勇者、間接パイ揉みは初体験


「やい、ポ・オーク共よ! 今からいいもん見せてやるぜ!!」



 そう叫び、俺は華麗に見事にカッコ良く刃を振るった。


 ポ・オーク達に――ではなく、すぐ側で抱き合っていたラクスとパンテーヌに向けて。



「なっ!? えっ!?」

「っ、きゃああああ!?」



 高速で繰り出された剣筋が、彼女達のローブを切り裂く。切り裂くと同時に、二人の衣類は桃色の炎に包まれて霧散した。言うまでもなく、あらわになった肌には切り傷も火傷も負わせていない。


 これぞ、俺が編み出した秘技の一つ――僅かな魔力消費で効果を発揮する上、俺も楽しく嬉しい『マッパフレイム』だ!


 片手で覆い切れずにぷるんぷるんと溢れるおっぱいを隠すラクス、大事な部分を隠したつもりだろうがぷりんぷりんと弾けるおけちゅが丸出しになったパンテーヌに、ポ・オーク達の視線は釘付けになっている。


 ああ、俺もじっくり見たい。ガン見したい。だが、それは後だ!


 全裸になった二人に、俺はさらに剣の切っ先を向けて叫んだ。



「ポ・オークはポ・オークがちゅきちゅきだいちゅきになーる、ちゅきちゅきだいちゅきになーる、ちゅきちゅきだいちゅきになぁーるっ!!」



 途端に、ポ・オーク達の視線は裸裸裸ラララ・美エルフ姉妹から外れた。魅了魔法の一つ、『ダイチュキチャーム』だ。



「うほっ、いいポ・オーク!」

「そこのポ・オーク、やらないか?」

「すまない、ポ・オーク以外は帰ってくれないか!?」



 俺の目論見通り、大好物のエルフの裸体に釣られ凝視してくれたおかげで、奴らは簡単に魔法にかかってくれた。


 これを自分に使えばモテモテになれるんじゃないかと思うだろ?

 しかし悲しいかな、魅了のような無属性の魔法は相手によって効果が大きく左右される。何人かの女の子にも試したのだが、俺が素敵すぎるジェントルマンなせいで逆に警戒心を抱かせてしまったらしく、全然魔法にかかってくれなかった。


 だがおバカなポ・オーク達はこの俺様をただの非力なイケメンと侮ってくれていたおかげで、こんなにもうまく効果を発揮できたというわけだ。


 しかし、魅了の魔法は魔力消費が少ないものの、短時間で解けてしまうというデメリットもある。なので女の子を落とすには不向きだし、やっぱり本当の恋は魔法に頼っちゃいけないし、何より今はポ・オーク達の注意が逸れている間にとっとと逃げなきゃだよね!



「はいはーい、すぐに帰りまーす。お邪魔しやっしたー!」



 アッーーという間にイチャイチャし始めたポ・オーク達にそう告げると、俺は蹲る二人を促して急いで荷台に乗ってもらい、インテルフィと共に手押し車を押してスタコラサッサと立ち去った。




「お前、サイッテーだな」

「本当、サイッアクですね」


「大変失礼いたしました……あれしか方法が思い付かなかったんです……どうかお許しください……」



 下着のパンツのみという姿で、俺はひたすら平身低頭して二人に謝った。


 顔は腫れてるし、まだ呼吸もうまくできない。ポ・オークに薄い本のネタみたいにされそうになったところを助けたというのに、何でこんな目に遭わされなければならないのか。俺にはさっぱりわからない!



 あの後――俺は森を抜けてすぐ、ラクスにボコボコに殴られ、パンテーヌに鼻と口を水の膜で覆われるという簡易ながらなかなかに攻撃力の高い水属性魔法で溺死させられかけ、ついでに着ていた寝間着まで奪われた。


 上着はパンテーヌが着ているのだが、チビッコな彼女が着ると膝が隠れるくらいの長さになって彼シャツムフフな状態。

 ズボンの方は、インテルフィが姉妹の携帯していた医療キットの鋏と糸と針で、簡易なベアワンピースに仕立て直した。

 ぼけーっと眺めてたんだけど、鮮やかな手付きで股下から裾までを解いて、両足の布を綺麗に縫い合わせて、足さばきも考慮して両サイドの外側にスリットまで入れてたよ。しかも、十分足らずで完成させちゃったんだから大したもんだ。元といえど、さすが女神だな。俺もちょっと見直しかけたよ。ほんのちょっとだけ、な!


 そのワンピースをラクスが着ているのだけれども……な、何というのか、俺の股間に当たっていた布が、今あの巨乳に触れ合っているんだと思うと変なシンパシー感じるよね。間接キスならぬ間接パイ揉みしてるみたいな?


 ニヘラ〜ッとしかけた俺は、しかしパンイチでおっきしてはさすがにまずいと思い、イケナイ妄想を振り切ろうと首を横に振った。すると裸の肩と背に、何かが滑り落ちる感覚。



 ぞっと、全身に悪寒が走った。


 間違いない、これは…………。



「あらぁ? エージ、肩に……」

「やめて! 黙ってて! 何も言わないで、お願い! ほら、早く行こう行こう行こぉぉおおう!!」



 インテルフィの嬉しそうに弾む声を叫んで遮ると、俺は耳を塞いでその場から全力ダッシュした。



 イヤだイヤだ、知りたくない!

 わかってることだけど、知らなかったことにしておきたい!

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