けちらせ、勇者!〜追放された駄女神のハゲましの加護で最強チート魔法剣士になったけれど、俺はこれ以上輝きたくない〜
節トキ
元勇者、斯く語りき
あの頃の俺は、本当に愚かだった。
当時はただモテたくてモテたくて、とにかくひたすらモテたくてモテたくてモテたくて必死だった。どうすれば女の子とお近付きになれるのか、どうすれば女の子にキャーステキーとチヤホヤされるのか、どうすればハグハグしたりチュッチュしたり、あわよくばエロいことをさせていただけるのかと、そればかりを考えていた。
うむ、男なら仕方ないことだ。俺みたいに誠実を絵に描いたような色男にだって、そういった願望はある。本能的に刻み込まれた種の存続への欲求なのだ。だから汚らわしいなんて思ってくれるな。
モテるために、俺は懸命に努力した。なのになかなかモテなかったのは、思うに俺が完璧すぎて近寄り難かったせいだろう。今ならわかる。
俺の顔を『点と直線だけで描ける究極のモブ面』と嘲笑った奴もいたが、二次元の世界から飛び出してきたような究極のイケメンだからってやっかんで当てこすったのだと思われる。ガリガリに痩せてるくせに何故かお腹ポッコリという謎体型も、幼児みたいで可愛くて庇護欲をそそられるし顔面とのギャップが堪らないはずだ。足し算は二桁になると指を使わないと計算できないけれど、女子というのはこういうちょっと抜けたところに母性を感じて放っておけなくなるものだ。
ちなみに、学業だけでなく剣技も魔法もさっぱりだった。けれど、それが今では『勇者』なんて呼ばれているところからわかるように、俺は本気でやればできる奴なのだ。
自分の魅力を自分で知る、これがまず大事だ。
しかし、そこで満足していてはいけない。その魅力をさらに引き立たせなくては、もったいないだろう。そう、自分磨きってやつだ。
己の魅力を輝かせるために、必要なものは何か? ノンノン、欠点をなくす努力じゃないんだな。オシャレだよ、オシャレ。
当然、俺はオシャレにも大層気を遣っていた。今はセンスで勝負する方にシフトしたからシンプルコーデに落ち着いたが、その頃は流行りの服を着て、アクセサリーをジャラジャラ付けていたよ。ああ、金を貯めて希少な石のペンダントを買ったこともあったな。酒場で女の子達に見せびらかしていたら、チンピラに絡まれて殴られて奪われて、それからアクセサリーに金をかけないことにしたんだ。
懐かしいな…………あいつら絶許。いつか見かけたら絶殺。
中でも特にこだわっていたのは、ヘアスタイルだ。
顔の形から似合う髪型を懸命に研究して、皆に聞きまくって良い散髪屋を探してカットしてもらったり、いろんな色に染めたり……おい、今笑ったか? 言っておくが、笑ったらこの剣で痛い目かエロい目に遭わせるぞ。
そう、この剣。こいつが全ての元凶だ。
俺が愚かだったと最初に前置きしたのは、モテたい欲を拗らせていた過去についてでもなければ、オシャレ魂を炸裂させるあまり、ちょっと個性が行き過ぎて時代を置き去りにしてしまったファッション歴についてでもない。その延長で、うっかりこの剣を手にしたことを心から悔やんでいるのだ。
女神が封じられていると言われ、選ばれし者のみが扱うことを許される伝説の剣――――俺の魅力は、こいつまでも虜にしてしまったらしい。
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