エージ・ウスゲン宅〜WITH.駄女神&毒舌美エルフ姉妹〜
勇者、自分の知らない自分を教わってンアアーとなる
ジミーとリラ団長は、アガリカ町に居を移したらしい。
ちょうど二人用の物件に空きができたらしく、運良くすぐに引っ越すことができたんだとか。コミュ障なジミーと人目を気にするリラ団長にピッタリな町がある、と雑談のついでに勧めたのは俺だ。あんな辺鄙な場所より、そっちの方がきっと暮らしやすいだろう。市場に慣れるのは大変かもしれないけれども。
またリラ団長は、俺の紹介でオラムラ村のナイーブンの店で働くことになった。
といっても表で給仕するのではなく、裏方で魔法で店内演出する仕事だそうな。ラクスとパンテーヌが舞台に立ったように魔法を活かした仕事してみてはどうか、と俺が持ちかけると、リラ団長が興味を持ったようだったので、帰り道にオラムラ村に立ち寄って、ナイーブンに伝えておいたのだ。彼女なら、用心棒としてもやっていけそうである。
ああ、そうだった。もう団長じゃないんだっけ。
翌日になって、魔力がある程度回復したジミーとリラ団長は、ラクスとパンテーヌに付き添われながら一緒にヘイオ町に向かったそうだ。
そしてヘイオ町魔道士団の団員達に事情を話し、リラ団長は結婚退職という形で魔道士団を抜けた。
元副団長のゲダヨが号泣してヤダヤダと駄々をこねまくっていたらしいが、これまでのセクハラの仕返しにリラ団長にキャンタマ全力で蹴られると、すぐ沈黙したそうだよ。他人事ながら、話を聞いて俺のキャンタマもヒュンッてなったわ。
しかし団長と副団長という大きな二柱を失って、ヘイオ町魔道士団は大丈夫なのだろうか?
「それなら問題ない。心強い人がいる」
「ビオウさんが復帰して、団長になったんですよ」
俺の手製スウィカを食べていたラクスとパンテーヌが、ぺぺぺっと種を飛ばしながら答える。
「ええ!? ビオウさんが!? ……って種を飛ばすな! 食いながら喋るな! 口の周りベタベタになってるぞ! それでもレディの端くれか、お前ら!」
俺は片手で二人に長布巾を投げ付けた。もう片方の手は、頭皮マッサージ器で大切な毛髪を失ってしまった頭をほぐすのに忙しいのだ。
「それ食ったら帰れよ! ったく、また許可なくもぎ取って来やがって」
「え、むしり取る?」
「抜き取るって言いました?」
仲良く一枚の長布巾で顔を拭いつつ、二人が言う。
人の家に押しかけてきて、人の家のスウィカを二度も盗み食いして、人の家の玄関口で勝手に座り込んで寛ぎやがって……本当に何てたちの悪い奴らだ。
俺、こいつらも、大嫌い。
だってこいつら、俺、騙した。過ぎたこととはいえ、許せない!
戦いが終わり、家に帰り、約束していたスライムもどきを買ってやったところで、インテルフィが明かしたのだ――――奴らは三人で、俺だけ外に締め出したカイテンウン洞窟にて、秘密の作戦会議を開いていたのだと。
『エージは自分では気付いていないみたいですけれど、都合が悪くなるとあからさまな仮病を使うことが多いのよね。ですから、エージがその方法で回避しようと目論んだら、それを逆手に取ってやればいいと助言したのですわ』
つまり、あの仮病はラクス達にも最初からバレていたというわけだ。
二人は気付いていないような顔をして、さらには魔力が切れたという嘘までついて、あんな茶番を仕掛けたらしい。
『そのバレバレの仮病のせいで、ラクスさんとパンテーヌさん、どちらかの身を危険に晒すしかないとなれば、エージだって黙っていられないでしょう? あなたって正義感はカスほどにもないけれど罪悪感を背負うのはイヤだという、いっそ清々しいほどゴミすぎる小物で底辺のドクズですもの』
くぅぅ……今思い出しても腹が立つ!
言い返せないからとにかく腹が立つ!
本当のことだからこそ余計に腹が立つ!
俺だって、卑怯なことしてるって自覚はあったんだよ。だからあんなにも苦悩して逡巡して、やっとの思いで決意したんだ。
それをこんなふうに言われちゃうとさあ! その通りなんだけどさあ! 何かこう、言い方ってあるよね!? 己の弱さと向き合って打ち克った的なー!?
インテルフィに入れ知恵されたラクスとパンテーヌは、『ここは私が』『いえ私が』『では二人で』とお涙ちょうだいの姉妹愛劇場を俺に見せ付けた。洞窟の中では一晩かけて、インテルフィが演技指導したという。
全ては俺がすんなりと戦うわけがない、どうしてもハゲたくないという気持ちをわかっていたからで――――。
くっそおおおおお!
悔しい悔しい悔しい悔しい!!
五年かけて育てた髪をどうせ失うなら、もっとカッコ良く散らしたかった! しかも半端にまだらにハゲちゃったから、お手入れもしにくいったらありゃしない!!
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