異世界召喚された俺のスキルは一日一回ガチャを引ける能力だった件

彩帆

本編

「勇者さま、どうか我々人類を魔王の魔の手からお救いください!!」


 気が付いたら神殿のような大広間の中央に俺は立っていた。

 どうやら俺は異世界召喚されたようだ。

 だって足元に魔法陣があるし、目の前にたくさんの魔術師と俺を勇者と呼んだ金髪のお姫様がいるのだから。


「大変だ! 魔物が門を破って城内に入ってきたぞ!」

「勇者さま、お願いします!」

「えっちょっと……!」


 お姫様が俺の手をぐいっと引っ張って連れていく。碌な説明もなしかよ!

 まぁ事態は緊迫している様子だから仕方ないのか。

 さっきの兵士の報告を聞くにそうだろう。


「うわ……」


 実際その通りだった。城門はぶち壊され、城の入口は異形の魔物が溢れており兵士たちが戦っていた。

 俺たちはそれを城のバルコニーから眺めていたが、この場所に魔物が迫ってくるのも時間の問題だろう。


「いやいや、無理だって! ただの普通の大学生の俺があんな大量の魔物を倒せるわけないだろ!」


 俺は武芸の達人でも剣術の使い手でもない。

 日々学費のためにバイトをしながら余った金で、ソシャゲのガチャを回しているような普通の大学生だ。

 ここに召喚される前だって、俺の推しであるヴァルキリーちゃんのピックアップガチャを回していたほどである。

 ヴァルキリーちゃんはバトルヒーローと呼ばれるソシャゲに登場する☆5キャラだ。簡単に手に入る子ではない。


 確率1%という悪魔の所業としか思えない壁を乗り越えねば、ヴァルキリーちゃんには会えないのだ。

 確率の渋いガチャで狙ったキャラを出そうなど難しい。

 俺も結果は惨敗、来てもすり抜けばかりと散々だった。


 クソが。ピックアップ仕事しろよ。

 周りの奴らはみんなもっているのに、俺はもう二年とヴァルキュリーちゃん未所持なんだよぉぉぉ!

 出すまで回せだと? うるせぇそんな金があったらとっくに回してる!


「大丈夫です! 召喚された勇者さまには特別な能力が与えられているはずです!」


 ああ、そうだった。今はガチャの話は必要なかったな。

 しかし特殊な能力なんてどこに……。


「……まさか、これか?」


 俺は手元を見た。そこには直前までガチャを引いていたせいで手に持っていた俺のスマホがあった。

 スマホの画面はバトルヒーローのゲーム画面が映っている。

 見慣れたゲーム画面だがいつもと違っていた。

 

___________

レアリティ:☆

【召喚された勇者】星野ほしの壱也いちや 

所持スキル【一日一回ガチャを回す】

___________


 俺の名前と写真がユニットとなってキャラ一覧に乗っていたのだ。

 まじかよ。でも☆1ユニットかよ!

 勇者にしてショボいレアリティだな、そこは☆5が良かったぞ!

 それにしてもなんだこのスキル……一日一回ガチャを回す?

 もしかしてと思ってバトヒロのガチャ画面へ。


 見慣れたガチャ画面はピックアップされているキャラはいないが、バトヒロに実装されているキャラは全員出てくる闇鍋仕様。

 そこにガチャを引くというボタンがあった。召喚石の消費はないようだ。

 試しに俺はそのボタンを押してみた。ガチャがタダで引けるんだぞ?

