カノジョの親友と、俺の先輩と。






 ――クリスマスの一週間前。


「だから、私は家族で過ごすのです!」

「う、うぐぅ!」


 コーヒーショップにて。

 アリスと健太は、対照的な表情で相対していた。

 少女の方は腕を組み、どこか機嫌悪そうに。対して青年の方はうな垂れて、悔しさを隠しきれないでいた。会話の内容を聞いていた他の客は、興味津々。

 一人の男性が、クリスマスデートを懇願する姿は、たしかに目立つ。

 しかも撃沈しているのだから、なおのことだった。



「家族で過ごす、かぁ……!」

「えぇ、そうです。水瀬家では唯一、家族水入らずで過ごす大切な時間――そこに久保さんの入り込む隙間など、微塵もないのです!」

「たしかに、そう言われると苦しい」

「なら、諦めてください!」

「でもそれは、別だ!」

「往生際が悪い!!」



 まるでゾンビのように。

 号泣しながら面を上げた彼に、アリスは思わずのけぞった。



「何とでも言えばいいさ! 俺はアリスちゃんが好きなんだ!」

「そ、それは知っています……!」



 そして、ド直球な好意を伝える。

 少女は幾度となく伝えられたそれに、慣れたはずなのに赤面した。



「このはちゃんも、橋本と過ごすんだろ? だったら、こっちも――」

「私と久保さんは付き合っていません!!」

「――ぐはぁ!?」



 食い下がる健太。

 容赦なく断言するアリス。

 周囲の空気は、次第に哀れみを持ち始めていた。



「くぅ……」



 またも、うな垂れる青年。

 そんな彼にアリスは、ふっとため息をついて言った。



「久保さんは、私のどこが良いのですか……」

「……え?」



 どこか呆れたように。

 それに健太は、首を傾げた。そして――。



「――全部」



 何を今さら、と。

 そう言わんばかりに、平然と言ってのけた。

 周囲の空気すら固まる。あまりにも真っすぐな言葉に、全員が息を呑んだ。



「ぜ、ぜ……!?」



 ただ一人、アリスを除いて。



「これだから、男の人は信用できないんです! 全部だなんて、そんなことをいう方を見たことも聞いたこともありません! 軽口もいい加減に――」



 目をぐるぐると回した少女は、そう言う。

 しかし、健太はこう答えた。



「だったら――」



 いつものような、明るい表情で。




「俺が、その証明をしてみせようか?」――と。




 形勢逆転だった。

 アリスは完全に言葉を失い、視線を泳がせる。

 そして、



「うぅ……!」



 羞恥心に唇を噛みしめながらスマホを取り出した。

 連絡先に自宅を選んでから、健太に向かって言うのだ。




「両親がダメと言ったら、ダメですからね……!」





 最後まで意地を張って。

 少女は、顔を逸らしながらそう口にするのだった。



 



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