自堕落な俺、血達磨な街。

博士の異常な愛情

始まり始まり

【第零ノ壱話】誰もが忘れていく、暗いプロムナード。

 ――何がなんだかわからない。先程の出来事に動揺を隠せないのは、致しかたない。

 黒霧から脱出した男、膳所凛太郎ぜぜりんたろうはいきなり目の前に現れた屈強な男達――否。いきなり男達の前に転移し、走っていたため勢いよくぶつかり反動で倒れこんだ。

 こんなこと、あるはずがない。いや、あってはならない。この地球の現代技術において、物理法則を捻じ曲げることがあってはならない。物理法則が関係するかどうかは知らんが。

 尻もちのダメージを軽減しようと、反射的に出した両手の皮がめくれているのを確認すると、ジンジンと熱い痛みが神経を刺す。「……ア゛!?」と、あきらかにキレた声を発しながら振り返る男達。男達の顔は、ホラーゲームのクリーチャーみたいにゴロゴロと眼球が顔面に敷き詰められていた。あまりにも非現実的な出来事で、現実味が遠ざかる。――ここは現実ではないのか?夢?


「…… !ヒィ!」


 咄嗟に出た声は恐怖で、かなり裏返ってしまった。――落ち着け、俺、落ち着くんだ。

 一度大きな深呼吸をし、怖いので、(というか気持ち悪いので)男達から目をそらす。物語の途中急に冷静になる事が多々あるが、本当にあるのかと思うくらい、精神が安定する。状況を把握しようと辺りをキョロキョロと見渡した。今俺がいる場所はどこかの路地裏だ。壁には、訳のわからない落書きがあり、そこをうように太さがバラバラのパイプが張り巡らされている。左右の建物の大きさから、何かのビルの間ではないのかと推測した。


「なァ、兄ちゃん。俺の背中がい痛ぇんだが…… 、死んで償えや。」


 鬼の形相で俺を睨む。顔に眉間が無いとはいえ、声色で解った。ぶちゃけますと、かなり怖い。早くお家でぬくぬくしたい。今日だけでも早く帰りたい。

 すると、男達は腰につけていた鉄パイプや、金属バットを持って今度は勢員が睨んできた。そしてリーダーっぽい男が声を荒げてこう言った。


「やっちまえ!!」


――ヤバい、こんなのくらったら一溜りもないぞ!死ぬ!


「気づくのが遅いぞ、青年!」


 刹那、目の前に現れた黒い影の正体は、電話ボックスのようなものを背負った少女だった。考えが追いつかないくらいの速さで、パーカーのポケットから、複数体の藁人形わらにんぎょうと、五寸釘を出した少女は左手に持つ藁人形めがけて、五寸釘を打った。

 その時、グシャリ、と、音をたてながら周りにいた男達の心臓部が破裂し、血飛沫ちしぶきをあげながらバタっと、倒れた。


――何が…… 、どうなっているんだ!?


「魔法を使っただけさ。ちょっとしたね。」


 頬に付着した血液を手で拭いながら言う。


「お前、心が読めるのか?」


 呼吸が荒くなり、漠然とした不安が湧き出る。俺も殺されてしまうのではないだろうか。


「読めるよ、心。あと殺さないから、君は依頼されてないし。」


 血でベトベトになった白い紙マスクを外す。路地の隙間から差す夕日が起き上がった少女の顔の位置にちょうど来て、はっきりと顔があらわになった。一言で言うと美少女だ。


――……、依頼?殺し屋か何かか?…… 物騒ぶっそうだな。


「大体あってる。でもこの事は内緒ね。ばれたら不味い。言ったら君も殺すよ。」


 はにかんで笑いながら、両手で握ったカランビットナイフを此方に向けてきた。

――危ないです。怖いです。やめてくださいお願いします。

 ふぅ…… 、とため息をつきながらナイフを腰にしまう。


「それはそうと、なぜ喋らん。なんだ?遊んでいるのか?」


「……いやごめん。そういう訳じゃない。ただ、……状況が掴めん。」

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