 とりあえず一回押してみたくなるだろ。ポチッとな。


「うわ!」


 画面の中で魔法陣が輝き始めると俺のスマホ画面も輝き、光が溢れた。

 溢れた光は一つに集まると画面を飛び出し、俺たちの前へ移動する。

 その光は徐々に人の形となり、剣を持った騎士となった。


「私は騎士アイリス。我が剣は主君のために。……さて、何を斬ればいいでしょうか?」


 ☆4キャラの騎士アイリスだ……。見間違えようもない。

 有名イラストレーターが魂を込めて描かれたキャライラストそのままのキャラが俺の前にいた。


「た、助けてくれ! もうこれ以上魔物を抑え込むのは無理だ!」

「主君、命令を! 私は主君の命がなければ動けませんので」

「あ、ああ! あそこの魔物を倒してくれ!」

「承知いたしました!」


 騎士アイリスはバルコニーから飛び降りて、眼下の魔物が暴れる戦場へ躍り出た。

 落ちながら一体の魔物に剣を突き刺し、踏み台にしながら剣を引き抜くと次の魔物を斬っていく。

 さっきまで劣勢状態だったのが嘘のように、彼女一人で次々と魔物を斬り倒していった。


「あ、アイリス! もういい! もう終わったぞ!」

「はっ! またやってしまいましたか……止めてくださりありがとうございます、主君!」


 ついアイリスが戦っている姿に惚けてしまったが、もう戦場に魔物は一匹もいなかった。

 それなのに彼女は剣を下ろさず、次は味方の兵士を斬りかねない様子だった。

 そういえばアイリスって戦闘狂だったな。戦っている内に敵味方がつかなくなるほどの。

 アイリスのスキル【狂花】もそれに由来するものだ。敵を倒すごとに戦闘力が上がっていく仕様だ。

 そんなあまりにも戦闘狂すぎるものだから、主君たる主人公の命令がない限り、戦闘はしないという契約を交わしていたっけ。


「いや、こっちこそありがとうな! お前の力のお陰で助かったよ」

「主君……!」


 なんかキラキラとした目線をこっちに向けてきている気がする……。

 そういえば、あの戦闘狂が災いして仲間から怖がられていたという過去があったっけな。

 だから怖がらずに普通に話しかけただけで彼女は喜ぶ。

 アイリスはチョロくて可愛いと評判で言われていたな。

 俺のパーティではあまり使ってないキャラだからちょっと疎いのだ。

 すまない、ヴァルキリーちゃんのことならなんでも分かるんだがな。まだ持ってないけど。


「勇者様! さすがでございます!」

「いや、俺がやったわけじゃないんだが……」

「いえいえ、かの騎士を召喚したのは勇者様ではありませんか!」


 ぶんぶんと俺の手を握って感謝を示すのはあのお姫様だった。


「あぁ、自己紹介を忘れていました。私はスターファイブ王国の王女、エス=エスレア=スターファイブと申します。私のことはどうぞエスレアとお呼びください、勇者様」


 いかにもレア度が高そうなエスレア姫が礼儀正しく一礼し、その後色々な説明をしてくれたのだった。


 ――それから俺は勇者として魔法討伐へ赴くことになった。


 正直どうして俺が勇者なんだろうな? まぁ元の世界に戻るためにも魔王は討伐しなくてはならないようだから仕方ない。

 エスレアが言うには召喚の魔法陣が鍵らしい。どうやら異世界を繋ぐこの召喚の魔法陣はエスレアたちの世界の物と対応する魔法陣があっちの世界にもないと起動しないらしい。

 伝承では勇者はこの世界の危機を感じ取り、魔法陣を用意するのだとか言われているが……正直俺はそんな予感を感じ取ったことはない。

 魔法陣だって用意はしてな……いやまさかあれか? ヴァルキリーちゃんを呼ぶために作っていた祭壇のせいか?

