死にたがりの蝶の話
人慣れの蝶が籠に入る
「かまいませんよ」と言う
羽は吐息のように
ふわ ふわ ふわ
揺らして
「いいですよ、食べるものさえあれば」と言う
俺は人間だから声しかわからない
どんな表情をしているか
でも
捕まってくれるなら
それでいいと思う
花を摘んできた
「これは、ちょっと好きではないです」
ぷい、と顔を背けて言う
そうか、と呟いた
贈り物だったんだが
お前には届かなかったらしい
「そんなに寿命が長くないんです」
置いていかず、連れて行きなさい
そう蝶は言う
出かける時は籠を持ち歩くようになった
ある日、
「あの花を摘んで籠に入れなさい」
と、言われたので
あまり可愛くない花を千切って捧げた
蝶は足を動かして花弁を愛で「ふう」と
呟いて、匂いをかいでいるようだった
「食べないのか?」
「花を食べる蝶など、どこにいるのです」
「お前は蝶だろ?」
「……ええ、そうです」
本当は出て行けるのに
蝶は、ずっと籠にいた
外にいても内にいても
蝶は死ぬ
そういうものだ
「捕まっていた方が色々みれるんですよ」
寝ようとした時に蝶は言った
ふわふわ飛んでいると敵を
警戒して、まともに世界を愛でられないらしい
「寿命を短くしてまで見ることか?」
返事はなかった
眠ってしまったらしい
今日も蝶と連れて歩いている
静々と日の下を歩く
「……ねえ」
蝶は言う
「死んだら、そこの花の土の中に……」
言いかけて黙った蝶に
「わかった。好きにしろよ」と
俺は、籠の蓋を開けた
蝶は驚いて俺の目線まで飛び上がる
「お前が死にたけりゃ今すぐの方がいい」
面倒だし、忘れてしまう
「私は……私は……」
困ったように蝶は呟きつつ
墓標の花にとまる
「まだ死にたくありません」
「そうかよ」
蝶は籠の中に戻る
その日から外に籠を吊して
出かける時は扉を開いたままにした
俺が外に出れば、蝶はついてくる
「あなたの傍で死ぬならいいと思いました」
「そうか」
今日も俺の隣に蝶がいる
肩にとまりながら、つらつらと
前よりは柔らかい声音で色々と言うので
「はあ」とため息をついた
「あなたがいるから隣で生きているんです」
心なしか嬉しそうな蝶に
そうかよ、と返した
今日も俺はコイツを連れて歩いている
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