東城は殺気を込めた。


「では早速。世界合一は明日の朝になります。それまでに準備を整えてね」


 生唾を飲み込んだのはバンローディアで、他は正気を保ったまま、朝食をとっている。みんなどういう感情や態度が正しいのかわかっていない。


「そうか。ではその瞬間にまた報せろ」


 帰っていいぞ。と東城だけが自分を疑わない。

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