 どうやら俺は推しを呼ぶために作った物で自分を召喚させたらしい。

 くそ、なんで俺が召喚されてんだよ……。


 まぁ、とにかくそんな感じで討伐の旅に出て、とある村に到着するが……その村はすでに魔物に襲われていた。


「イヒヒヒヒ! その数で我らハイエナイナゴに勝てると思ってんのか~?」


 犬と虫をかけ合わせたような怪人ぽい魔物が村のあちこちにいる。確かに数だけは多いようだ。


「くっ……イチヤ様、悔しいですが敵の言う通りです。アイリス様たちだけでは負担かと!」

「エスレアの言う通りだな……ちょっと待ってろ」


 王国の姫がなんで一緒にいるかって? 魔王討伐のためにエスレア姫自らが道案内役を名乗り出てくれたのだ。

 それにただの姫様じゃない、魔法が使えるのだ。

 今も多数の魔物から俺を守るように防御魔法を展開してくれている。

 なんて頼りになる姫様なんだ。やっぱレア度が違うぜ。

 でも使える魔法は防御魔法のみだそうだ。その分どんな攻撃も通さない絶対防御の能力らしい。


「さて……よし! 今日のガチャ分は引けるな!」


 俺の能力は一日一回しかガチャが引けない。

 あれから四日目、アイリスの他にも低ランクだが二人ほどキャラが増えた。

 しかし彼らだけではこの数には対応できない。

 ならもう一人呼んで四人になればこの窮地を脱せるかと思うとそうはならなそうだ。

 そうなると……強力なユニットかつ、範囲攻撃を持つキャラが来てほしい。


 俺は周囲を見渡す。そこに井戸があった。丁度いい、あれを使おう。


「イチヤ様、何をなさっているのです!?」

「何って、禊だ」


 俺は井戸から水を汲み上げるとそれを頭からかぶった。

 寒い……だがこれも運気を上げるためだ。

 風呂に入った後にガチャを回すと狙ったキャラが当たるという噂があった。

 それは禊と同じだ。汚れを落とし、心身ともに清めればきっとガチャ運も上がるのだろうと。


「フレイちゃんが来ました! フレイちゃんが来ました! フレイちゃんが来ました!」


 俺は手を組んで祈りのポーズをしながらキャラ名を連呼する。

 よし、当たった時をイメージした素振りは完璧だ!

 横でエスレアが引き気味の目で見ているが気にしないことにする。

 まぁ分からないでもない。いきなり冷水をかぶったずぶ濡れの男が突然女の名を連呼しているのだ。

 頭でも打ったのかと思うだろうが、これもガチャで欲しいキャラを当てるためには必要なことなんだぞ。

 みんなやっている。えっ? やってない?


 まぁとにかく、下準備は終わった。後は回すだけだ。

 俺は単発教じゃなくて十連教なんだがな……システム的に単発しかない。

 今回ばかりは単発教に入信しながら、俺は寒さに震えながらも祈る気持ちでガチャボタンを押した。

 しばらくしてスマホの画面が光り輝き、その光が飛び出してきた。


「オレっちを呼んだか、大将! バーンと任せな!」


 黒い髪を纏め、だぼだぼのローブを纏う少女の錬金術師、☆4のフレイだ。

 よっしゃ! フレイちゃんが来ました!

 俺、今日から単発教を信仰するわ。あと禊もいいぞ。


「アイリスたちは住人をこちらに集めろ! エスレア、全員守れるな?」

「任せてください、主君!」

「もちろんです!」


 住人たちをアイリスたちが助け、村の中央広場に集める。それをエスレアが防御魔法で守る。


「イヒヒ! 一箇所に集まっても我らに囲まれただけ……貴様らは全員我らが食い散らかしてやろう!」

「はっ! 目の前の餌に釣られて集められたのはお前らのほうだよ! フレイ!」

「ガッテンだぜ、大将!」


 バンっとフレイが大きなフラスコを取り出す。両手に抱え持つほどの大きさだ。


「さぁ……派手にぶっ飛ぼうじゃないか!! 超必殺バーニングフレア!!」

「き、貴様何を……ぐあああああ!!」


 投げられたフラスコはその場で巨大な爆発を引き起こした。

 フレイは爆弾の魔術師とか爆弾魔とか呼ばれるキャラだ。日々爆発力の高い爆弾を作って研究している。

 そして彼女の必殺技があの巨大フラスコ爆弾を投げつける技【バーニングフレア】だ。

 爆発は周囲一体を巻き込んで、魔物は一匹の残らず倒してくれた。


「フ、フレイ様は大丈夫ですか?」

「いや、あいつならあそこで死んでる」

「えっ!?」


 驚くエスレアに俺は何でもないように指を差す。

 そこにはボロボロになって倒れているフレイの姿があった。

 あの技……フレイ自身も巻き込む自爆技なんだ。

 その分威力がクソ高いピーキーな技である。


「ふははは……さすがオレの作った爆弾だ……最高の威力だぜ……」


 当の本人は自分の技に巻き込まれては、自分の技に惚れ惚れしているドMキャラだ。

 ……いつもの光景だなぁ。このフレイの姿を素材周回の度に見ていたのを思い出したよ。


「大丈夫なのですか……?」

「大丈夫、すぐ復活するから」


 戦闘不能になっても一日で復活する仕様だ。

 だから一日一回フレイが爆破してても大丈夫だ。


「……くしゅん」


 あーやっぱり冷水なんてかぶるもんじゃないな。

 よい子のみんなは禊をやるなら普通にお湯のシャワーにしとけよ。お兄さんとの約束だ!


