百合だけど……このあと、めちゃくちゃセックスした
@hachimitsu-pot
第1話 英語のノートとキス
英語の授業が始まる前、私はあわてて隣の教室に飛び込んだ。
「秋津、英語のノートかしてっ!!」
サラサラとした長い黒髪が秋津の肩を守るようにしっとりと覆っている。
青白いくらいの白い顔に、はっとするような紅い唇。
アーモンド型の大きな目は二重にしては細めだ。実は右側だけ奥三重になっているがそれが秋津をミステリアスな印象を作っていた。
秋津ははっきり言って、近寄りがたい美少女だ。
だけれど、そのおかげで彼女なら絶対にノートをもっているのだろうと私は彼女にノートを借りに来たのだ。
廊下で改めて、秋津が渡してくれたノートを眺める。
さらさらとして清潔そうな手触りと、製造過程で出来たのだろう、空気が入ってでこぼこが出来た背表紙がくすぐったい。
クラフト紙の表紙は何も書かれていない。地味でシンプル。まるで飾り気がないけれど、なにかを将来に期待している感じがまるで私たちみたいだ。
うちの学校の生徒にそっくり。今は地味だけれど、将来はたぶんそこそこ味がある大人になる。
色んなものを書き込んで行くうちに、このただのまっさらな表紙は汚れたり、物足りなくなったりする。私たちはそれを隠すように、カラーペンで自分らしさを彩ったり、シールを貼ったりする。
私は秋津のノートをみながら、考える。
やたらと眠い教室の一番後ろ。
温かいのがいけないのだ。窓際の景色は無駄に金色に染まった銀杏が見えるばかり。天気が悪い性で頭痛防止であらかじめ鎮痛剤を飲んでいたのが原因かもしれない。
◇◇◇
「あ・き・つーッ!!!」
私は授業が終わるなり、隣の教室に走った。
隣のクラスは次の時間が体育らしく、教室のカーテンは閉められて、制汗剤やら女の子特有のミルクっぽい甘い匂いが濃かった。
私が、となりにいったとき、秋津はほぼ着替え終えて、ティーシャツの上にジャージを羽織れば完成って状態だった。
「なあに?」
と秋津は、ジャージを半分羽織かけた状態のままこちらを振り向く。両袖がジャージのなかに埋められている状態で、上半身をこちらにねじっているせいで、腰の細さが目立つ。
こっそりと紺色のブラジャーの紐も透けていたのが見えて、注意すべきかどうか迷ったけれど、上にジャージを着るのだから大丈夫だろう。
「なあに? じゃないよ~、秋津。ノート完璧な新品じゃん!」
そう、秋津が貸してくれたノートは新品みたいじゃなくて本当の新品だった。
「ああ、だって昨日ノート使い終わったばかりだから」
あっけらかんと、秋津はいう。
秋津は私が彼女からノートを借りるのが趣味だと思っているのだろうか。おかげで、予習忘れとして私は英単語百個の書き取りを言い渡された。
イマドキ珍しいわら半紙の紙は滑りがわるくて、ノートに書くよりも手が痛くなると言うのに。
なのに、秋津は返ってきたノートを嬉しそうにみている。
「あっ、今日はネコか」
そういって、新品のノートの裏表紙に貼られた付箋を愛しそうになでている。
そう、秋津からノートを借りたとき、私はいつもノートにイラストをかいた付箋を貼っている。
秋津はそれをなぜか、それを丁寧に切り抜いてスティック糊で自分のノートの表紙に貼り付ける。ちょっと嬉しくて恥ずかしい。
もしかして、交換ノートだと思ってた?
そんなやりとりをしている内に、秋津の教室は空っぽになっていた。
「次、体育だから行かなきゃ」
「じゃあ、私は教室にもどるわ」
私はあえて、廊下じゃなくて、ベランダの方から教室に戻ろうとする。風が大きく吹いた。
「あっ、鍵しめるね」
秋津はパタパタと駆け寄ってくる。
カーテンがはためく。
このあと、私たちは偶然キスをした。
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