詐欺師にも良心あり。
【1】霊感少女
どういう風の吹き回しか、詐欺師をしていた俺はどんな要件も飲み込む、そう赤ちゃんの様に飲み込んでしまう便利屋になっていた。
昔のことを思い出そうとするけど中途半端で、今と高い壺を売っていたその間は思い出せない、全くだ。多分、俺のことだから飽きたんだろう。大学を卒業し、友達付き合いで仲良くしていた人が詐欺グループの幹部だった。そんな経緯で三年間も詐欺師をしていた訳だが、うんざりした、他人に嘘を吐くことに抵抗は無い、つまりクソ野郎だったが自分に嘘を吐くのは耐えられなかったんだろう。
もう一度言おう、おれはクソ野郎だ。これでこのストーリーの主人公としてのハードルは下がったはずだ。
『便利屋』というと大まかすぎる括りだから説明しておくか。
主に助けがいる人を救ける、というのがこの仕事の内容で、代金はスケールによって変わる。俺が少し有名になったきっかけが幽霊退治だったので、ここ最近はほとんどがオカルトちっくな依頼だ。ちなみに幽霊退治にもスケールがあって、あの時の仕事は学校の七不思議を消して欲しいという依頼だったので五十万は取った。女子高生から。
また、もう一度言おう。俺はクソ野郎だ。
流石の俺でも出来ないこともあるからその場合は断っている。「結婚してください」とか、「人を殺して下さい」とか。恐ろしいぜほんとに。
注意、依頼はSNS、電話で受けている。
助けて欲しい方はこちらのウェブサイトから、つって、胡散臭いのは苦手だ。
夕方の四時半、依頼を受けたので近所の『鑑遭高校』の通学路をとぼとぼ歩いていた。カーブミラーに写る自分はだらしなくみっともない姿だった。客観的にではなく主観的にだが。
すれ違う同じ制服を見に纏う学生たち、余談だが幽霊退治をした高校は他でもないこの高校だ。
「あれれれ?」
もうこれほどか、と思うほどの萌え声がした。
「あれれれれ?」
『れ』が増えた。
その声には聞き覚えがあった、というか聞き飽きた。俺が行くとこ行くとこに現れるストーカーだ。今回のケースは俺から近づいた様なものだけど。
「こんにちは、鷺ノさん!」
俺の名前は『鷺ノ』ではなく『路ノ鳥』なんだが、俺が名刺を渡した日からそう呼んでくる、間違うはずないからわざとだ。
「なあお前、名刺を何度渡したらちゃんとした名前で呼んでくれるんだ?ローマ字で振り仮名を打ってあるはずだぞ?『MITINOTORI』って、それともこれが『SAGINO』に見えるのか?」
「人のこと言う前に自分を見つめてみては?お前って名前じゃないです私、『宇佐兎』です!上の名前は『USA』で下の名前は『HANERU』です!以後お見知り置きを。」
「『USA』ってお前、アメリカ出身だったとは。漢字が読めないことは許してやる、たがローマ字は読めろ!」
「しかし鷺ノさん、なぜここに?またうちの学校に幽霊でもでましたか?」
にゅっと俺の目線に入ってきたので九十度首を回した。
「なあジェシカ、確かお前の依頼で幽霊は全て祓ったぞ。」
「そうです、その節はありがとうございました、ではなんで鷺ノさんがここに?女子高生を眺める趣味がお有りでしたか?」
またにゅっと目線に入ってきたので次は体ごと九十度回した。
「なあメイジェーン、俺はそんな趣味なんかないぞ?ただ依頼主がお前と同じ高校で、待ち合わせ場所が通学路を通らないと行けない場所だっただけだ。」
「なるほど、パパ活ですね!」
なるほど、こいつは本当にアメリカ在住らしい。
今回の依頼だが、また幽霊関係だ。負は連鎖すると言うが幽霊退治した学校の生徒がまた幽霊に悩まされているとは。世間は狭いものだな。
幽霊を祓える便利屋、として名が通っているが俺は幽霊なんてものは信じていない。
あんなことがあったが。
科学的に、印象に残っているもの、恐怖心を揺さぶったものを幻覚にシフトして見えてしまう。これが幽霊だと言われている。
だから今からすることは幽霊退治になんてならない、カウンセラーだ。
「この公園か。」
「うわ公園でパパ活ですか、趣味良いですね。」
「趣味良いって褒めてないよなそれ、てかパパ活じゃないぞクレア!そしてなぜまだついてきてるんだ!普通にストーカーだぞ!」
「いやさっきからアメリカにいそうな名前で呼ぶのやめろ!!」
圧倒的にツッコミが遅すぎる!!!
