激闘!全太陽系高校野球選手権

「冥王学園高校、敗退――!」


 新兵庫県、新明石市、甲子園球場コロニーは大いに湧いた。冥王学園高校といえばご存知、強豪である。安打率9割を誇る伝説のバッター、センチュローを輩出したことで知られる、あの冥王学園。


 それが敗れた。


 冥王学園高校の生徒は、この100年間、冥王生はだれもしてこなかった甲子園の砂を野球帽を入れるという屈辱的行為に身をやつすことになったのだ。


 一体誰が?


 冥王球児を下し、太陽系中にその名を轟かせたのは一体何者か。実況者は興奮した様子で大物殺しダビデの名を高らかに叫んだ。


「か、勝ったのは、沓流府くつるふ高校! 沓流府高校です!!」


 甲子園初出場の高校だった。異例の戦績を叩き出し続けるかの高校は今年の甲子園を大いに盛り上げた。だが、誰も。冥王学園が負けるとは、思っていなかった。


「緊急国際交流試合を行う」


 地球代表米子棒縷べいすぼうるハイスクール理事長、弩鳴怒どなるどの求めに地球の強豪校はことごとくが応じた。はじめから、今年の甲子園はどこか不穏な動きが観測されていた。それに加え、この番狂わせ――


 沓流府高校を優勝させるわけにはいかない


 理由はなくとも、誰もがそう感じていた。


 さて、そんな国際交流試合に参加する者の中に一人、甲子園コロニーから一度、帰宅してきた者がいる。留学生枠ということで甲子園に参加していたのだ。


 厄玉高校二年、本庄時一郎。留学先はそう、かの冥王学園高校である。


 本庄時は五芒星の中心に目を描いたエルダーサインを自前のバットに刻み、誓いを立てる。


 ――次こそは必ずや、沓流府を下す。


 米子棒縷べいすぼうるハイスクールには一名、欠員が出ていた。あの試合――冥王学園高校が敗退することとなった運命のゲーム――を直視した結果、発狂してしまった者がいたのだ。


 この国際交流試合は、欠員を埋める選手を決めるためのものでもある。


 太平洋の真ん中に用意された特設球場にていま、高校球児たちの、人類の運命を決する試合が行われようとしていた。


 ―― 三 年 後 ――


 皆様もご存知のことだろうが、甲子園は3年かけて行われる。全太陽系の高校が集うのであるから、それだけの時間がかかるのも当然であろう。


「沓流府高校、敗退――!」


 新兵庫県、新明石市、甲子園球場コロニーは大いに湧いた。

 沓流府高校の生徒らは「いあいあ」と口にしながら甲子園の砂を野球帽に詰めている。

 マウンドの中心。そこでエルダーサインの印のついたバットを掲げる選手がいる。サヨナラ逆転ホームランを決めた彼の名を、皆さんはもうご存知だろう。


「本庄時一郎選手ッ! 三年前の雪辱を果たしましたァァ――!」


 かくして、太陽系の平和は守られた。向こう三年、邪神がやってくることはない。

 邪神の到来を防いだのは、ただ一人の少年の、狂気にも似た執念であった――。


(お題「帰宅」「砂」「国際交流」)

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