俺は君の財布にはならない
猫被 犬
第1話
どうしてこうなった。
今年で大学二年生になる
テーブルを挟んだ正面には、同じく20代前半の女が向かい合って座っていた。
「相原君はいつも一人で食べてるの?」
あぁ嫌だ……何でこの子は俺に話しかけてきた? 今まで接点なんてなかったはずだ。同じ授業をとったこともないし、そもそも学部だって違う。
相原はそう考えながらどう返事をしようか迷っていた。
「ねぇ相原君ってば! 聞いてる?」
(くっそ。絶対関わらないでおこうと思っていたのに……)
そう思いながらも、さすがにここで無視を決め込むわけにもいかないとしぶしぶ返事を返す。
「あぁごめん。ちょっと寝不足でボーっとしててさ。友達と食べることもあるけど、今日は授業が被らなくて一人」
相原はすぐに答えるが、頭の中では話を終らせる為の考えを巡らせていた。
「そっか! じゃあもしまた一人で食べてるところ見つけたら、声かけていい? 私相原君と話してみたいと思ってたんだ!」
正直それは勘弁してくれと思いながらも、相原は了承した。
(今度から一人の時は学食で食べるのやめよっと)
「どうして俺なんかと? 今まで話したこと無かったよね?」
相原は当然の疑問をぶつける。
「相原君この前宅建とったよね? 二年生で取った人なんて殆どいないから凄いなーと思ったんだ! だから話しかけてみようと思ったの」
相原はなるほどと納得した。相原が通っている大学は、いわゆるFランク大学と噂されるようなあまり学力が高くない者が通う学校だ。その中でちゃんと資格を取る者は少ない。それゆえに目立ってしまい、そこに興味を持たれたということなのだろう。
ちなみに宅建とは『宅地建物取引士資格試験』のことで、主に不動産に関する宅地建物取引業に関して必要な知識について行なわれる試験だ。
相原は話しかけてきている『
縁野は男を財布のように使い、貢がせる女だということが一部の男子学生の間で話題になっていたのだ。相原は友達づてにその話を聞いていた。
(見た目はホント可愛いな。初めてまじかで見たけど、小動物っぽいというか人懐っこそうに見える。噂さえ聞いてなければ)
噂を聞いていなければ、相原もころっと騙されていたかもしれない。
「んー。相原君ってばさっきから何か上の空だね? じーっと私のこと見てさ。あっ私の胸見てたんでしょう?」
相原は胸を見ていたわけではないが、言われてみれば縁野は胸元の空いた服を着ており、スカートも短く露出が多い恰好をしていた。
「あぁごめん。ちょっと考え事しててさ。胸元よりも俺太ももフェチだからそっちの方が見たいかな」
相原は縁野と深く関わりたくないと考えながら、どうしたら自然に嫌われる事が出来るかと思案する。そして一つの案が思い浮かぶ。
「縁野さんって足も奇麗だね。ちょっと太もも見せてよ」
「え?」
相原が思い浮かんだ案はいきなり下心丸出しで体を見せろということ。大抵の女性はほぼ初対面に近い男にこんな事を言われると嫌悪感を示すだろう。
本来相原は自分からこんなことを言い出す人間ではないが、縁野と関わり合いにならなくて済むのならと、嫌な噂がたってしまうリスクを負ってでもこの選択をした。
だが返ってきた答えは予想外のものだった。
「しょ、しょうがないなぁ……ちょっとだけだよ?」
縁野はそう言いテーブルから少し椅子を離し、足を組み替えて見せた。そして少し下着が見えた。
「ぶっ……」
予想外の行動に相原は噴出した。太ももフェチだということは本当だった為、縁野の行動は相原の性癖に突き刺さってしまった。
「も、もう。自分から要求しといて何噴き出してるの。もしかして本当に見せるとは思ってなかったの?」
「う、うんごめん……本当に見せてくれるとは思ってなかったからびっくりした」
「ふふっ可愛いね」
ニコニコしながら相原をからかう縁野は、魅力的に見えた。
(くそぅ……絶対騙されないぞ……この子の財布になんか絶対にならない)
相原は噂を信じ、貢がされてしまうという未来を回避するために思考を働かせる。なんとかこの場を切り抜け、今日以降は縁野には関わらないようにすることを最優先に考えた。
「縁野さんはご飯を食べる友達はいないの? いつも一人?」
(これで友達がいれば回避できるはず……)
「一年の時は女の子の友達と食べてたんだけど、私女の子と友人関係長続きしないんだよね……だから最近は一人!」
(それはどういう理由でだ!? 寝取り? 寝取りか? 友達の彼氏貢がせた上に寝取っちゃったのか!?)
想像力を働かせて一人パニックに陥っている相原をよそに、食事を済ませた縁野は食器を片付けはじめた。
「じゃあ私はこれから三限があるからまた! 今度一人だったらまた声かけるかも! あぁそれと……」
「ん?」
頭の中で色々な妄想をしていた相原は、不意にこの状況が終息を迎えたことで拍子抜けしながら縁野に向き直った。
「私のパンツ見えちゃったと思うから、おかずにしていいよ!」
はにかみながら笑顔で手を振りながら学食を後にする縁野。相原は手を振り返し、長い溜息をついた。
「目に焼き付いっちゃって離れないから、しばらくお言葉に甘えておかずにしよっと」
そして彼は頭では騙されないと考えながらも、男の性に逆らえなかった。
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