交差点で僕とぶつかってパンチラした美少女が教室で「パンツ覗き魔!」って叫んだら、なんやかんやあってその子と毎朝一緒に登校することになったラブコメ

最終章

ようこそラブコメ学園へ!

第1話 まさか、私が、ラブコメっちゃうなんて!

 カーテンから差し込む日差ひざしで、僕は目を覚ました。


 やけによく眠れた気がする。いつもならば、もっとだるくて、目覚まし時計を無視して、父親にふとんをひっぺ返されてようやく起きるというのに、今日は一人で起きられたし、寝覚ねざめもいい。


 今日から僕も高校生だし、大人になったということだろうか。


 僕は、ぐっと背伸びをする。


 買ったばかりのカーテンから日差しのにおいがして、小鳥の鳴き声がどこからか聞こえてくる。


 いい朝だな。


 そこで、ふと、僕は異変に気付く。いつものベッドではないのだ。そういえば、高校に通うために、引っ越したのだった。昨日は、引っ越し作業の疲れで、くたくたで、おそらくそのおかげで眠りが深かったのだろう。


 うーん。


 それよりも、もっと大事なことを忘れている気がする。


 うなる僕の視線が、床に転がる目覚まし時計を発見する。誰かにぶん投げられた形跡けいせきがあり、電池がはずれて転がっている。


 まぁ、あれを投げたのは、僕しかいないわけだけど、問題なのは投げた理由だ。普通に考えれば、目覚まし時計が鳴ったけどうるさくて、無意識に取ってつかんでぶん投げたと考えるのが自然だ。


 あれ?


 そんな時間なのか?


 だとしたら、おはようではなくおそようということになるんだけど、だったらば、お父さんが起こしに来てくれるはずだ。


 あ。


 それだ。


 お父さんは仕事の関係で、引っ越して来られないんだった。だから、今日から僕は一人暮らし。つまり、僕を起こしてくれる人は存在しない。


 僕は、急いでスマホを探して時間を確認した。


 

「やばいじゃん!」



 カーテンの匂いなんて堪能たんのうしている場合ではなかった。


 既に遅刻目前ちこくもくぜんの時刻じゃないか!


 僕は、急いで支度したくをした。制服に着替えて、かみととのえる。寝ぐせが直らないがもう仕方ない。トーストなんか焼いている時間はないから、リンゴを一つ掴んで、僕は外に出た。



「いってきまーす!」



 こたえる者などいないが、つい、習慣しゅうかんで口にしてしまう。けれど、いってらっしゃいの声がないといささか悲しいものだ。そのとき、僕は一人暮らしを始めたんだなと、やっと実感したのだった。


 いや、しみじみしている場合じゃないやい!


 僕は、リンゴを急いでかじって食べてみ込んで、しんの部分を道沿いにあったコンビニのゴミ箱に放り投げた。


 家は、学校から徒歩で30分。まだ自転車は買ってないから、急いで走って15分といったところだろうか?


 ぎりぎりだな。


 今日は、高校生活の始まりの日。だけれども、入学式ではない。実のところ、ここ、稀久保まれくぼ学園に入学が決まったのは、3月末のことで、引っ越しなどもあり、入学式に出ているひまがなかったのだ。


 いろいろなイレギュラーのせいもあって、今日が登校初日。ある意味、転校生のような立ち位置なわけで、かなり気まずい。さらに遅刻なんてしたら、悪目立わるめだちしてしまう。


 なんとしても、間に合わせなくては!


 僕は、リュックを背負せおい直して、買ったばかりのいささかフィット感のないスニーカーで、コンクリートの地面を勢いよく蹴飛ばした。


 けれども、それは軽率けいそつだった。


 というか、あれだ。いわゆる交通マナーだ。を、僕は守らなかった。


 交差点で、跳び出してはいけない。


 気づいたときには、もう遅かった。突然、視界のはしに跳び込んできた彼女を、僕は避けることができなかった。


 

「きゃ!」



 悲鳴が聞こえて、ぶつかって、倒れて、僕は、思わずつむってしまった目を、恐る恐る開いた。


 スカイブルー


 それは、雲一つない晴天の空の色で、どこまでもどこまでも広がっていきそうな夢のある青色であるが、どうしてに、空があるのかというと。


 

「きゃっ!」



 僕の目の前で倒れていた女子は、短い悲鳴をあげて、見せつけるようにこちらに広げていたまたをさっと閉じた。


 突然のことに、当惑していた僕は反応が遅れてしまった。いや、決して、スカイブルーに見惚みとれていたわけではない。まぁ、たなぼた的な? 高校生になるってこういうことなのね、破廉恥はれんちだわ、とか、そんなことを思いはしたけれど。


 いや、とにかく謝らないと!



「ごめん! 急いでて! 怪我はない?」



 見れば、同じ稀久保学園の生徒である。チェックのスカートに白いシャツ。それだけならば、普通だが、やたらと装飾品が多く、どこぞのアイドルか何かなのでは? と思わせるくらいに派手な制服だ。いったい誰の趣味なのだろう。校長先生かな?


 その派手な制服が奇抜きばつに思えないくらい、彼女は美人であった。首に巻かれた学校指定のスカーフがこれほど似合うものなのかと驚いた。


 ダークブラウンの髪がさらりと伸びており、はっきりとした目鼻立ちを強調している。白い肌と、藍色の瞳が、きれいに調和していて、唇の朱色がいいアクセントになっていた。


 あまりの美しさに、僕は、それこそ見惚れてしまったわけだけれども、一方で、彼女の方は、おかしな挙動をとっていた。


 スカートの裾を抑えて、恥ずかしがっているのかと思った。もしかすると、怒っているかもしれない。いや、僕の不注意に怒るのは自然なことだ。


 しかし、彼女の反応は、少し違った。


 怒っているには、怒っているような気配がした。ただ、それ以上に、恐怖しているというか、愕然がくぜんとしていた。


 青ざめていたのだ。


 

「だ、大丈夫?」



 僕が、再度、彼女に問いかけると、彼女は、目尻に涙を浮かべて、キッと僕をにらみつけていた。



「なんてことを、してくれたの!」


「ご、ごめんってば。遅刻しそうだから、急いでて」


「最悪だわ!」



 彼女は、頭を抱えた。まるで、世界が終わったかのように、絶望にさいなまれているようだった。いや、確かにパンツを見られたのは、ショックかもしれないけれど、そこまで落ち込まなくてもいいんじゃないの? と僕が不思議に思っていると、彼女は、重々しい口調でつぶやいた。



「まさか、私が、ラブコメっちゃうなんて!」



 ……どゆこと?

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