「お前な、同じ学校の生徒と今から会うんだ。もし依頼主が人に聞かれたくない、知られたくないから俺に頼んでいたとしたらすごく邪魔だからな。」
こればかりは仕事なのでがつんと言った。流石のこのアホでもモラルは常備しているだろ。
するとアホはニコッと笑って三回転した。
「紹介したの私だから大丈夫ですよ!」
「ありがたい!!!」
仕事のマナーその一、どれだけ憎い相手であろうと感謝しなければいけない時は、口に出して感謝を伝えるべし。
てか、こいつはパパ活だのなんだの言ってたが何するかわかってイジってやがったな。末恐ろしい奴だよ全く。
「あ、でも私習い事があるから帰らないといけないんだ。」
忘れてた〜と、語尾に音符をつけるが如くスキップし、公園を出る辺りでこちらを向いてお辞儀をした。
「それではまた、ごきげんよう。」
不慣れな言葉遣いだけを残してアホは颯爽と帰っていった。そういえば「それではまた」って言ったなあいつ、また俺を付き纏う気満々じゃないか。
深くため息をしてから公園の中央に聳え立つ時計を見た。五時を指した短針と五分を指した長針、依頼主との約束は五時にこの公園だから、もうすぐ来るはずなんだが。
まだ来ないかと便利屋のサイトから連絡を入れようとした時、丁度その依頼主から連絡が来た。
『後十五秒』
は?なんだこいつ?と思いつつも心ではカウントを始めていた。
B級ホラー映画みたいな文に悪寒を覚えつつ、その姿を待った。五、四、三、二、一。
「お待たせしました!!!!!」
一秒前にはまだ姿も物音もしなかったのに気付けば目の前に彼女は立っていた。
「うわっ!!びっくりした!!」
思わず出てしまう言葉、そしてヘタなB級ホラー映画よりも怖かった状況に足がすくむ。
全身青のジャージでスポーツドリンクを片手に持っている。そしてフルマラソンを走り終えたかの様に見える汗の量。またおかしな奴だな、あの高校にはまともな人は入れないという受験の審査があるのかよ。
「おっとすみません!申し遅れました!ボクの名前は『域遥』って言います!」
「あーえっと、領域の域に遥か向こうの遥ってプロフィール書いてあった、これが君で間違いない?」
「はい!漢字二文字なので苗字が域遥だとよく間違えられるのですが、上が域で下が遥です!なので遥と呼んでください!!」
申し遅れました、時間も遅れました、だろ?と言いたくなったが多分、この人は相当真面目な人なんだろうと悟り、そしてそんなことを言うとまじめに謝ってきそうだったので、舌の先辺りで言うのはやめた。
仕事のマナーその二、依頼主のいうことはできる限り聞いてあげること。
まあ女の子を下の名前で呼ぶことぐらい、慣れていることなので躊躇はしないよ。
「じゃあ、よろしくね。遥ちゃん。」
「ちゃん付けは気持ち悪いですね!」
決めた、明日から女の子は全員苗字で呼ぼう。
「で、域。君はどう言った要件なんだ?大体は把握しているが説明してくれ。」
街頭が照らしてくれる辺りのベンチに座り、足をプランプランと動かす彼女にそう問いかけた。
「その、笑わないですか?」
さっきまでの元気を全て抑えた顔と声のトーンで聞いてきた。
仕事のマナーその二、依頼主のいうことはできる限り聞いてあげること、だ。幽霊が出たなんて話はもう知っているから意識しないでも笑いはしないよ。
「ああ大丈夫だ、言ってみな。」
すると満更に決意をしたような顔に変え、口を開いた。
「お風呂に、お風呂に!幽霊が出るんです!!」
乙女だ!!
こういうタイプの依頼はすぐに方がつく。風呂場のライトを明るいLEDに変える、とか。音楽を聴きながら入るとか。
と思った矢先、そんなもので解決することはできないと確信した。
その彼女の一言で。
「しかも、お母さんの、幽霊なんです。」
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