第14話 親心、子心

「栞!」

 栞が去った居間で、すぐ追いかけようと立った書を止める存在がいた。

「当主様。私がいって参ります」

 書の下に弟子入りした若い男の陰陽師、倉永写うつし。最も、次期当主に近いと言われている陰陽師で、今はふみの付き人もしている陰陽師だった。

 写が現れたことによりすぐ冷静になった書は、ほんの一瞬だけ考えたのち、自分が行くより栞の心を荒らさずに済むだろうと判断して。

「分かった。任せるわ」

 と言った。

「御意」

 急いで写が出ていき、居間には書とまきの二人だけになる。

 静かに、静かに。時間が流れていく。座りもせずに書は話さず、巻も急なことで自分が口を開いていいかも分からず、ただ黙っている。

 おもむろに、書は口を開いた。

「喋る、のとか。そういうの、向いていないのね。私。八十三代目を母から任されているのに、自分の力不足を痛感するわ」

 母の初めて聞くかもしれない弱音に、驚いて巻は顔を上げる。

「ねぇ、巻。あなたの気持ちもよく、分かるのよ。私も、引きずっているから。お父さんのこと」

 巻にとってその言葉は、確かに自分に向けられた同情の言葉で。

 こうなってしまった自分に向けて、確かにかけられた母からの優しさだった。

「でもね、私と違って、あなたはね。お父さんと違って、あの子はね。生きてるのよ。だからね。もしもあなたが望むのなら、私掛け合ってみるわ。清香さやかちゃんのこと。風鷲ふうじゅ巫覡ふげき天珀てんぱくさんのとこまで行って」

「え……?」

 その日の夜空には、確かに新月が燦燦と輝いてた。

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