「イチヤ様、これをお使いください」

「ありがと」


 エスレアからタオルを受け取る。……ちょっと暖かいのは魔力を通してくれたのだろう。

 そんな感じで無事魔物を退治し、村の平和を取り戻した俺たちはまた旅を続けることとなった。



「ブヒヒ! 俺は魔王様に仕える四天王が一人、ピッグアスリヌーケ様であるブヒ!」

「ピックアップすり抜けだと!? 死ね!」

「違う! ピッグアスリヌーケだブヒ! あとなんだその殺意は」


 次の街に訪れた俺達の前に現れたのは殺したいほどムカつく名前をした豚の魔物だった。

 魔王四天王を名乗るだけあってすごく強い……アイリスやフレイ、他のメンバーでも太刀打ちできないほどだった。


「ここは……☆5キャラを呼ぶしかないな」

「ですがイチヤ様、その☆5のランクに相当する人は簡単には呼び出しに応じてくれないのでしょう?」


 エスレアの言う通りだ。

 ☆5キャラはそう簡単に当たるものではない。

 数を回せば来るだろうが、俺の能力的にはそれは無理だ。

 まさに乾坤一擲。一回に全ての運を注ぎ込まなくては。

 だがそのまま回しても☆5なんて来る気配はない。少しでも運気を上げる必要があるっ!


「――祭壇を作るぞ!」

「祭壇……?」


 推しのキャラに来て欲しい?

 ならばそのキャラの好物や縁のある物を片っ端から集めて並べろ!


 俺はこんな事もあろうかと用意していたマグロを数体地面に並べ始めた。

 前に寄った港町で魔物の被害から助けたときにお礼に貰ったものだ。

 マグロはスマホを介してゲーム内のアイテムボックスに入れておいた。

 腐ることもないから便利なものだな。


「何をなさっているのです!?」

「何って祭壇を作っているんだ……召喚するものが決まっている場合、触媒となるものを並べて祭壇を作っておけば確率が上がるんだよ……」

「そんな力があったのですね……」

「いや、眉唾だけど」


 まぁ生の魚を魔法陣の上に並べているなんて何の儀式かと思うだろう。

 実際召喚の儀式だからあっているが。

 こういうのは雰囲気だ。雰囲気で運気を上げていけ。


 しかし……今回呼ぶ子は触媒とかなくてもなんとなく来る気がするんだ。

 たまにないだろうか? この子別に欲しくないんだけどなんか当たる気がするなーと思うことは。

 ……正直俺はこのキャラを呼びたくない。そんなことを言っていたら逆物欲センサーに引っかかってくるんだろうな。嫌だな……。


 まんじゅうこわいかの如く、俺はガチャを回した。

 光は輝き、無色から金に、そして虹に光り輝いた! これは……確定演出!?


「フフフ……わたくしはレヴィアタン。あなたの呼び声に応えて参りました。……やっと会えましたね、わたくしの運命のつがい!」

「チェンジ!」


 狙っていた。確かにお前を狙っていたがやっぱりチェンジで!

 ☆5キャラ、レヴィアタン。バトヒロでもかなり高性能なキャラとして人気の高いキャラだ。

 だが俺はこの子を好きになれない理由がある!


「まぁ酷いですわ、我が愛しきつがいよ。まさか……そいつですね! わたくしのつがいを誑かす女は!」

「ひぇーイチヤ様ー! な、なんなのですか、この方は!」

「だあああ! これだから面倒なんだよ!」


 レヴィアタンは嫉妬深いヤンデレだった。

 ゲーム中でも主人公に一目惚れをしており、自分の運命のつがいと定め、近寄る女を排除していたっけ。

 そして俺はこのレヴィアタンを何度タブらせたことか!

 愛しのヴァルキリーちゃんを引きに行く度にこいつが出る。

 もう完凸はとっくにしてるんだよ、もう来ないでくれと叫んでも来る。


 正直このヤンデレ怖い……。俺は愛されるならヴァルキリーちゃんがいい……。

 友人にお前もヴァルキリーへの愛は似たようなものだと言われても俺はこいつとは違うと断言する!


