化物皇女と勇者?と魔王?

@HottaShion

第1話 バネルパーク皇国①

 夜。空には、まん丸と輝く満月。

月の光だけが世界を照らす、美しさと儚さが同居する夜だった。


「はぁはぁ!急げ!!はいや!!」


 馬車を引く二頭の馬に、強く鞭を打つ従者は、静かな夜に似つかわしくない喧騒を引き連れて、逃げていた。

馬はすでに限界を超え、口からはよだれが垂れている。


 だが、馬の様子を気遣えるほどの余裕はなかった。従者は、事あるごとに後方を確認している。


「もう少しだ!この丘を抜ければ!」


 高低差の激しい丘を走り抜ければ、従者の住む国が見えてくる。

馬もそのことに気付き、最後の力を振り絞り、丘を走り抜けようとした。


 だが、後方から追いかけていた相手は、従者がこの道を使うことを知っていた。


「がっははは!お前らがここを通ることは予想済みだぁ!!やれ!てめぇら!!」


「ひぃっ!?!?な、なぜだ!?もう振り切ったはずでは!!」


「おいおい、こいつはとんだ馬鹿やろうだぜ!お前らの国だったらお前らに利をあったろうさ?だが、ここは国境だ!そして、俺らの庭だぁ!近道なんざ、いくらでも知ってんだよぉ!!」


 丘を抜けた先に、20人を超える盗賊の群れが待ち構えていた。

数で圧倒され、力強く取り押さえられた従者は、激しく抵抗するが、「男はいらねぇ。殺せ」と、頭目らしき男に命令された部下に、ナタで喉をかき切られ、殺された。


 従者が引いていた馬車。豪華絢爛なそれは、上流階級の人間が中にいることを如実に表していた。


 突如止まった馬車。中にいた人物は不思議に思い、外に出てしまった。

煌びやかな衣装を纏い、まるで天女のように美しい女性が、現れた。


「何事ですか?そろそろ国に…え、?」


女性の目の前には、喉元を切られ力なく横たわる従者。

現実を受けとめられず、フリーズする女性。


「ほぉ〜これはこれは、噂に違わず綺麗な女だ。あんた、清廉潔白の乙女 マルファムル・ファン・バネルパークだな?」


「そ、そうですが、貴方たちは何者です!?なぜ、そこにわたしの従者が倒れているのですか!?」


「がっははは!この女、まだ自分の状況が分かってないみたいだぜぇ?」


「「「がっははははは!!!!!」」」


 頭目らしい男の声に、部下たちが笑い声で対応する。


「わ、わたしは、バネルパーク皇国の王にして、統治者!マルファムル・ファン・バネルパーク皇女ですよ!貴方たちのこの行いは、極刑です!し、しかし、今辞めてくださると言うのであれば、見逃します。ど、どうか、わたしをほおってどこかへ消えてください…殺さないで…」


 必死で訴えかけるマルファムル皇女。

しかし、頭目らしき男は、その様子に大笑いで答える。


「がっははは!俺は、今日という日をずぅぅぅっと待ってたんだぜ?今更、はいはいすいませんって消えられるわけねぇだろ?まずはお楽しみだぁ!!てめぇら、しっかり見張ってやがれよ!俺の後、てめぇらにも回してやるからよぉ!」


「「「あいよ!頭目!!」」」


 頭目は、マルファムル皇女の上に跨り、強引に行為に迫る。暴れ、抵抗する皇女だったが、それも虚しく、気付けば全てが終わっていた。


「はぁはぁはぁ…おい、てめぇら。後は好きにしろ」


頭目の発言に、「いよっしゃ!!!」と声が上がり、誰が次をするのか、じゃんけん大会が始まる。


「はぁ…つまらん。つまらんのぉ」


 突如、低く、ハスキーで、ただただ退屈そうな声が、響いた。

その声の発生源は、今、まさに蹂躙されていたマルファムル皇女からだった。


「おい、貴様。わたしほどの絶世の美女を前に、一度しただけで終いだと申すのか?はぁーーーつまらん。どうせなら、もっと摂取したかったが、貴様らの息子より、直接食らった方が、良さそうじゃの」


