親近感の湧く三白眼な萌え擬人化娘って

「親近感の湧く三白眼な萌え擬人化娘ってどんなんだと思う?」

「――は」


 なにを言ってるんだ、こいつは。

 錫杖握り、いつもの笑みで下らないことをのたまうその男に私は呆れを抱く。改めて、なにを言ってるんだ、こいつは。


「そんな下らないこと言ってる場合じゃ――」

「オレァ、この錫杖がそうなんじゃねえかと思ってる。こいつァ元々オレの妹のモンでな、そいつがそりゃあもう見事に人相の悪いカオしてたんだ」

「悪口じゃねえか」

「ちげえよ。オメェはもっと情ってやつを学びやがれ。いいか? 目つきが悪いってのは魅力だ。そこらの黒目がデカい女の何倍も魅力的なモンなのさ」

「ほお。でもなあ、擬人化した持ち物が持ち主に似るとは限らねぇだろ?」

「……ああ。そうだな。そんじゃ、お前はどう思うんだ? 聞かせてくれよ」


 ――この話、まだ続けるか。

 アホらし、とは思うがまあ今は。こいつのさせたいようにさせてやるべきだろう。


「どうだろうな。とりあえず、何かこう、とげとげしいものなんじゃないか? 三白眼のイメージ的に」

「浅い」

「うるせえ。文句つけんな。攻撃的なイメージがあるもんだろ、三白眼と言やあ」

「親近感の湧く、ってェ条件を忘れてねえか?」

「ふむ。親近感、という言葉をどう定義するかが問題だな……」

「小難しいコト言ってんじゃねぇよう」

「…………とりあえず、ここでは『高級すぎない』と定義してみよう。日常に近いところに位置しているものだ」

「ヘェ。そんじゃあどういうモンがいいと思うんだい?」

「そうだな……剣山とかじゃないだろうか」

「剣山を日常的に使うのは華道やってるお前くらいのモンだ。アホ」

「なっ……和服三白眼お団子美人はお気に召さないと!?」

「勝手にイメージ作り上げんな。つーか和服でお団子で美人ってそれ、お前ンとこの女中さんじゃねえか」


 畜生。こういう時ばかり察しがいい。


「ハー、やめだやめ。生産的な結論が出る気がしねえ」

「…………ま、こういうのも私たちらしいじゃないか」


 締まらない終わり方だが。ヘンに湿っぽくなるよりずっといい。今は不思議と、そう思える。

 腹に空いた穴は、結局塞がらなかった。再生を阻害する呪いのようなものが込められていたのだろう。

 相方の方はというと、私より重傷だ。下半身が完全に吹き飛んでる。それでも表情は穏やかで、

 妖怪退治は長年やってきたが、まさかこんな穏やかな死を迎えられようとは思わなかった。

 結果は相打ち。報酬は、……不本意なことに私の父親が受け取ることになるだろう。退治屋の風上にも、いや、ヒトの風上にも置けぬあの男が。

 悔いがあるとすれば……まあそのくらいか。

 ほかはなんにもない。こいつと一緒に死ねるという点も込みで、悪くない最期だ。


「ダメなんだよ。このままじゃヨォ」


 しかし、こいつは不満があるようだ。


「お前、なにを考えているんだ?」

「………………オレァよ、死んだら親近感ある三白眼の萌え萌えな女の子に墓参りしてほしいンだ」

「――は」


 なにを言ってるんだ、こいつは。

 本当に、なにを言ってるんだ。


「そんな親友の最期の望みを叶える手伝い、しちゃあくれねえか。未練なんざネエってツラすんならよォ」

「…………具体的に、どうすればいい」

「その魂を、オレの願いのために使ってくれ」



 それから、あいつは最後の力を振り絞って(そんな力がどこに残されていたのやら)大妖術――というか禁術を発動させた。

 魂魄遊離。人間の魂を自在に移動させる、とんでもない術だ。どこでそんな術を知ったのか、誰に習ったのか。それは今を以て分からない。

 ただ一つ、確かなのは――


「……ったく。結局お前は妹に墓参りに来てもらいたかっただけなんじゃないのか?」


 私は今もなお、生きているということだ。

 黒髪黒目。三白眼のボブカットの少女。あの錫杖の前の持ち主だという、あいつの妹そっくりの姿になって。

 ――魂には、モノの形を変容させる性質があるらしい。ゆえに、魂魄遊離は禁術に指定されている。

 つまり、モノにヒトの魂をブチ込めば、そのモノはいつかヒトの形をとるということだ。もっとも、その容姿はモノに影響されると聞く。つまりはまあ、擬人化のようなものである。


 私は墓前にワインを置く。こいつが生まれた年のものだ。大人になったら一緒に飲もうと約束していた。

「…………あまり、美味くないなこのワイン」

 ――ンだとぉ、そんなこたァ……あるな。

 目をつむれば、あいつがすぐそばにいるかのようだ。

「約束の日より、随分と遅れてしまったが。お前と一緒に飲めて良かったよ」

 それから、私は色々なことを語った。こいつが死んでから起きた出来事をとりとめもなく。つらつらと。

 会話は、夜明けまで続いた。


 まったく、身勝手な奴だ。私にばかり喋らせて。最期の望みだなんだと言って勝手に性癖を満たして逝きやがって。あの世に行ったら、あいつに何をしてもらおうか。


お題:「親近感」「三白眼」「萌え擬人化」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る