「貴様ら! 俺を無視して何を――ぎゃああああ!!」

「うるさいわね、この豚野郎。わたくしの愛しきつがいとの感動的な再会を邪魔しないで」


 それはもう一瞬だった。レヴィアタンの必殺技【全て飲み込む大波】にピッグアスリヌーケは流されていった。

 さすが☆5キャラの中でも最強と言われる一角だ。四天王をさっさと倒してしまうとは。


「さぁこれで邪魔者はいなくなりましたわ! わたくしと愛を――」


 それを確認して俺はさっさとレヴィアタンの召喚を解除した。

 危なかった……俺にとっては最凶の存在だ。

 ヴァルキリーちゃんと呼ぼうとして毎回出会う女だ。

 レヴィアタンとこれ以上一緒に居たら来てくれないかもしれないからな。

 だが一度召喚したのだ、もう会わないだろう……。本当、もう来ないでくださいお願いします!


 ――俺たちの魔王討伐の旅は続いた。

 ピッグアスリヌーケに続き現れた四天王、ダブリダブリ、ブルーシーリング、ジュウマンデモンコーナイを倒し、ついに魔王の元へたどり着いた。


「フハハハ、我もとにたどり着いたことは褒めてやろう。だが……結局この程度であったか」

「クソ……魔王ゼロスター、簡単には倒せないと思っていたがこれほどとは」


 魔王を前に俺の仲間たちが次々に倒されていった。アイリスやフレイ、そしてレヴィアタンまでもが手も足も出なかった。


「しかし、勇者とは名ばかりだな。貴様は何もせず棒立ちとは……」

「くっ……」


 魔王の言う通りだ。俺はガチャを回す能力しかない。

 戦闘能力はなく今もエスレアの防御魔法に守られてばかりだ。


「ごめんな、エスレア。役立たずな俺が勇者で。俺じゃなかったらきっと……」

「そんなこと、ありません!」


 エスレアは魔王の攻撃を今も耐えながら、必死に叫んだ。


「イチヤ様はいつも一生懸命でした。真剣に召喚の儀式を行い、現れた彼女たちの能力を最大限に生かせるように指揮していました。役立たずなんかじゃありません!」


 その時、魔王の攻撃が彼女の絶対を誇っていた防御魔法を割った。

 勢いで彼女は吹き飛ばされ、俺の後方へ転がっていく。


「エスレア!」

「イチヤ様……引いてください。あなたと旅をして今日で100日目……いつものように引いてください……!」


 苦しげに呻きながらもエスレアが言う。


「……あぁ、そうだな。まだ今日は引いてなかった」


 俺はぎゅっとスマホに握りしめ、ガチャ画面を見つめる。

 この状況を打破できるのはきっと彼女しか居ない。

 俺は深呼吸をし、脳にイメージする。


「――来いッ!!」


 ボタンをタップすれば、召喚の魔法陣が光り輝いていく。

 やがてそれは光の塊となり画面から飛び出してきた。


「スラ~!」

「……く、ふはははは! これはスライムではないか! まさかこのスライムで我を倒そうというのか?」


 俺と魔王の間に召喚されたのは☆1のスライムだった。

 その場に絶望的な雰囲気が流れ始めた。

 ……だが、俺のスマホ画面にはとある通知がきていた。

 あぁ、まさか。このシステムが実装されていたとは。


「ふははは!」

「何がおかしい、勇者イチヤ」

「いや……毎日欠かさずガチャをしていてよかったなって思って……」


 スマホ画面をタップすれば光り輝き、光は虹色のチケットとなり俺の手に収まった。


「喜べ諸君――天井だ」


 ――天井。

 それはガチャ戦士に与えられた唯一無二の救済処置。

 ガチャという文明が誕生して以降、いくら突っ込もうが欲しいキャラが来ない……そんな闇に飲まれていく人々が後を絶たなかった。

 そんな彼らを救うべく誕生したのが天井システムだ。

 まさに地獄に垂らされた蜘蛛の糸とも言うべきこのシステムはある一定の回数分、ガチャを回したら必ず訪れる。

 その効果はゲームによって様々だが……今俺の手にあるチケットは☆5キャラ指名交換チケットだった。

 つまり――!