「ヴァール。ここいる奴ら全員、喰い殺せ」


「あいよ、嬢ちゃん」


 マルファムル皇女の命令。それに答える声。

その後、皇女の影が自ら動き出し、漆黒の蛇のようなものに姿を変えた。


 盗賊たちは、ナタや弓などの武器を構えるが、蛇の動きは俊敏で、ものの数分で、頭目を除く全てのものが、飲み込まれた。


「あ、あんた、なにもんだ!?その蛇は」


「貴様のようなつまらんやつに答える義理などない」


「あーーーーっむ」


ヴァールと呼ばれた蛇が大きく口を開け、頭目を飲み込んだ。


「ふぃー食った食った。ありがとよ、嬢ちゃん。久々に腹一杯だ」


「ふっ、ならば良い。清廉潔白の乙女、我ながらいい噂が立ったものじゃな」


「ああ、全くだ。本物は、数々の男を食い漁ってきたって言うのにな!」


「いや、その通りなんじゃが、言い方ひどくない?流石に、わたしも傷付くんだけど」


「はい、嘘。身体も心も繋がってんだからさ、嬢ちゃんの嘘なんて丸わかりだよ」


「うむ、分かっておる。冗談じゃ―――誰だ?そこにいるのは?」


 突如、皇女は、近くの茂みに言葉を投げつけた。

人っ子ひとりぐらいなら優に隠れられるほど、生い茂った茂みの中から、5、6才ぐらいの小さな男の子が現れた。


「あ、ああ、あの、えっと、その」


「なんじゃ、子どもか。小僧、近こうよれ。大丈夫じゃ、安心せい。何もせんよ」


 皇女は優しい声と笑顔を少年に向ける。

恐る恐る、ゆっくりと少年が近づいてくると、皇女は腰を下ろし、同じ目線に立つ。


「このことは内緒だぞ?お姉さんと約束できるか?」


「う、うん!出来る!」


「よぉし!なら行って良いぞ。ほら、街に帰りな」


 皇女は、女神のような笑顔で少年を送り出し、走っていく背中を見つめる。


「いいのか?子どもだぞ?」


「いいんじゃよ、子どもだ」


「はいはい、わかったよ。あーーーっむ」


一切、疑いを見せなかった少年を、後ろから漆黒の蛇が丸呑み。


「わたしは、老若男女平等主義者だ。子どもじゃろうと、脅威になりかねんからな」


「相変わらず、恐ろしい嬢ちゃんだよ」


「褒め言葉として受け取っておく」


 こうして、盗賊団の襲撃を難なく突破した皇女は、近くに落ちていたナタで自らの身体に傷をつけ、血みどろになりながら、自国へと帰還した。


 血みどろになった皇女は、自国につくや否や、門の前で倒れ込み、今まさに、従者たちによって、運ばれていた。

もちろん、倒れたのは芝居だったわけだが、運ばれている間、先程の盗賊のことを思い出し、考えに耽っていた。


 同盟国からの帰り道。

 重要機密である外交日が盗賊たちにリークされていたという事実。

なにより、帰り道が特定されていたということが、1番の気がかりだった。


 同盟国に行く際、命を狙われることを危惧し、行き道、帰り道は常に違う道を使うようにしている。

それがばれていた。

ならば、自国の中にスパイがいる可能性が高い。

それと、同盟国にもスパイが…いや、同盟国自体が、バネルパーク皇国を邪魔に思っている可能性もある。


 そこまで考えた所で、担架から医務室のベッドに置き換えられ、何種類もの魔法使った治療が始まった。

30分ほどで治療は終わり、ナタでつけた傷はキレイさっぱり無くなった。


 皇女は、術師に感謝を述べ、自分の部屋へと帰っていった。

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