第二十九話「ガトリング砲搭載山車と明鏡止水の斬撃~川越の興廃此の一戦にあり~」
☆ ★ ☆
「来たぞ! 撃てぇーーーーーーーー!」
新が叫ぶとともに、川越各町から銃撃が開始された。
対空射撃のメインは山車(だし)を武装したものであり、新自ら乗りこんでいる。
そして、山車には、試作ガトリング砲が装備されていた。
――ズドドドドドドドド!
強烈な対空砲火により、攻め寄せてきた魔族の先陣は空中で爆裂四散する。
(開発が間に合ったのは僥倖だったね!)
この世界ではオーバーテクノロジーもいいところのガトリング銃。
新は、市長になる以前から川越の防衛について考え続けていた。
川越市役所に保管されていた川越市史を紐解けば、川越は過去に何度も戦乱に見舞われていた。特に戦国時代の川越城の戦いは有名だ。
ゆえに町の発展を進めつつも防衛力の増強は新の政治家として命題であった。
なので秘密裏に鍛冶屋に鉄砲を作らせ、さらに強力な銃砲の研究を続けてきた。
「ま、山車を武器に使うなんて罰当たりだろうけどね! でも、許しておくれよ! ご先祖様たち!」
川越城主に仕えた家老の末裔でもある新は、最前線に出ようとする新を止める小江戸見回組たちを押しとどめて山車に搭乗した。危険は承知の上だ。
道也や川越娘たちが最前線に立っているのに自分だけ安全な市庁舎に籠ることなど到底できない。大好きな川越を守りたい気持ちは誰にも負けるつもりはなかった。
「川越の興廃此の一戦にあり! 各員、最後まで戦い抜け! 川越祭開始だぁーー!」
新の叫びに応えるように、川越各町から勢いを増した銃撃が空に向けて放たれていった――。
☆ ☆ ☆
市街地方面で激しい銃声が鳴り響いても、道也の心は冴え渡っていた。
ひたすら四天王の動きを見続け、無我の境地へと埋没していく。
最初はまるで見えなかった槍の動きが、手に取るようにわかる。
(……初音、わかるぞ、俺にも、わかる)
初音が居合の技を出すときのように、軽く腰を落とす。
刀ではなく銃剣だが、気にならなかった。
「くぬっ」
「こやつ」
「なぜ攻撃が」
「当たらん」
四天王たちの声に戸惑いと苛立ちが滲む。
無理もない。最初はほとんど命中していた攻撃が、完全に見切られているのだ。
「……」
対する道也は、ひたすら無言。
研ぎ澄まされた集中力によって、殺気すら消えていた。
もはや明鏡止水の境地に至っている。
(……守る。初音を。みんなを。川越を……)
「死ね!」
「勇者!」
「去れ!」
「この世界から!」
そのためには、まず目の前の敵――四天王を排除する。
道也は槍の四連撃をかわすとともに、最後に攻撃をしてきた赤い兜の魔将に向かって踏み込み斬撃を放つ。ずっと、回避に徹していたところから――初めての反撃。
異能の力を込めた斬撃は光の刃となって日本刀並みのリーチに変わる。
振り切ったときには、音もなく赤兜を真っ二つに両断していた。
「なんだと?」
「バカな」
「なにが起きた!?」
驚愕する残り三人に対して、道也はあくまでも冷静だった。
斬り下げた剣を、今度は振り上げながら青兜に放つ。
虚を突かれた青兜も為すすべもなく両断された。
「ぐぬっ!?」
「このっ!」
反撃に移る黄兜と黒兜の槍を下がりながら回避しつつ銃撃して――今度は黄兜を逆に仕留める。あれだけ苦戦していたのが嘘のようだった。
極限まで高めた集中力によって、勇者の力を最大限に高めることができているようだ。
「貴様!」
最後に残った黒兜は、槍を投げてきた。
「……」
それは道也の顔のすぐ横を通過していく――そのときには道也は二度目の引き金を引いていた。
銃声が響き渡り、最後の四天王も呆気なく霧消した。
「………。………やったか」
たった十秒にも満たぬ攻防だったが、何時間も戦っていたかのようだ。
だが、初音とのこれまでの鍛錬の成果を生かして続けざまに四体を屠ることができた。
一気に四体を殲滅できたのは上出来だが、精神的な疲労がドッと押し寄せてきた。
しかし、まだ戦いは終わっていない。
(状況は……?)
辺りを見回すと、敵部隊はこちらを遠巻きに囲んでいる。
四天王が倒されたことで魔族たちにも動揺があるのか、腰が引けていた。
「……来いよ。おまえら全員、俺が……『勇者』の俺が、倒してやる!」
『勇者』という言葉に魔族たちは、文字通り目の色を変えた。
青から赤へ。瞳が攻撃色に染まり、理性を失ったかのように殺到してくる。
(なら、それを撃つだけだ)
四天王を相手にしたあとだと、ほかの魔族たちの動きはスローモーションのように見える。小隊長クラスの魔族は、もはや敵ではない。
道也は異能の力を銃弾に瞬時に変換し乱射――否、精密連続射撃――する。
大気を劈(つんざ)く銃声が鳴り響き、魔族たちは次々と雲散霧消していった。
だが、魔族は止まらない。
こうなったら数で押し切ろうという考えのようだ。
全方位から、剣に槍に弓矢、鎖鎌など多種多様の武器が襲ってくる。
戦闘種族というだけあって、ありとあらゆる武器を操るようだ。
それでも道也は、どこまでも冷静だった。
無慈悲に、無感情に、無差別に、すべての魔族を殺戮していく。
(本当に勇者っていうのは、魔族にとっては最悪の存在だろうな)
手際よく魔族を鏖殺(おうさつ)していることに、自分でもゾッとする。
だが、やらねばやられる。
大事な人たちを、川越を守るために――道也は心を鬼にして魔族を倒していった。
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