「来い、ヴァルキリー!」


 最初から虹色に輝いた魔法陣が現れ、光の爆発とともに一人の天使が現れた。

 背には白い翼を持ち、兜を被り、長槍を手にした女性。


「呼びましたか、マスター」


 ――俺の推しがそこにいた。


「こ、これは……」

「体の傷が癒えていくわ……」

「戦場の死者は私が決めること……ここにいる者はまだ死ぬべきではない」


 ヴァルキリーのスキル【戦場の乙女】の効果で味方の傷が全回復していく。

 さすが俺の推しだ。全回復はもちろん蘇生もできるし、味方の強化もできる。

 彼女一人いればどんな敵でも倒せると言われるほどの最強キャラだ。


「さぁみんな、魔王討伐といこうか!」

「はい!」

「ガッテンだ!」

「ええ、任せなさい!」


 アイリスの剣が煌めき、フレイの爆弾が炸裂し、レヴィアタンの波が魔王を飲み込む。


「この戦いに終焉を……!」

「お、おのれええええええ!!」


 最後にヴァルキリーの【終焉を呼ぶ槍】が放たれ、魔王を打ち破った!

 一時はどうなることかと思ったが……なんとか魔王を倒せたな。


「イチヤ様やりましたね! イチヤ様?」


 俺の体が半透明になり、光の粒子が浮いていた。

 魔王を倒し勇者の役割を終えたからだろう、俺はどうやら元の世界に戻されるようだ。


「勇者イチヤ、よくぞ魔王を倒してくださいました。この世界の民を代表し、感謝いたします」

「みんなのおかげだよ。……それに最後、エスレアが諦めずにあの言葉をかけてくれたから勝てたんだ」


 俺は諦めかけていた。

 もうガチャを引いてもダメだろうと思っていたが、エスレアの言葉のお陰で回せたのだ。

 エスレアは別れを惜しむように目に涙を浮かべてくれた。

 思えば彼女と出会ってからずっと一緒に旅をしていたな。道中は色々と助けてもらった。


「エスレア、色々助けてくれてありがとうな。元気で暮らせよ」

「イチヤ様……これを!」


 消えていく直前、エスレアは俺に首に下げていたネックレスを手渡した。


「縁があればまた出会えますから!」


+++


「ここは……」


 気がつけば俺は元の世界の自室に居た。

 ちょうど召喚された直後の日付から二時間後だった。


「はは……」


 もしかして今までのは夢だったのだろうか?

 そう思った俺の手にあったのは――ヴァルキリーがいるバトヒロの俺のアカウントとエスレアに貰ったネックレスがあった。


 それから俺は元の世界に戻り、普通の大学生の生活に戻っていった。


「あああああーーーーレヴィアタンーーー!! またお前かあああああ!!!!」


 茹だるような暑い夏のある日。

 俺はピックアップすり抜けできたレヴィアタンに発狂しながら、スマホをベッドに放り投げた。

 今日はいつもの装いから水着に着替えたキャラたちの実装日だった。

 その水着キャラの中に俺の推したるヴァルキリーちゃんがいたものだからこれは回さざるを得なかった。

 だが結果は大爆死。現実のバトヒロ運営は優しくない。

 なにせ天井はなく、突き抜ける夏空も真っ青な青天井だ。


「……まぁこれで、揺り戻しはくるだろう」


 俺はしばらく放心したようにベッドの上にいたが、のそりと起き上がる。

 写メを見ながら床にチョークで魔法陣を書いていく。あの神殿の足元にあったものと同じだ。

 それから引き出しを引いてある物を取り出す。


「さすがに来るわけないだろうけど、まぁ試しにやってみてもいいよな?」


 取り出した物はネックレスだった。それを手に、祈るように魔法陣の方へ手をかざした。

 すると――魔法陣は光り輝いた。虹の光に部屋が満たされる。


「私はスターファイブ王国の王女、エス=エスレア=スターファイブです。……また会えましたね、イチヤ様!」


 光が収まった部屋の中央に立っていたのは一人の女の子だった。

 金の髪にティアラをし、ドレスの裾を掴んで礼儀正しく一礼する高貴な姫。


 ……俺は思わずグッと握りこぶしを作って叫んだ。


「SSRきたあああああああ!!」

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異世界召喚された俺のスキルは一日一回ガチャを引ける能力だった件 彩帆 @iroha_san

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