第6話 あの世にも、楽な仕事なんてない。
「先ほどの話の補足をしましょう」
田中さんの家も近づいてきた時、シニーがおもむろに口を開いた。
「成仏に大切なのは未練。しかしそれは個々人の感情。揺れ動きます。そこで、未練を固定する必要があるんです」
「未練を固定?」
「はい。今回の場合、上書きされた死後の感情が未練になります。これを晴らすことで田中さんは恐らく成仏されるでしょう。しかし、何らかの理由で他の感情にさらに上塗りされる可能性ももちろんあります。そうなると、成仏はより難しくなる」
「ふむふむ?」
「そこで、手紙を書いてもらうことで、田中さんの感情を手紙に集中させる、というワケです。これが、嘘をついてでも手紙という手法を用いる理由の一つでもあります。一度きりの手紙であれば、なおのこと、人はそこに意識を向けますからね」
ちゃんと考えられているんだなぁ、と感心する。
正直、シニーは得体が知れない。そもそも死神という存在すら得体が知れない。何をやっているのか、それが果たして正しいのか、言うことは真実なのか。それらすべてを、私には確かめるすべがない。
しかし、なんだかこういう理にかなった説明をされると、納得せざるを得ない。
「さて。つきましたよ。行きましょうか」
前回と同じように、壁を突っ切って仏間へと向かう。仏間へ入ると、やはり先日と同じように奥さんが仏壇を見てぼうっとしていた。田中さんは、そんな奥さんを心配そうに見つめている。その手には、手紙が握りしめられていた。
「あ、死神さんたち」
田中さんがこちらに近づいてきた。そして、少し分厚くなった封筒をシニーへ渡した。
「長くなったが、ここに俺の思いが全部書いてある。これを妻に、渡してくれ」
「確かに承りました。お任せください。責任もって、必ずお届いたします」
「よろしくお願いします――」
シニーは受け取った手紙を鞄にしまうと、田中さんに次のように伝えた。
「近日中に手紙はお届けいたします。そしてそれと同時に、もう一度お邪魔させていただくことになります。成仏のお手伝いをさせて頂くと共に、大変恐縮ながら、第二の最期を看取らせて頂きます」
「――わかった。重ねて、よろしくお願いします」
「はい。お任せください」
あっさりと手紙の受け取りが終わり、私達は帰路に着いた。
「さて、じゃあこれで後は現世郵便課ってとこに手紙を届ければ仕事は完了だね」
といったものの、私は一度も冥界に行ったことがないので、どこに行ってどうすればいいのか、てんでわからないが。
しかしまぁ、これで初仕事もひと段落――。
「何言ってるんです。そんな課ありませんよ」
「――――――――え?」
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