第19話 お前らマジほんとそういうところだからな!?
下ろしてええええええええッッ!? という親友の絶叫が耳元で反響するが関係ない。
と言っても両手が塞がっていては喧嘩どころではないので、一度、親友の身体を宙に放り、空いた片手でみーちゃんを背負い直す。
その曲芸じみた一連の荒業を走りながらやってのければ、ガラクタ踏みしめてやってくる三体の巨人めがけて突貫していった。
「いいいいやあああああああああ!!」
みーちゃんの叫びがドップラー効果を生み、振りかぶる巨大な拳が地面を掬いあげるように髪を掠める。
おそらく標的をわたし一人に定めたのだろう。
殺到する三つの質量が容赦なく蹂躙するかの如く暴れ始めた。
一発でもまともに当たればお陀仏な代物だ。
背中にはみーちゃんがいるし、被弾は許されない。だが――
「おせぇッッ!!!!」
所詮はでくの坊。機動力のない身体ならばいくらでもやりようはある。
みーちゃんの身体に気を使い、緩急をつけて荒れ狂う拳の全てを余裕をもって回避するれば、痺れを切らしたのか三つの拳が同時にわたしに襲い掛かってきた。
本来ならば、ここで『砕いて』やってもいいのだが、それでは後ろのみーちゃんの身体に負担がかかる。
(それは絶対に避けなきゃダメだから、ここは面倒でも――各個撃破!!)
という訳で大振りに振るわれた拳の下を潜り抜けるように身体を潜り込ませ、意識的に己の内側に集約した魔力を一気に体内にめぐらせる。
肉体強化。
全身の筋肉に魔力の補助が掛かり、身体が羽毛のように軽くなる。
その常人離れした跳躍力を駆使して、ガラクタ巨人の肩に飛びつき、居合抜きの要領で回し蹴りを敢行。
コンクリの地面をへこませるほど強力な威力を秘めた蹴りは、粘土細工のように巨人の頭部を天井にかち上げた。
クルクルと回るブサイクに歪んだ頭部が宙を舞い、首のない四肢がもとの物言わぬガラクタへと還っていく。
「一体目ぇ!!」
そのまま崩れつつある足場をバネにすかさず拳を振り上げれば、標的を見失った二体目の巨人の胸部に拳を叩き込んだ。
交差する事もかなわず虚しく振り抜かれた拳は誰に向けたものなのか。
ゴシャッとガラス細工のようなものが醜く砕ける音が拳に伝わり、遅れてやってきた衝撃が派手な破壊音を立てて巨人の胸部を抉る。
二体目、撃破。
そして――
「ラストォおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
と言って空中でみーちゃんを頭上高く放り投げれば、守るべき上司の口から「神無ちゃああああああああああんッッ!?」という甲高い悲鳴が上がった。
許せみーちゃん。アンタに無用なケガをさせたくないんだ。
決してその抜群のプロポーションに嫉妬したからではない。
そうして一人転がるようにして地面に着地すれば、振り向きざまに迫りくる脆い拳に拳骨を合わせる。
もはや長年の勘ともいえる身体に染みついた動作が、一切のブレなく巨人の急所を的確にとらえた。そして――
「チェストおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
己の中に溜め込んだストレスを発散するかの如く拳を握り締め、咆哮を上げれば、
ゴッッッッシャアア!!!! と鋼の如く固めた拳骨が自転車の指を容易く砕き、その不出来な右腕そのものが後方に吹き飛ばされていった。
大きく弧を描いて飛んでいくガラクタの腕が、ゴミの山に突き刺さり末端から徐々に青い粒子に還っていく。
この間、三秒も満たない早業である。わたしとしてはもっと遊んでやりたかったのだが――
「なんだよもう終わりか、つまんねぇなおい」
まっ、所詮は意志のない人形と言ったところか。
鼻を鳴らし、僅かに痺れる拳をプラプラと振るえば、ギギギギッと不吉な音を立て始めたガラクタの身体が突如として崩れ始めた。
おそらくインパクトの際、ガラクタの巨人を構成する『何か』を砕いたのだろう。ついには案山子みたいなブサイクの顔が急停止し、無念とばかりに傾き始める。
そうしてついに自重を支えきれなくなったラクタの巨人が、ゴシャッと無様に膝をつく頃。
「たーぁああすーぅううけーぇえええてーぇええええええ!!」
と物理法則に従って天井から両手をバタつかせて落ちてくるの親友の姿が見えた。
女の子らしい悲鳴を上げながら重力に従って落ちてくるみーちゃん。
落ちてくる姿も天真爛漫で、ほんとかわゆい。
そのまま「おーらーいおーらーい」と車庫入れのアルバイトの如く、少しずつ位置を調節しながら両手を宙に構えれば、屈伸を使って優しくキャッチする。
都合、八メートルくらいの高い高いだったが、さすがはわたし。
身体は無傷、なんともない。無事なようで何よりである。
そんでもって――
「これで文句ねぇよな、ああん」
そう言ってドスの利いた声で後ろを振り返ってみれば、事の顛末を見届け、
「あれ? これちょっとやり過ぎなんじゃね?」と引き気味な反応を見せる怠惰なクソ野郎二人の姿があった。
――おい、マジでどついたろうかその二人。
すると高々と打ち上がったガラクタの巨人の残骸がばらばらと音を立てて地面に落ち、我に返る凛子。
動揺したのを悟られまいとしたのか、あからさまに大きな咳ばらいを打つが上手くいってない。
そうしてようやく満足のいく咳ばらいを打てたのか何食わぬ顔でわたしに近づいてくると、まるで噴火寸前の猛獣を宥めるようにポンと手のひらを肩に置き、
「さすがは百鬼夜行の神無。見事な手際ですわ。それでは早めに探し物を終わらせてしまいましょうか」
と何食わぬ顔でシャカシャカ仕切りだすクソッタレのその一言に、今度こそ今まで押さえつけていた堪忍袋の緒が切れるのであった。
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